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OCDを診る上で必要な知識②骨、関節、骨折

肘関節と前腕の機能解剖
肘jtの骨とアライメント

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 肘jtと前腕は上腕骨、尺骨、橈骨からなり、腕尺jt、腕橈jt、近位橈尺jt、遠位橈尺jtで構成される。
●上腕骨
 上腕骨遠位端は扁平となり、その両側に内側上顆と外側上顆がある。上腕骨遠位端は矢状面上で上腕骨長軸に対し112~120°前方を向く。上腕骨遠位端内側には上腕骨滑車があり、遠位端外側には上腕骨小頭がある。小頭の矢状面上の曲率半径は横断面上より大きく、球体というより楕円に近い。滑車と小頭の近位には鈎状窩と橈骨窩があり、肘jt屈曲時、尺骨鈎状突起と橈骨頭がそれぞれはまり込む。滑車後方には肘頭窩があり、肘jt伸展時、尺骨肘頭がはまり込む。
●尺骨
 尺骨近位端の前方に鈎状突起、後方に肘頭があり、その間に滑車切痕がある。また、尺骨近位端外側には橈骨切痕がある。尺骨近位端は尺骨長軸に対し、矢状面上で4.3~8.0°前方、前額面上で7.6~17.7°内側、水平面上で11.1~22.5°外側を向く。肘頭尖端と鈎状突起先端を結ぶ直線は尺骨長軸に対して上方を向き、その角度は女性より男性で大きい。
●橈骨
 橈骨近位端は橈骨頭と橈骨頚からなる。橈骨頭は円柱状で凹面の関節面を有し、内側面に関節環状面がある。橈骨頭は円形のものから楕円形のものまで形態にバリエーションがある。橈骨頚は橈骨骨幹部に対して、外側に163~168°傾斜している。
●関節軟骨
 肘jtの関節軟骨は非常に薄い。上腕骨滑車は平均1.35㎜、橈骨頭は平均1.20㎜、尺骨滑車切痕肘頭側は平均1.23㎜、尺骨滑車痕鈎状突起側は平均0.99㎜の厚みをもつ。また、滑車溝前方は0.90~1.32㎜、後方は0.78㎜であり、前方の関節軟骨が後方より厚い。上腕骨小頭の外側前方は1.49㎜、外側中間は1.54㎜、外側後方は1.06㎜、内側前方は1.63㎜、内側中間は1.47㎜、内側後方は0.87であり、小頭前方から中間の関節軟骨は後方より厚い。橈骨頭・小頭の軟骨剛性を測定した報告によると、橈骨頭中央と上腕骨小頭内側には差がなく、小頭外側の剛性が低い。
肘jtと前腕のバイオメカニクス
肘jtのバイオメカニクス

 腕尺jtは上腕骨滑車と尺骨滑車切痕で構成され、屈曲伸展運動を行う。腕尺jtの解剖学的運動軸(滑車溝と小頭を結ぶ線)は前額面上で上腕骨長軸に対し87.3°、矢状面上で上腕骨長軸の内外側上顆を結ぶ線に対し45~50°の角度をなる。

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腕尺jtの運動学的屈伸軸は水平面上で平均11.02°(5.67~17.23°)、前額面上で平均11.95(7.8~19.4)傾斜し、肘jtの屈曲に伴い反時計回りに偏位する。

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 肘jtの屈曲伸展運動に伴い、腕尺jtでは外反、内旋が生じる。一方、上腕骨小頭と橈骨頭で構成される腕橈jtでは、腕尺jtの伸展位に伴い橈骨頭は上腕骨小頭上を背側(後方)へ滑り、屈曲に伴い腹側(前方)へ滑る。

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 肘jtには生理的外反角(キャリングアングル)が存在し、年齢、性別、肘jt角度が影響する。キャリングアングルは年齢とともに増加し、成人以降は一定あるいは減少傾向となる。また、男性より女性のほうが大きく、肘jt屈曲に伴い減少する。
 肘jtのコンタクトキネマティクスには肘jtや前腕の肢位、軸力が影響する。肘jt屈曲に伴い、腕橈jtの接触面積は増加する。また、前腕回内に伴い、腕橈jtの接触面積は増加するが、腕尺jtの接触面積は一定である。回内時、尺骨滑車切痕上の接触圧中心は前内側に偏位し、橈骨頭上の接触圧中心は後内側に偏位する。

