見出し画像

レッズレディース三題        その三 猶本光が鬼軍曹に見えた

 最近、試合中の猶本光を見ていて「鬼軍曹」という言葉がひらめいた。猶本のイメージとはかけ離れたフレーズで「ひかリスト」(いるのか?)たちには申し訳ないが、直感的に浮かんできたのだからしょうがない。

 何かと言うと、若い選手に対する態度だ。
 もちろん僕は軍隊に行ったことはないので、これは映画やテレビで見た印象でしかないのだが、軍曹というのは戦闘の最少単位、5~6人の兵隊を率いるリーダーというイメージだ。「コンバット」(アメリカTVドラマ)のサンダース軍曹、「最前線(二世部隊物語)」(望月三起也・作)のミッキー熊本軍曹がそうだから、そうなんだろう。
 その少人数で戦闘行動に入るときは、全員が指揮官の指示どおりに動かないと危ない。1人でもミスしたり手を抜いたりすると、全員の命にかかわるのだ。だから、軍曹はミスや手抜きに厳しく当たる。

 猶本は、試合で新人がミスしたときや積極的に守備に動かないとき、どう言っているのかまでは聞こえないが、態度は間違いなく怒っていると思う。なぜなら、その選手にパスを出さなくなるから。見ていて、いま出してもいいな、と思うときでも新人には出さずに、周りの経験ある選手に出す。
 別に意地悪をしているわけではないと思う。新人選手のプレーを見ていて、その選手にパスを出したときのリスクを考えているのだと思う。つまり戦闘で言うと危なくなる=チャンスをつぶしたりピンチを招いたりする可能性が大きいから、鬼軍曹としてはやむを得ない判断なのかもしれない。

 何だか新人つぶしをしているように思われるかもしれないが、そうではなく、猶本は今のチームを勝たせることと新人を育てることを実践的に両立させているのだと思う。
 楠瀬直木監督によれば、猶本は練習で若い選手にかなり積極的にアドバイスしているらしい。若い選手からすると叱られているように感じるかもしれない。

 だが、たとえばレディースユースから昨季昇格したFW島田芽依は、なかなか結果が出ず21/22シーズンは18試合に出場して無得点だった。しかし、今季のWEリーグカップグループステージ最終節で決勝進出に貢献する先制点を決めると、10月23日のWEリーグ22/23開幕戦でも3-2の決勝ゴールを挙げる活躍。第3節の広島戦でも2-1の決勝点を挙げているほか、毎試合チャンスに絡んでいるし、前線での守備でも積極的な動きを見せている。1年でのこの成長はチームにとって大きな好材料だが、島田も猶本に鍛えられたクチのはずだ。

 楠瀬監督は、若い選手を積極的に起用する。起用して戦力になってもらわなければ困る、という事情もある。
 新人選手の最大の供給源はレディースユースだ。レディースジュニアユースからユースを経て昇格した選手は、登録27人(ユース所属を除く)のうち15人(他クラブ、大学経由を除く)になる。試合でも先発に5人から多いときには7人のユース出身選手が名を連ねる。

 トップチームの隣で練習し、リーグ戦では運営の手伝いをしながらプレーを間近で見て、試合では浦和レッズのユニフォームを着て6年間育った選手たちは、そのことでプラスの要素がある。
 しかしユース出身ならではのディスアドバンテージも心配される。上にも下にも知った選手が多く、練習場所も以前と同じという環境が、ともすれば甘さにつながってしまうかもしれない、ということだ。特にプロリーグとなった現在、高校生時代との差は、なでしこリーグとのそれとは比べものにならないくらい大きい。
 猶本が練習で「ガミガミ」と言っていいほど、若手に声を掛けているのが、プロリーグの一員になったことを自覚するのにどれほど有益なことか。
 
 サンダース軍曹もミッキー熊本軍曹も、部下に指示を出すだけでなく、自ら戦闘に立って戦う。猶本もそうだ。ビルドアップにラストパス、プレースキック、シュート。武器はトミーガン(サンダース軍曹が持つ自動小銃)だけではない。

 明日12月11日(日)のWEリーグ第6節・INAC神戸戦(14時/浦和駒場スタジアム)は、今季の優勝を占うシーズン前半のヤマ場になる。午前中にワールドカップ観戦の眠気を取って、ぜひ会場に来て欲しいし、試合を見るときに、今回披露したレッズレディース三題を参考にしてもらえれば幸いだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?