帰り道、いや帰り空か

 6月27日(木)、釜山からの機内にて記す。

 昨夜、スタジアムからホテルまではシビれて帰ったが、翌朝はもう落ち着いていた。
 ACLラウンド16第2戦では、やるべきことをやって、決めるべきところを決め、ベスト8に進むために必要なゴールを挙げた。そんな感じだ。

 数字で言うと、ボール保持率は今回も64対36で第1戦とほぼ同じ。シュート数もメモによるとレッズが16本で蔚山が4本と大きくは変わらない。ただしレッズの枠内シュートは10本で第1戦よりも増えていた。GKがようーブしたものもあった。
 単純に第1戦より2点多いというのはその差、とも言えるがその差を生み出すための練習があった。この日2点を決めた興梠は「第1戦ではチャンスに決めることができなかったが、今日は決められた。その違い」と試合後に語っていた。何が変わったというのではなく、全体の底上げ、大槻監督がよく言う「積み上げ」だろう。

 もう一つ勝利の要因かな、と思うのは、得点状況によって結果が天国と地獄の違いがあるノックアウトステージの第2戦で、レッズは試合を通して戦い方を大きく変えなかったということだ。
 0-0のうちは、ゆっくり試合を進めカウンターを狙う蔚山に対して、無理はしないがボールを保持してチャンスをうかがうレッズという図式だった(単純に言えば)。
 1-0で迎えた後半は、もう1点取られると劣勢になる蔚山がますます時間を使うようになりあせりも見え始めたが、レッズは前半と変わらないペースで攻撃を続け2点目を奪った。
 大事なのはその後だった。レッズと蔚山の立場が逆転した。時間を見ると後半35分。ちょっと早いんじゃないか、と思った。あのまま蔚山にのらりくらりと試合を続けさせ、40分過ぎぐらいに2点目を奪えば、残り7~8分を守り切ることはできるだろうが、まだ10分から13分ぐらいある。相手の交代枠も残っているし、守り切るには苦しい時間ではないかな、と。
 だがレッズはそこで守りに入らなかった。相手がパワープレーを仕掛けて来たから引いて対応せざるを得ない部分はあったが、無理をせずにボールを保持しチャンスにしっかり決めるというスタンスは試合開始から大きく変わらなかったに違いない。。
 結局、レッズが明らかに守りに入ったのは3点目が入った後だった。

 得点状況に右往左往せず、自分たちの戦いを貫いたレッズ。そこには、練習に裏打ちされた選手たちの自信があったと思う。それは第1戦が終わってからの6日間だけではなく、大槻監督が指揮を執り始めてからの約4週間、もっと言えばこれまでチームが積み上げてきたもののうち、何を大事にしていくか、的確に判断し研ぎ澄ませてきたからだろう。

 一昨年のACLノックアウトステージはラウンド16と準々決勝で、いずれも第1戦で2点のビハインドを背負い、第2戦のホームで逆転勝ちした。今回はホームとアウェイの順が逆で、第1戦ではアウェイゴールを与えず、できれば複数得点して勝っておくことが理想だと言われていた。しかし終わってみればアウェイゴール2点を奪われての負け。一昨年よりかなり劣勢で迎えた第2戦アウェイだと思われたが、試合後に長澤和輝に聞くと「不利だとは思っていなかった。第1戦は負けたのではなくビハインドの状況だと受け止めていた」と、メンタル的には全く問題なかったことを明かした。

 選手たちがそういう気持ちで臨んだことの背景には、第1戦の終了後、挨拶するチームに対してサポーターが送った「浦和レッズコール」と「赤き血のイレブン」があるだろう。さあ、来週の後半アウェイで逆転するぞ、という意思がしっかりと込められていた。たとえ、あのコールがなくても選手たちはメンタルをしっかり持てただろうが、サポーターとの一体感があるとなしでは、やはり違う。
 だからこそ、大槻監督も第2戦後の記者会見で「先週のゲームの『後の』サポーターの後押し」と試合全体の応援ではなく「試合後」というふうに言ったのだ。まったく、サポーターの応援を細かいところまで肌で感じている監督だ。

 そして今回は700人が蔚山を訪れた。全入場者の2割強ということになるが、ゴール裏同士を比べると蔚山側が気の毒になるほどホームとアウェイが逆転していた。日程がシーズン当初から決まっているグループステージと違い、相手が確定したのは5月7日、レッズの出場が決まったのは21日である。そんな状況なのに今季アウェイ最多の集団となって、3-0という最高の結果を引き寄せた。日本一、ACLにこだわるサポーターだと言って間違いない。

 これでACLは約2か月あく。その間にリーグ戦が9試合あり、天皇杯も2~3回戦がある。どういう状況で準々決勝を迎えるかわからないが、ぜひそれぞれの試合で我々を驚かせるような内容と結果を見せていって欲しい。
 次の公式戦はリーグの大分戦。2004年を最後に勝っていない大分ドーム(昭和電工ドーム大分)で、現在上位の大分を相手に勝ちを収めることが、6月1日以降続いている大槻マジックの4回目になる。釜山からの帰国便の中で、大槻監督の分析回路は盛んに活動しているだろうか。いや、このときぐらいは休んでもらいたい気がする。


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