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上肢荷重下では、前腕回外位よりも回内位で腕橈jt接触圧が増大する。一方、腕尺jt接触圧は前腕の肢位によって変わらない。
前腕のバイオメカニクス
 近位橈尺jtは尺骨橈骨切痕と橈骨頭関節環状面で構成され、尺骨頭と橈骨尺骨切痕で構成される遠位橈尺jtとともに前腕の回内・回外運動を行う。前腕回内・回外の運動軸は橈骨頭と尺骨頭を通り、回内時、尺骨に対し、橈骨は近位に移動し、回外時は遠位に移動する。

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 前腕回内・回外運動に伴い、腕尺jt、腕橈jt、近位橈尺jt、遠位橈尺jtで副運動が生じる。

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腕尺jtでは前腕回内に伴い、尺骨は内旋、外反する。近位橈尺jtでは前腕回内に伴い、橈骨頭が前方(腹側)かつ外側に偏位する。遠位橈尺jtでは前腕回内に伴い、尺骨頭が後方(背側)に偏位する。前腕回内・回外可動域は肘jtの角度によって異なる。肘jt伸展位では回内可動域が大きく、屈曲位では回外可動域が大きい。
 遠位橈尺jtと近位橈尺jtのコンタクトキネマティクスについて、遠位橈尺jtと近位橈尺jtの接触圧と接触面積は肘jt角度によって異なり、屈曲位より伸展位で大きい。接触面積は遠位。・近位橈尺jtとともに、回内位より回外位で大きい。また、前腕の回内に伴い、遠位橈尺jtの尺骨橈骨切痕上の接触位置は掌側に偏位し、遠位橈尺jtの橈骨尺骨切痕上の接触位置は背側に偏位する。

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肘jt部の骨折と脱臼
上腕骨遠位端部の骨折
上腕骨顆上骨折

 本骨折は、小児で最も頻度の高い骨折の1つである。5~10歳に多い。
 ほとんどは、滑り台、鉄棒、ブランコ、跳び箱などをしていて肘jtを伸展して転倒した時に生じる伸展型骨折で、X線側面像で骨折線は前下方から後上方に走り、遠位骨片は後上方へ転位する。

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 稀に肘を屈曲位で強打すると屈曲型骨折となり、骨折線は後下方から前上方へ走り、遠位骨片は前方に転位する。
 小児が転倒して、肘jtの強い疼痛を訴えたときには、まず本骨折を疑う。肘jt自動運動不能で上腕遠位部に強い圧痛、他動痛があり腫脹が著明である。転移のあるものは、肘頭が後方に突出してみえる。肘頭、上腕骨外上顆、内上顆の形成する三角[Huter(ヒューター)三角]は正常である。

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 初診時、水疱形状など遠位の循環障害と橈骨・正中神経麻痺の有無をよく調べる。
 X線撮影によって、骨折線が明らかでない例でも、側面像で肘頭窩、鈎状突起化付近の骨と軟部組織の間位に透過陰影を認めることがある。これをfat pad sign

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と称し、出血あるいは浮腫によって肘頭窩や鉤状突起化の脂肪組織が押し上げられたために描出されたものと考えられており、これを認める場合には転位のない亀裂骨折などが存在するものとして対処するべきである。
〔治療〕保存療法が原則である。
徒手整復法

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患児を仰臥位として、全身麻酔下に整復する。患側の前腕遠位部を一方の手で握って、術者は肘jtをやや屈曲位のまま強い牽引を加えて、いったん過伸展し、

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内外反に回旋を加えてアライメントを合わせ、

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一方の手のⅡ~Ⅴ指で上腕骨近位部を後方へ押し、母指で遠位骨片を前方へ押しながら強く屈曲し、

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前腕を最大回内位として骨折端の圧着を図る。

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 肘jt屈曲110°~120°、前腕最大回内位に保ち透視下に整復位を確認する。前後、左右、回旋ともほぼ良好であれば、その位置で、上腕から手jtまでギプス副子で固定する。小児の上腕骨遠位端は軟骨が豊富なため、X線像による整復位の確認が難しい。

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正しい前後像でBaumann角を計測することによって判定する。

