少年野球選手傷害シリーズ オスグッド・シュラッター病(OSD)

概要

 Wikipediaによると、1903年に米・ボストンの整形外科医ロバート・ベイリー・オスグッド(1873~1956)と、チューリッヒの外科医カール・シュラッター(1864~1934)が別々に症例を確認、発表したため、この病名である。正式名称は「Osgood-Schlatter病(症候群)」である。
 成長期の下肢スポーツ障害として代表的な疾患であり、脛骨粗面に腫脹、熱感、疼痛を呈する疾患である。予後は比較的良好のため、スポーツ現場では“成長痛”として放置されるケースが多い。しかしながら、脛骨粗面に剥離骨片が形成され疼痛が増悪した場合では長期の運動制限が必要となる。スポーツ活動の長期休止は協議工場や競技継続の大きな支障となる。一方で発症早期に運動を休止した場合には、ほとんどが骨性の修復がみられ、短期間での競技復帰が可能となる。スポーツ活動の長期休止を防ぐため、早期復帰につながる治療の発見の意義は大きい。早期発見の可能性と適切な治療法について科学的根拠をまとめる。

オスグッド・シュラッター病の病態

 オスグッド・シュラッダー病は、Osgoodによって大腿四頭筋の収縮力により脛骨粗面に部分的剥離が起こる疾患であると報告されて以来、膝蓋靱帯炎や、感染、阻血などの病因が示されてきた。Ogdenらは、切断肢の組織学検査をもとに脛骨粗面の強度について示した。脛骨粗面は胎生期には大部分が軟骨であり、成長とともに骨化が進みその強度は成長段階によって異なる。

骨年齢の成熟度

骨年齢の成熟度は、C-stage、A-stage、E-stage、B-stageに分けられる。
C-stage(cartilaginous stage)は、脛骨粗面に二次骨化中心の出現していない時期で、年齢では4~12歳にあたる。
★A-stage(apophyseal stage)は、二次骨化核が出現し始めた時期で、年齢では10~17歳にあたる。
★E-stage(epiphyseal stage)は、二次骨化中心が脛骨の骨端と癒合し舌状結節を形成した時期である。
★B-stage(Bony stage)は、骨端軟骨板が閉鎖した時期である。

 Apophyseal stage までは、脛骨粗面部の骨端軟骨板は線維軟骨が大部分を占め、牽引ストレスに抗して力学的に強固である。これに対して脛骨粗面は二次骨化中心の成長に伴い軟骨細胞が肥大し力学的に脆弱となる。Epiphyseal stageになると、骨端軟骨板は硝子軟骨に置き換えられ、強度的には脛骨粗面のほうが比較的強固となる。この骨強度の観点からは、脛骨粗面が力学的に脆弱なApophyseal stageに大腿四頭筋の収縮力による牽引ストレスが加わることで、脛骨粗面部の炎症、部分的剥離などが生じてオスグッド・シュラッダー病が発症するとされている。
 Hiranoは、MRIを用いた縦断研究によりオスグッド・シュラッダー病発症時の病理的変化や進行を捉えている。オスグッド・シュラッダー病の発症から終末期までの進行は、まず二次骨化中心の周囲が浮腫様となる初期に始まり、さらに亀裂が拡大し剥離部が上前方牽引されることで骨片が形成され終末期に至る。すなわち、オスグッド・シュラッダー病の初期病変は二次骨化中心の浮腫に続く亀裂であり、これは脛骨粗面が脆弱なApophyseal stageに大腿四頭筋の収縮による牽引ストレスが膝蓋靱帯を介して加わることで引き起こされるものである。二次骨化中心の亀裂や続発する膝蓋靱帯炎により自覚痛を伴いオスグッド・シュラッダー病が発症する。
 初期ではMRI上二次骨化中心の浮腫がみられるが、X線上での骨変化はみられない、進行期になるとMRIで二次骨化中心が貝殻様に開き部分剥離が起きることに加え、膝蓋靱帯脛骨粗面付着部に腫脹が認められる。この時期にはX線上で剥離骨片が描出されることもある。組織的な変化が著しい初期や進行期は、適切な治療を選択することで9割超の骨性修復と4週弱という短期間での競技復帰が可能である。一方、病期が進行し、剥離骨片を有する終末期では、骨片は線維性結合や瘢痕組織により脛骨粗面と引き離され膝蓋靱帯遠位に付着する。間隙が小さい場合には硬化することもあるが、剥離骨片の多くはその周囲の血流が増加し細胞修復活動を惹起することで慢性炎症を示す。この慢性炎症が地蔵する疼痛の原因となる膝蓋腱炎や滑液包炎である。終末期では膝蓋腱炎の改善により3ヶ月程で疼痛が軽減することもあるが、3年以上症状が改善せず骨片切除まで疼痛が持続したという報告したという報告も少なくない。特に滑液包まで炎症が広範化したものでは症状改善には多大な時間を要する。

