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定額給付金申請「希望しない場合にチェック」の怪。一方会津若松市はわかりやすかった。

マイナンバーカードを必要とせず作っていなかった身にとっては、特別定額給付金申請は郵送一択になるわけです。今思えば早めに作っておけばよかったのですが、待たされるし、わざわざ窓口に取りに行ったりなどの面倒にかまけていました。

さて、郵送による給付金申請書において、「希望しない場合にチェック」という紛らわしいことこの上ない欄について話題になりました。

「これ誰が作ったの?」感がすごい。

「希望しない場合にチェック」
つまり、「〜ない」という否定の意思に対して、「チェック」という肯定的なアクションを組み合わせているのは、
「反対する人は挙手してください」→「反対者少数につき、この件は成立」
という恣意的な決議決定を想起させられます。
日本人ぽく「要」「不要」とかに丸でもつけさせればよいものの、なぜ「否定チェックボックス」か。

COVID-19対応で政府の一挙手一投足が注目される中で、不信感を与えることこの上ないことをあっさりやってしまうあたり、むしろわざとであってくれと思うほどです。

しかし自治体ごとに申請フォームが違うようで、我が会津若松は、次の通りいたってわかりやすいものでした。

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「受給を希望されない方は二重線で消してください」となっています。

これであれば、「受給しない」→「取り消し」という否定的なアクション
とつながっていて感覚にフィットするのです。しかもデザインもとても見やすいし、柔らかい感じが良いです。

調べてみると、他にも岡山市がそうでした。

「これ誰が作ったの?」感でいくと、会津若松市と岡山市の申請書がほぼ一致していれば共通の誰かが作ったのでしょうけど、岡山市の場合は削除線は赤線だし、どうも違うっぽい。

「総務省が作成した見本をもとに各自治体が作っている」ようなので、「総務省の見本はわかりにくいから、こうしたらいいんじゃない?」というやりとりが日本全国津々浦々の自治体内で行われ、デザインや文言含め税金を費やして様々な企業に外部委託された末、このような申請が用意されているのでしょう。

つまり筆者が感じた問題は2点あるのです。

1.役人のUI設計がダメすぎる(ここではPCではなく紙の申請書もUIとします)
2.自治体に丸投げして非効率な上、「世界最先端デジタル国家創造」の布石とするチャンスをみすみす逃している

日本人のUI設計のダメさはiPhoneショックを食らってもまだ治らない

かつて日本で隆盛を誇ったケータイ電話は、「直感的なUI」と洗練されたブランドイメージ戦略をもつiPhoneによって一気に凋落しました。
筆者はまさにその移り変わりのタイミングで、ケータイのソフト開発をしていました。最初は、ハードキーでないとメールが打ちにくいだとか、アイコンだけで説明がなくわかりにくいとか言って、日本で売れるわけないとバカにしたものです。

片や日本のケータイは、「ソフトキー」と言われていた十字キー周辺の特殊キーに各画面ごとに必ず操作を割り当て、「スケジュール」だとか「ブラウザ」だとかわざわざ半角文字で何が起きるか書いていたわけです。今でも存在するようです↓

これは「説明書を読まなくても画面を見たらわかる」という親切心かもしれませんが、セットで分厚い説明書を必ず同梱していたのだから、目的は達成していなかったのです。

一方iPhoneは、説明書はないに等しいし、どこを押したら何が起こるのか、当時はわからなかった。いや、今もそうなのかもしれません。歯車が設定だとか、そんなことは初見では絶対わからないはずなのですが、一旦わかってしまえば、「ぱっと見でどう動くか」が瞬時に認知できるのです。それが、「使い慣れたらやめられない」という固定的なファンを生み続けるわけです。

Appleは、認知心理学のエキスパートを多く雇用してUI設計にあたると言われます。

認知心理学といえば、私が大学生だったときのイメージとしては、「文系なのに何か理系っぽい実験をやっている特殊な奴ら」という感じでしたが、そこで積み重ねられた知見は、世の中のあらゆる視覚効果に応用され、我々の生活を豊かにしています。

しかし日本企業といったら、なんとなく文系の人間が商品企画部になって、認知心理学の基本的な論文も読まずに感覚でUIを設計し、それを単に美大の工業デザイン科出身のデザイン部が仕上げ、とりあえず発売前に被験者を雇って感想を集計して決めているような感じがありました。(そうじゃない立派な開発現場も今はたくさんあると思いますが)

いや、認知心理学に基づいた設計が必ずしも正というわけではないとは思います。
人間には低階層の認知機構とは結びつかないような、非合理とも取れる行動があるからです。「なんとなくやってしまう」「気持ち良い」「クセになる」というあたりです。エアパッキンをプチプチ潰したり、グニグニしたものをなんとなく握ったり、思わず猫を撫でたりします。