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Baumann角は上腕骨軸に対する垂線と外顆部骨端線に平行な線のなす角で、10°以上が正常で、carrying angleとほぼ一致する。計測と比較するとよい。
 術後24時間は、患肢の循環に厳重に注意しなければならない。翌日のX線像で再度整復位を確かめた後にギプス固定を4週間行ってから、次第に運動を許可する。もし、徒手操作で整復位が得られないときは、同一麻酔科でもう一度試みてもよいが、何度も繰り返すと、腫脹が強くなって血行障害が生じたり、骨化性筋炎を発生する恐れがあるので、牽引療法に変えた方がよい。屈曲型の場合は、伸展位で強く牽引して整復して整復し、その位置でギプス副子をあてる。骨折部の安定性が悪い場合には、両顆部から経皮的にKirschner銅線を刺入して固定する(cross pinning法)。

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牽引療法:徒手整復が困難であったり、整復位が保持できず固定性の悪い場合、また骨折の転位の強いものには、はじめから牽引療法を行う。
 4~5歳までには、介達牽引、それ以上には直達牽引を行う。

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①:代表的なものは垂直牽引法である。絆創膏かスポンジバンドを上腕から手jtまで上肢前後面に当て、仰臥位で肩関節から患肢を垂直方向に2~3㎏で牽引する。
 1~2日ごとに、X線コントロールを行って整復の状態を調べるが、牽引による整復は、2~3日以内に得られる。その後は、整復位の保持を考えればよい。必要であれば側方への牽引を追加して左右、回旋方向への変形を予防する。

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直達牽引法:患児を仰臥位とし、上腕を垂直方向に挙上するが、肘直角位として尺骨肘頭にKirschner銅線を通して3~5㎏で牽引する。

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手術療法:神経断裂か血管損傷が疑われる場合のみ、観血的治療の適応となる。内固定の方法はcross pinning法による。
合併症、後遺症
 ①Volkmann(フォルクマン)拘縮:これは、前腕の血行不全の結果として、前腕、特に屈側の筋が瘢痕化、線維変性を生じて、拘縮を生じるものである。上腕骨顆上骨折の他、肘jt、前腕部の外傷後に生じやすい。
 初期には手指の知覚鈍麻、手や手指の他動的伸展に対しての疼痛がある橈骨動脈の拍動の欠如(6PIC※)。放置すれば、難治性、非可逆性の前腕屈筋群の強い拘縮と手指の変形を生ずる。初期に緊急手術が必要で、患部のすべての緊縳をなくすため、しばしば前腕屈側の全長にわたって筋膜切開を必要とする。
※6PIC:pain、paresthesia、paleness、pulselessness、palsy、prostration、coldness
②変型癒合:整復不全によって、内反変形を残すことが多い。機能障害はほとんどない。15°以上の変形は整容的に好ましくなく、二次的に矯正骨切り術を要することがある。

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猛撃矯正法と肘jt強直:小児肘jt外傷後に、可動域改善の目的で暴力的に肘jtを授動する。いわゆる猛撃矯正法は絶対禁忌である。これによって組織の破壊や出血により、しばしば過剰仮骨を形成して骨性強直をきたすからである。小児の関節拘縮は自動運動によって完全に消退していくことを家族によく理解させておく。
上腕骨外側顆骨折
 発育期の幼少年に起こりやすい。顆上骨折と同じく手を伸展して倒れた場合、肘に外反に力が加わって発生する。上腕骨小頭の骨端核と滑車の一部を含む外側顆部が骨折し、肘筋や手根伸筋、指伸筋などによって牽引される。多くの場合、骨片は90°以上回転し、上腕骨の骨折面に対し、関節軟骨面が向かい合うことになる。

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 肘jtは腫脹し、強い疼痛のための肘jt外傷を動かさないが、圧痛点は顆上骨折と異なり外側に限局するのが特徴で、骨片の動きを触れることもある。転移した骨片は成長期の骨端軟骨を含むため、X線像に現れるものよりかなり大きい。
治療〕 骨片の回転転位があると、上腕骨側の骨折面は、骨片側の関節軟骨と向かい合うため骨折治癒機序が進まない。整復は非観血的にはまず成功しないので、観血的整復が必要である。小児の骨折のうちで手術を要する稀な骨折である。
手術療法:全身麻酔下に外顆部に前方凸の小切開を加えて骨折部を出す。骨鉗子でつかんで回転させながら整復し、外顆部から1~2本のKirschner(キルシュナー)銅線かねじを通して固定する。X線コントロールを行い、肘jt軽度屈曲位で3週間三角巾を使用して固定する。
合併症〕 本骨折の初期治療を誤った場合、骨折部はしばしば偽関節となる。その結果、肘jt外側部の成長が障害されて外反肘変形をきたす。

