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名前のない物語〜ドクとナリ〜

『使えねぇ奴は失せろ』
『お前なんか生きてる価値ねぇ』
『あれ、なんか声聞こえるけど、気のせいだよな?俺たち以外、いないよなぁ!』

昔から除け者扱いだった。教えられたことをうまく出来ず、失敗しかしていない。成功したことが一度だってあるのだろうか、と自分を疑いたくなる程、ドクは人生の生き辛さを感じていた。
両親はいるし、兄弟も魔法を教える先生や王城の警備兵として立派に働いている。親兄弟は普通に生活出来ているに何故かドクは、昔から買い物さえろくに出来ない。
どうしてこんなにも出来ない人間なのか、ドク本人が一番嫌気がさしていた。

ある日、仕事で果実を探しに森に来た。
ドクは単純だけど、ある程度自由が許される仕事を好んだ。最初にやり方を教えてもらい、それが体に染みつくまでは、慣れているものと共に仕事をする。一人で出来ると分かったら、独り立ち。
森で果実を探す仕事は1日働いて5000リルになるかどうかだが、それでも食事をあまり取らないドクにとっては十分な収入だった。

『ェ...ケェ...』
『グェー!クェッ!』

飛空魔法で森の高い位置にある美味しそうな果実を見繕って背負った籠へ集めていると、鳥の声が聞こえた。声の様子から喧嘩をしているようだった。
興味本位で声のする方へ行ってみると、小さな雷鳥が体の大きな3匹に雷鳥いじめられていた。

『ケェ...クェ...』
『ケェー!!』
『ギュェー!!』

いじめられている雷鳥を見ると、胸が苦しくなったドク。

『何度言えば分かるんだ!この馬鹿野郎!』
『さっき言ったわよ?ついさっき、1分も経たない前に教えたのに、どうして出来ないのよ!』

教えられたことがうまく出来ない。いつも責められ、怒られてばかり。いつだって迷惑をかけるのは自分...
自分の悪い所を直したいのに、色々な本を読んだり、賢者の話を聞いたりしているのに、一向に改善されない。
どうすれば良いか分からないけれど、いつも怒られる。そんな自分を見ているようで、ドクは思わず炎魔法を繰り出した。

『やめろ!弱い者いじめはやめるんだ!』

突如火に囲まれた3匹の雷鳥は驚き、すぐに逃げ出した。

『クェ...』

野生の雷鳥なのだろう。人間を間近で見ることに、助けてくれたことに驚いていた。
小さな、羽をたくさん傷つけられた雷鳥と目が合った。
その時、お互い思った。
ようやく、分かり合える仲間を見つけた、と。

「これがナリとの出会いってわけよ!感動ものだろぃ!」
「すげぇ!ほんとにドクはすげぇ!カッコいい!」

ドクが雷鳥ナリとの出会いを語った相手は、まだ世界を知らない赤眼の少年クルトに対してだった。
クルトは甘えたがりの為、アカリの胡座の間に腰を落ち着かせて、ドクの話を聞き入り、拍手をして賞賛の声をあげた。
アカリは周囲に警戒をしつつ、ドクの話を聞いていた。実際、アカリが座っていられるのもドクの結界魔法のお陰だ。
レベルの高い魔法を操りながらも、リラックスしているドクは、良い魔術師なのだと感じた。
きっと、ドクの生きてきた世界は、一般的な社会よりもレベルが高いのかもしれない。実際、魔法の一つも使えないアカリからすると、複数の魔法を操れるドクは尊敬に値する人間なのだが...これを言うと調子に乗って、下手をする可能性があるので言わないでいた。

「アカリさん、ドクは本当に凄いね!」
「...そうだな...もう寝ろ、クルト、ドク。明日も早い」
「はーい」

クルトのまだ話を聞いていたい、目を輝かせてアカリに甘える様は酒場で身についた技だろう。この態度できっと高いメニューを注文させていたに違いない。
そんなことを考えながら、アカリは二人が眠るのを見守った。
まだ、アカリとクルトの旅が始まって間もない時、仲間になるのは皆はぐれ者、そんな話

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