しかしそれもAppleはとっくに利用し、iPodで日本を、つまりウォークマンを淘汰しています。iPodの丸いドーナツ状のハードキーをクルクルなぞるアレです。
再生曲のアーティストを選択するとき、その数が大量なら、ボタン一つで順に選択肢をなぞっていくのは本来苦痛でしかありません。
しかしiPodはドーナツをなぞる所作に「カチカチ」という謎の操作音を巧みに合わせ、「ちょー気持ちいい」アナログ感を創出し、むしろ選曲操作を楽しみに変えたわけです。

しかし、全面タッチパネルのiPhoneはその成功事例も使えません。日本ケータイはそれを武器に黒船侵入を防げたかもしれないのに、「ハードキーの操作感をもっと気持ちよくしちゃおう」なんてことを重要視する人はいなかったのでしょう。むしろ本体の厚みに対し、薄くしろ薄くしろと髪の薄い社長が自虐ネタのように連呼し、キーはフラットで押しにくく、逆にタッチパネルと大差ない方向に進んだのでした。

日本の役所における申請書のわかりにくさといったら、どうやったらこう作るんだとつっこみたくなるものばかりです。
税金の確定申告書然り。各入力欄に1〜60くらいまで番号が振られた書式が何枚もあって、しかも埋めていく順番は順不同、進んだりたり戻ったりなど日常茶飯事。これも税理士の職を確保するためという裏目的があるならまだ良いのですが、今回の給付金の申請書を見る限り、まさか、単に「作ってみたらこうなった」というだけなのか・・?というまさかを胸に抱いてしまいます。

というわけで、「希望しない場合にチェック」などというトンデモなインターフェースがいまだにできてしまうと、「日本人、iPhoneでいい加減気づけよ」との念を抑えることができません。

10万円給付は「世界最先端デジタル国家創造」のチャンスだった

冒頭の通り、私もいまだにマイナンバーカードを作っていません。
しかし徐々にそれを所持することによるメリットも生まれつつあり、今の騒動が収まったら作りたいと思えるようになってきました。

しかし、どうせなら、強権を発動してでも「特別定額給付金申請にマイナンバーカード作成は必須」くらいで良かったのではないかと思っています。

上で「COVID-19対応で政府の一挙手一投足が注目される中」と書きましたが、たとえIT弱者切り捨てなどと批判の声が出ようとも主張したら良かったのです。
つまり新型コロナウィルスで「観光立国」の展望が頓挫した今、「世界最先端デジタル国家創造」なき日本に生きる道なし、と。ハンコ族とか全部吹っ切って突き進もうじゃありませんか。

会津若松では、わかりにくい給付金のオンライン申請をIT企業が支援するという、「ここに企業の良心見たり」と言いたくなる涙ながらの取り組みが行われています。

マイナンバーカード作成も、スマホで写真を自撮りすればオンライン申請できるらしいじゃないですか。ならばITに疎い人に対しては同じように申請支援をすればよい。自治体に押し付けるなと言われそうですが、マイナンバーカードの所有率が高い自治体ほどメリットが出るように、マイナンバーカードを活用することで役所手続きが簡易化し業務が減るような仕組みにしていけばよいだけです。

ピンチこそチャンスと捉える。これは古の先人が数多の実例を残してくれています。言葉に語弊はあると思いますが、COVID-19はそのチャンスだったと思うのです。

なお、私が働く会社では、旧態然とした業界風習の特殊性もあって、これまで売掛金の集金には営業が顧客先を訪問して現金回収していて、その手間が問題になっていました。
しかし今回の騒動で接触が憚れるため、郵便振込用紙を配布し、できる限り振込での支払いを推奨しました。これで慣れた顧客は、騒動が収まっても振り込みしてくれるでしょう。
これも、マイナスの機会を企業としてプラスに変えていくための手法といえそうです。ちなみにこのアイディアを出したのは80歳を超えた会長です。常に機知に富む行動ができるよう、日頃から問題意識をもっていることが大切です。

最後に、会津若松市への愛あるダメ出し

さて、会津若松市は、申請書の内容も良かったですし、下の記事の通りICTスマートシティを目指した結果として申請支援のようなIT企業の慈善的な取り組みも現れ、良いサイクルが回り始めている気がします。

しかしながら、しつこいですが、郵送の申請書に「もしマイナンバーカードを作っていたら、こんなに簡単にできました」のような1枚紙でも入れたらよかったのにと思います。
市税の通知にはeLTAXのチラシを入れるなど、電子申請についての宣伝に熱心なのに、なぜ今回は同封しないのか不思議でした。マイナンバーカードとスマートシティは無関係なのでしょうか。いや、むしろ関係するようにしていかないといけないのではないかと思います。

このあたり、役所の担当者の末端までそういった意識を植え付けて行動に移せるかどうか、ITに明るいという室井市長の手腕が問われます。

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