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通常は機能障害を伴わないが、その程度の強い場合には、内側の過伸展によって遅発性尺骨神経麻痺を生ずることがある。変形症状が強ければ、矯正骨切り術が行われる。
 陳旧性の偽関節に対しての再骨癒合は困難であり、かえって肘jt運動障害をきたしやすい。
上腕骨内側上顆骨折
 肘jt伸展位で倒れ外反方向に力が加わると、手の屈筋群に引かれて内側上顆の裂離骨折が起こる。転位の軽度のものは2~3週間のギプス包帯固定でよいが、時に骨片が肘jt内に嵌入することがあり、この場合は観血的整復を要する。
肘頭骨折
 肘頭部に直達外力が働いて起こる骨折と、上腕三頭筋の強力な牽引による介達外力による骨折とがある。前者では粉砕骨折、後者では横骨折の形をとることが多い。
治療〕 粉砕型で転位の少ないものは、約3週間肘jt伸展位でギプス包帯固定を行えばよい。横骨折で転位のあるものは、上腕三頭筋の筋力に拮抗するように固定すする手術を行わねばならない。
 手術療法:肘頭部から遠位へ3~4㎝の縦切開を加えて骨折部を出して整復する。固定は肘頭から尺骨骨幹端前方皮質にKirschner銅線を2本刺入し、この曲げた先端と骨折部から2~3㎝遠位に横にあけた孔との間を、鋼線で8字状に締結する(引き寄せ鋼線締結法tension band wiring)。固定性がよければ外固定不用で、直接から運動を始めてよい。

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橈骨近位端の骨折
 肘jt伸展位で倒れ外反位の力がはたらくと、橈骨頭は上腕骨下端に衝突して橈骨近位端の骨折を生じる。小児では橈骨頚部の骨折を、成人では橈骨頭の骨折を起こしやすい。
症状〕 局所の腫脹、圧痛は軽度である。前腕の回旋によって疼痛が増強する。
 X線像でみると、小児の橈骨頚部骨折では、関節面が外方に傾いているだけの、嵌合型骨折が多い。稀に完全な骨端線離開(Salter-HarrisⅠ型)もみられる。
 成人では、関節面が縦に骨折したり、粉砕されていることもある。成人ではしばしば相対する上腕骨小頭面の損傷を合併する。
治療〕 小児では、肘jt伸展位で、橈骨頭を指で押して整復を試みる。軽度の閉経治癒は自然矯正されるが、転移の強いものは経皮的に鋼線からエレバトリウムをてこにして整復することができる場合が多い。

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それでも整復位が得られない場合には観血的に整復し、肘jt90°屈曲位で上腕骨末端を通してKirschner鋼線で固定する。ギプス包帯固定を2~3週間行う。
 成人でも転位の小さいものは、上肢を三角巾かslingで2~3週間吊るすだけでよい。成人の粉砕が高度な骨折では、骨頭切除を余儀なくされることがある。
外傷性肘jt脱臼と脱臼骨折
 肘jt外傷性脱臼は肩jtに次いで頻度が高い。これは軟部組織の支持が弱く、特に幼小児では、骨性支持の未発達もその理由となっている。
 脱臼後にみられる前腕骨上端の位置によって、後方、前方、側方、分散などに分類するが、後方脱臼が多く、側方脱臼が時にみられ、その他は稀である。
後方脱臼
受傷原因〕 肘jtの基本的な運動は屈伸運動である。側副靱帯に比し前後の関節包の支持性が弱く、一方、前後方向の力に対する抵抗性は、後方の肘頭よりも前方の鉤状突起のほうが弱いため、後方脱臼が多く、肘jt脱臼の90%以上である。
 肘の過伸展が強制され、前腕回外位で長軸方向へ力が働くと、肘頭が支点となって前腕がてこになり、関節包、靱帯が破れて後方に脱臼する。
症状〕 転倒直後から、肘jt軽度屈曲位ないし伸展位で、ばね様に固定され、自動運動不能である。肘頭が著明に後方に突出する。外傷直後には骨の突出部がはっきりと触れるので、いわゆるHuter線

