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もし、仕事の悩みをマルクスやケインズに尋ねたら?

太古の昔から、仕事とお金をめぐる悩みは、尽きることがありません。人が生きていく以上避けられない、難しさがそこにはあります。

いつの時代も変わらないはずの悩みですが、近年の社会の急激な変化の中で露わになってきている仕事とお金をめぐる環境変化、そしてそれに伴う働く場での人間関係のねじれなどは、かなり複雑で、不思議な状況を生んでいるように思えます。

GAFAMと呼ばれる巨大なデジタル企業群がプラットフォームとなり進行するデータ資本主義、ネットが媒介する様々な新ビジネス、キャッシュレス決済の日常化、新たな技術であるブロックチェーンが可能にした暗号資産とも呼ばれる仮想通貨の領域の拡大など、ちょっと例をあげるだけでも、この30年ほどの間に、私たちの、仕事とお金、そして日々の生活をめぐる環境は劇的に変わっています。

もちろん、こうした環境の変化がもたらした恩恵、素晴らしさは計り知れません。

しかし、同時に、そこで生まれている「やりがい」の搾取、無意味な仕事の増大、慢性的な疲れ……、などに対して、やり場のない思いや不満、不安や迷いが聞こえてくることも確かです。

この30年ほどの変化の中で、私たちは日々、何をよりどころとして仕事をし、何を守って生きていくべきか?
大きな変化の時代に、悩みは尽きません。

自分が仕事をして、本当に社会で役立っている実感がないんだけど。
オフタイムでもSNSで会社の人とつながっちゃって、「いいね」するのも仕事のようで、何をやっても疲れる……。
会社を変わるのはいいけれど、いつまでも労働力を商品として、値段をつけてもらうことが働くってことなのかな?
SDGs、ESG投資、パーパス経営、エシカル消費……いいことかもしれないけど、なんかうさん臭い、誰か商売にしてない?と思うのは僕だけ?
「新しいシステムを作れ」、「DXだ!」とかけ声は威勢がいいけど、なんだかそれを口にしている管理職自身がわかってなさそうで不安なんだけど、大丈夫なのかな……。
先が読めない時代だけれど、子どもの進路選択でも、どんなアドバイスをしてあげればいいのかな?

素朴な疑問が、いろいろな声が、ホンネが飛び交います。
こうした悩み、想いを抱えた20代から40代のビジネスパーソンたちが、とある場所で出会いました。
その名はUNIVERSITY of CREATIVITY(UoC)=「創造性の大学」。仕事を終えた夜、「ニューエコノミー」を掲げる学びの場に、毎回十数人の有志たちが集まりました。仕事、社会、そして自らのあり方について、モヤモヤする思いを抱えて、語り合うことになったのです。
その時、導きの礎としたのは、歴史上の「巨人」たちです。「経済学の父」アダム・スミスに始まり、マルクス、ケインズ、シュンペーター、ハイエク、そしてヴェブレンといった人々の思考から何を引き出せば、現代の問題に答えられるのか? そして、さらに「経済学」という枠も少し外して、「哲学」、「社会学」などと呼ばれる領域の人々のものの見方・考え方も時にヒントにしながら、ゆるやかな対話の場を生んでいくことになりました。

この本は、こうした新たな学びの場の対話から生まれた壮大なる?フィクションです。
先人たちの思想の持つ可能性を現代に蘇よみがえらせてみたら……、現代の会社で、官庁で、フリーで、起業を試みて……、様々な働き方をする人々が抱える悩み・問題に、「巨人」たちが先生となって答えてくれたならどう言うだろうか? そうした大胆な可能性を追求する試みの書です。教科書の中で名前だけ暗記するようにして眠っていた「巨人」たちが生き生きと、「創造性の大学」という場で、現代社会を生きる多くのみなさんの抱える疑問に答えます。残された著書など、古典の言葉を下敷きに、同時に時代状況でなされた発言の意図を汲み取り、現代ならばこう言うかもしれないという仮説に立って、言葉にしてみました。言葉の端々に興味を持ってくださった方は、どうぞご自身で原典にあたって、新たな可能性を引き出してみてください。本書がそうしたきっかけとなる古典との間を結ぶ一つの補助線となれば幸いです。

実際、歴史上の「巨人」たちも、その時代、その社会の中で、悩み、苦しみ、喜び、人を愛した等身大の存在です。「巨人」「経済学」などのカギかっこを外すことで、極めて人間臭い親しみもまた生まれてくることと思います。

その意味では、本書のページを少しめくり気に入ったところをパラパラと眺めるだけでも、アダム・スミス、カントといったビッグネームにも、誤解を恐れず言えば、ちょっと変わった面白いオジサンという親しみを持ってもらえるかもしれません。たとえば、アダム・スミスもケインズも、「需要曲線」「供給曲線」で表される市場の均衡を説いただけの人でも、「有効需要」を考えただけの人でももちろんありませんし、その考え方の本質を知れば、今までとはまったく異なるイメージを持つことになるでしょう。

変化の激しい時代にあっては、ある時期にある一つの型を身に付けるだけでは、耐えられません。常に変化を楽しむべく、学び続ける精神、考えるフレームを柔軟に更新し続ける発想が必要です。

そして、そのためにこそ、過去に学ぶこと、歴史との対話が大事になり、想像力を働かせる楽しさに気が付くことが大切になるのです。

この本を紐解いていくと、今目の前にある「新しい」問題も実は古くからの問題であったことに気付いたり、「古い」と感じられていたことに意外な可能性を見出したりすることもあるかもしれません。

一言で資本主義と言われる社会の形も、時代によって地域によって、その空間に生きた人々が、悩み、喜び、悲しみ……、様々な喜怒哀楽を伴うドラマを繰り広げてきた歴史です。かつて様々な時代を生きた人々の思い、感覚にも思いを馳せながら、では翻って現代の私たちは、そこから何を学び取っていくべきか? 本書の対話から、ご一緒に考えてみませんか?
本書が、自ら考えていただくヒントとなれば幸いです。

では、創造力と想像力の教室へ! ご一緒に。
2022年7月 丸山俊一