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清尾くん

 生まれたときからずっと同じ場所に住んでいるとは別として、大人になってから初めての地に住み始めた人は僕と同じ感覚かもしれない。

 仕事にもよるだろうが、若造のころはともかく、仕事相手の人からは僕であれば普通「清尾さん」と呼ばれる。

 会社の直接の先輩や同僚などからは「清尾くん」や「清尾」と呼び捨てにされることも少なくなかったが、それも年齢を重ねていくと、「清尾くん」とはあまり呼ばなくなり「清尾さん」になっていく。たまに「清尾ちゃん」と呼ばれることもあったが、それは「清尾くん」では他人行儀だし、「清尾」では偉そうだから、その中間の呼称だっただろう。

 48歳を前にして会社を辞め、独立してからは仕事でも近所でも(あまり付き合いはないが)ほとんど「清尾さん」と呼ばれるようになった。可愛がってくれる、だいぶ年上の人の中には「清尾くん」と呼んでくれる人もいたが、ごく少数だった。名刺にそう書いてあるので「清尾社長」と呼ぶ人もいるが、少し親しくなるとみんな「清尾さん」である。
 断っておくが別に「清尾さん」と呼ばれることが嫌なわけでは全くない。普通に受け止めている。

 その呼称がガラリと変わるときがある。
 先々週と昨日、石川県時代のクラス会が行われた。8月26日は高校1年生のクラス会。27日は小学生時代のクラス会。9月9日は高校3年生のクラス会だった。コロナにより大人数での飲食を自粛する時期が約3年間続いたが、もういいかな、ということで開催された。言い出しっぺはだいたい僕だったが。

 そこでは「清尾さん」という呼称はほとんど使われず、最初は「清尾くん」で少し経つと「清尾」となる。
 呼び捨てにされることがなんと新鮮な気持ちになるか。中には「清尾淳」とフルネームで呼ぶ人もいる。高校時代からそうだった人だ。僕との力関係を想像してくれればいい(笑)。

 特に新鮮でうれしいのが女性(みんな66歳~67歳の、ワクチン接種優先世代)から「清尾くん」と呼ばれることである。ここ何十年と日常生活で女性から「清尾くん」と呼ばれたことなどないが、同窓会のとき女性はほとんど「くん」付けで、「清尾さん」と呼ぶ人はいなかったと思う。
 小学生時代の同級生の中にはいまだに「淳ちゃん」と呼ぶ女性もいた。僕の小学校は各学年1クラスで20人前後だったから、1年から6年まで転校がない限り同じ顔ぶれだった(5年生のとき、近隣の小さな小学校と合併して6人ぐらい増えたが)から、みんな親しくまさに幼なじみなのだ。この歳になって親戚以外で「淳ちゃん」と呼んでくれる女性などどこにもいない。さすがに女性で呼び捨てにする人はいなかったな。

 僕の同窓会の楽しみは酒や食事ではない。
 どの会でも、料理はだいぶ残った。みんなしゃべるのに一生懸命で食べる余裕がないのもあるが、もうそんなに食欲旺盛ではないのだ。
 男性から呼び捨てにされること。女性から「清尾くん」と呼ばれることが一番の楽しみなのだ。

 トップの写真は高Ⅰの同窓会で近況報告をする清尾くん

 さて切り替えて、夜は試合だ。

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