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の乱れがわかるが、時間とともに腫脹が強くなり、骨性の輪郭が不明瞭になる。
 尺骨神経麻痺を合併することもある。血管損傷は稀であるが、整復が遅れるとVolkmann拘縮を起こすことがあるので注意を要する。
 2方向X線撮影で、骨折の合併の有無を確かめる。

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合併しやすい骨折部位としては鉤状突起、橈骨頭、稀に上腕骨内側上顆、外側顆などがある。
治療〕 できるだけ早く整復を行う。外傷直後であれば無麻酔で整復されるが、原則として全身麻酔下に整復を行う。
 整復法は、患者を腹臥位として肘を手術台から外に出し、下垂方向にゆっくり牽引する(術者の膝を支点にしてもよい)か、仰臥位で助手に上腕を固定させ、一方の手で前腕回外位にしながら牽引を加え、他手のⅡ~Ⅴ指で上腕遠位端を後方へ押し、次いで母指で肘頭を押しながら屈曲させる。
 整復されると、他動的に平滑な肘jt運動が行えるようになる。
 術後は、3週間ギプス副子固定をしてから自動運動を始める。
前方脱臼
 前方脱臼では、普通、肘頭の骨折を伴う。
 自動車の窓から肘を出していて衝突した際に生じるside swipe fracture-dislocationでも、肘部の骨折と、前方脱臼が起こりやすい。
 肘jtは、過伸展位を取り、肘頭の代わりに、上腕骨遠位端を触知できる。
治療〕 整復は、長軸方向の牽引とともに前腕近位端の後方への圧迫を加える。整復後、肘頭骨折に対して骨接合手術を要する。
側方脱臼と分散脱臼
 ともに稀である。側方脱臼も前方脱臼に合併していることが多い。また、しばしば上腕骨外側顆骨折を、外側脱臼では内側上顆骨折を合併する。
 分散脱臼は、肘jt伸展位で長軸方向に強い力が働き、輪状靱帯と橈尺骨間膜が断裂して、橈骨、尺骨の間に上腕骨遠位端が入りこむ。多くは骨折を伴い、脱臼の整復後に骨折に対する手術を要する場合が多い。
前腕骨骨折
橈骨・尺骨骨幹部骨折

 前腕骨骨間部骨折は、各年齢層にわたり比較的よくみられる骨折であるが、橈尺骨はともに細く、特に遠位部においては軟部組織の被覆が少なく、腱組織が主で血行が悪い。そのため骨癒合が遷延したり偽関節を形成しやすい。正しい整復位が得られないと、往々にして前腕の回旋障害を残すので、特に骨折部位による回旋筋の働きを理解しておく必要がある。
 基本的に橈骨は尺骨のまわりを回旋するので、尺骨で健全か転位が少ない場合を考えると、橈骨近位1/3の骨折では近位骨片は回外筋の働きで回外し、遠位骨片は円回内筋によって回内する。中央部以下では、回外筋と円回内筋が拮抗して近位骨片は中間位に止まり、遠位骨片は方形回内筋によって回内する。