発症要因

横断研究における発症要因

 発症の要因については時期、運動頻度、柔軟性や筋力などの身体的要因、特徴的な動作などとの関連が報告されている。オスグッド・シュラッダー病の発症時期は、骨成長stageではApophyseal stage、骨年齢では11歳から12歳代、最大発育量年齢に一致する時期、second growth spurtの2~4年後、成長速度曲線ではPHVの前後1年間である。これらは骨の急激な長軸成長が起こり、脛骨粗面の強度は比較的脆弱という特徴を有する。また、オスグッド・シュラッダー病発症者は非発症者と比較し、スポーツ活動量が多く、身体的要因としては、大腿四頭筋・下腿三頭筋柔軟性低下などの柔軟性や、大腿四頭筋力・ハムストリングス筋力低下、大腿四頭筋の求心性筋力・ハムストリングス筋力低下、大腿四頭筋の求心性筋力と遠心性筋力のアンバランスという筋力の問題が示されている。膝蓋靱帯を介し直接脛骨粗面に付着する大腿四頭筋に関しては、脛骨粗面の骨成長に伴いタイトネスと筋力が増大することや、成長に伴いQuad/Hamの筋力比が低下することが分かっている。
 これら横断研究における発症要因から考えられるメカニズムは、成長期の急激な骨の長軸成長により相対的に大腿四頭筋が短縮し過緊張となることや、過度なストレスが加わることでオスグッド・シュラッダー病を引き起こしているということである。発症の好発時期は本格的に競技をはじめる選手も多く、競技種目の固定化により特有の動作が繰り返される時期と重なる。運動の質や量が向上し、比較的高負荷高頻度の運動が継続されるため、特定の筋を繰り返し収縮させる事での筋疲労や柔軟性低下で筋腱付着部に牽引ストレスが加わる。さらに、発症者の大腿四頭筋遠位性筋力は求心性筋力に比較して強いため、スポーツ活動中に多用される遠心性収縮が加わることになる。また、足関節背屈制限や下腿三頭筋の過緊張により、着地やランニング支持期などのスポーツ活動中に重心が後方化する特徴的な動作となり、これにより誘発される大腿四頭筋の遠心性収縮やトルク増大は牽引ストレスの要因となる。

縦断研究における発症要因

 オスグッド・シュラッダー病の縦断研究では、発症要因として発症時期、身体的要因、動作的特徴などが報告されている。エコーを用いた発症前からの観察によると、Cartilaginous stageからApophyseal stageで脛骨粗面に異常所見が認められ、その後Apophyseal stageからEpiphyseal stageにおいて自覚痛が認められ発症に至った、身体的要因としてはオスグッド・シュラッダー病を発症した成長期サッカー選手では発症しなかった選手と比較し、発症前から大腿四頭筋、SLR、では股jt外旋の柔軟性が低かった。また、発症した選手では大腿骨長増加と大腿四頭筋タイトネスに正の相関がみられた。動作的特徴としては、オスグッド・シュラッダー病を発症したサッカー選手の発症前からのキック動作は発症しなかった選手と比較すると、踏み込み時の床反力が後方に変位することで下腿前傾を妨げ、ボールインパクトに至るまでの骨盤回線と膝関節伸展トルクが小さいことで体幹の前方移動が不十分になるという特徴を有していた。
 これら縦断研究の結果から、オスグッド・シュラッダー病の発症メカニズムは、大腿骨長を増大し脛骨粗面が脆弱になる特定の時期に、二次成長や競技動作反復の影響で柔軟性が低下している大腿四頭筋の過収縮により加わった牽引ストレスにより二次骨化中心に異常が生じ、持続する牽引ストレスによって自覚痛が生じると推察される。