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受傷原因〕 転倒時前腕に捻転力が働くと、橈骨と尺骨が異なった部位で骨折して、斜骨折なし螺旋骨折の形となる。前腕に直達外力が作用した時は、同一部位での横骨折となる。
症状〕 橈尺骨両骨骨折では作用した外力が強いので、骨片の転位があるのが普通である。多くの場合、掌側・尺側凸の変形であり、骨折部位の異常可動性と他動運動痛が明らかである。
診断〕 骨折の定型的な症状から容易であるが、神経症状と血行に注意する。特に初期治療時、不適当な徒手整復の繰り返しや、強い圧迫包帯固定などを受けて来診した場合、水疱を伴う強い腫脹がみられる。この場合、阻血性拘縮の発生に十分注意しなければならない。
 X線診断では、前後像、左右像を骨片の回旋をみるために、肘、手jtを含めて撮影する。
治療〕 前腕骨折を保存的に治療するか、観血的に整復すべきかは、年齢と骨折の部位・転位の程度によって決定する。
 乳児の前腕遠位部骨折では骨の幅だけ転位しても60°~70°くらいの屈曲変形があっても自然矯正される。
 保存療法―徒手整復とギプス包帯固定:助手に患者の肘jtを90°屈曲位で、上腕遠位部を固定させて、術者は両手で患肢の母指とⅡ~Ⅴ指をつかんで牽引し、X線透視下に整復する。麻酔は患肢のみの伝達麻酔でよい。
 整復は、一方の横骨折を整復し、これをてこの支点として他の骨を整復する。前腕を少しずつ回旋しながら軸を合わせる。ほぼ完全な整復位が得られれば上腕近位上部からMPjtまで、ギプス包帯を巻く。
 腫脹の軽減とともに骨折部は再転位をきたしやすいので、頻回にX線コントロールを行い、ギプス包帯を交換した方がよい。ギプス包帯固定は成人で10~12週間必要である。
 手術療法:成人は前腕回外位にて整復位が保持できない場合には、観血的に治療する。
 内固定具として金属プレートと髄内釘、あるいは両骨ともプレートを用いる。プレートで強固に固定できた場合には術後外固定は不用で、創治療を持って積極的に運動を始める。固定性に不安がある場合には、前腕の回旋をコントロールする装具をつけて肘・手jtの屈伸運動を始める。
合併症〕 外固定期間が長期になると、回旋拘縮を起こす。特に両骨間が接近した変型癒合では著しい回旋制限をきたす。皮質が厚く、骨髄腔が狭く、回旋力が加わりやすい部位なので、偽関節になりやすい。
橈骨骨幹部骨折
 橈骨のみへの直達外力は稀で、したがって介達外力のため、単独骨折の型としては斜骨折ないし螺旋骨折を生ずる。
 局所の変形は少ないが、骨折部に腫脹と疼痛があり、前腕を他動的に回旋すると疼痛が強い。
診断〕 X線像で橈骨の単独骨折とみえても、短縮転位のあるものは尺骨遠位端の脱臼を合併していること〔Galeazzi(ガレアッチ)脱臼骨折〕があるので、X線撮影は肘、手jtを含めて行う。

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治療〕健常な尺骨が支柱となるために、保存療法がおこないやすい。小児では、手jtを尺屈させた位置で4~6週間ギプス包帯固定する。成人でもギプス包帯固定のみで治癒するものも多いが、固定性の悪いものには内固定を行う。
尺骨骨幹部骨折
 橈骨よりも、打撃を防ごうとして直達外力を受けることが多く、横骨折、粉砕骨折などを生ずる。手をついて転落・転倒した際、前腕回内力が作用すると尺骨の骨折後に、しばしば肘jtから橈骨骨頭が脱臼(橈骨骨頭前方脱臼)してMonteggia(モンテジア)脱臼骨折となる。

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橈骨頭の後方脱臼を伴うMonteggia脱臼骨折は稀である。
症状〕 尺骨骨折の症状は、疼痛変形などいずれも前腕骨折より軽度であるが、尺骨は浅い部分にあるので、骨折の轢音、圧痛点を認めやすい。橈骨骨頭の脱臼は、しばしば見逃されやすいので、肘jt部を含めてX線撮影が必須である。

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治療〕 転位の少ない尺骨単独骨折は、上腕から中手指節jtまで3~4週間のギプス包帯固定でよいが、成人では機能的治癒を早めるため、肘頭から髄内釘を刺入して固定してもよい。
 Monteggia脱臼骨折では、尺骨骨折を整復すれば橈骨骨頭は自然に整復される。
 尺骨の固定性がよくても、術後、肘jt90°、前腕最大回外位で約3週間上腕から中手指jtまでギプス包帯で固定する。陳旧性Monteggia脱臼骨折では、橈骨骨頭を切除することがあるが、尺骨骨幹部で内側後方凸の骨切りを行うと同時に、橈骨頭を観血的整復する。
引用・参考文献
坂田 淳編):肘関節理学療法マネジメント、MEDICAL VIEW、2020
青木隆明監)、林典雄執):運動療法のための機能解剖学的触診技術上肢、改訂第2版、MEDICAL VIEW、2012年
中村利孝他編):標準整形外科学、第9版、医学書院、1993

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