早期発見

 オスグッド・シュラッダー病は初期や進行期までに適切な治療を選択することで、骨性修復や症状の早期改善が期待できる。そのため、病期が進行する前に発見することが重要となる。オスグッド・シュラッター病の好発時期はApophyseal stageであるが、それ以前から脛骨粗面に牽引ストレスが加わっていると考えられている。この時期の脛骨粗面は軟骨成分が多く、軟骨の状態把握が必須である。軟骨描出能が高く、測定場所を選ばないなどの点で簡便であり、診断に近年エコーが重宝されている。
 エコーでは、脛骨粗面の成長過程が詳細に観察でき、さらに、軟骨や軟部組織、浮腫等の描出も可能である。脛骨粗面の正常成長から逸脱した所見としては、Cartilaginous stageでは脛骨粗面部軟骨の隆起や偏位、腫脹である。Apophyseal stageでは、二次骨化中心の過度な傾斜や脛骨粗面部の隆起である。Epiphyseal stageでは。二次骨化中心の分節化や膝蓋靱帯脛骨粗面付着部の肥厚である。Bony stageでは、剥離骨片が確認される。しかしながら、これらは横断研究で示されたものであるため、これら逸脱した所見はあるものの臨牀所見と伴わない場合、オスグッド・シュラッター病に特有の所見であるとは言い切れない。

治療法

 オスグッド・シュラッター病の伝統的な治療プロトコールは安静(スポーツ休止)、アイシング、NSAIDs、運動療法などの保存療法である。保存療法に抵抗を示し、剥離骨片が認められる終末像などは手術療法の対象となる。安定効果について、縦断研究で初期や進行期にオスグッド・シュラッター病を発見し、スポーツ休止して9割で骨性修復が得られ、トレーニング復帰は平均3.8週(1ヶ月弱)であったと報告されている。進行期に発見し安静を保ったものの膝蓋腱炎症の強い例では終末期に進行するものもある。終末期に至っている例では脛骨粗面近位に認められる剥離骨片の骨性治癒は望めず、脛骨粗面挿入部の膝蓋腱が肥厚し、腱内に膝蓋腱炎症が認められ、症状軽減には平均13.2週(3ヶ月強)を要する。また復帰後も動作時痛などの臨床症状が残存している場合もある。オスグッド・シュラッター病に対する運動療法は、大腿四頭筋のストレッチが一般的であるが、有効性についてエビデンスは充分ではない。またそれ以外のオスグッド・シュラッター病に対する運動療法についても総説レベルでの治療提言や考察はあるものの、研究レベルでの治療効果検証については渉猟しえなかった。発症要因などから膝蓋靱帯を介した大腿四頭筋の過緊張がオスグッド・シュラッター病の原因となることは明らかであり、運動療法のキーポイントはやはり大腿四頭筋の過緊張を防ぐことであるといえる。

まとめ

 オスグッド・シュラッター病の病態や発症要因はエコーなど診断機器の利用や、縦断研究の増加によって徐々に明らかになってきている。しかしながら、縦断研究では統計パワーが十分である報告は少なく、その結果の信頼性については注意が必要である。また、オスグッド・シュラッター病の運動療法の効果検証についての報告はほとんどないのが現状であり、今後の報告が待たれるところである。

感想
オスグッド・シュラッダー病は臨床上よく遭遇する疾患である。野球に限らず、サッカー、バレー、バスケなど多くのスポーツで経験する。競技特定を理解しつつ、早期復帰に焦る選手に対し、早期に発見し、可能な限り早い段階でスポーツを休止し、しっかり治した状態でプレー復帰できるように携わっていきたい。

引用参考文献
 塩田真史:Osgood-Schlatter病の病態と治療 発症から復帰までの現状と今後の課題、日本アスレティックトレーニング学会誌、第4巻、第1号、29-34、2018

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