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大学教員。統計学・公衆衛生学・社会学などが専門。ここ数年吃驚するようなことがいろいろあ…

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大学教員。統計学・公衆衛生学・社会学などが専門。ここ数年吃驚するようなことがいろいろあって、論敵の文章を批判的に読むとか仮面をつけたレフリーと戦うとかいう人生やめた。ウミガメのようにフワフワと残りの人生を生きていく。

マガジン

  • 『社会調査の社会学』

    そろそろ自前の教科書も作らなくちゃいけないな・・・と思い始めてもう数年経つ。書いては挫折の繰り返し。あんまり大上段に構えず、書きたいことを書き連ねてストックしていきたいと思う次第です。

  • 読書ノート(研究)

    いろいろな研究論文や文献を読んでまとめます。

最近の記事

全くライフスタイルが異なる人びとを2グループ集めて統計にかけるテクニック

下記の引用はそれには当たらないかもしれないけれど、やっぱりSES(Social Economical Status)で分けて考えることは重要だし、その分析をしたのだったらそのことに言及せずに報道するのはだめだと思う。 高学歴層はだいたいお金持ちで、高負荷な労働もしていないし、ヴィーガンでも他の健康行動でもいろいろやれているだろう一方で、低学歴層はだいたい貧困で高負荷な労働を長時間していてヴィーガン含む様々な健康行動について、知識もなければ実行可能性もないという状況だろう(統

    • SweetFish

      かつて調査に明け暮れていた頃、僕は偶然、とある悲惨な事件に出くわした。何人もの人びとが僕にそのことを語ってくれた。悲しかった。調査報告書に載せるわけにもいかないものだから余計に悲しかった。それで僕は、小説に書こうと思ったのだ。 Ⅰ.籃の章1.初夏の夕暮れ コットンのカーテンを揺らして、少し温くなった風が頬を撫でる。まだ低い西日が、ゆらゆらと畳の上を泳ぎ渡ってゆく。ごとごとと廊下の向こうでものを動かす音を聞きながら、わたしは丸い座卓の上で英語の宿題を進めた。ゆっくりと、淵の

      • 母と会った記憶

        自分が何の用事で東京に行ったのかは忘れてしまったが、スマホでたまたま、母がKG大学で学会に出ているという記事を見かけたので会いに行ってみることにした。 KG大学はかなり狭い道を左へと曲がりながら、古びた小学校の地下を抜けた先にあった。学会をしていた場所はわりと新しい校舎で、ちょうどお昼時間だったらしく、たくさんの大人たちが談笑していた。 僕は難なく母と合流し、差し向かいに座る。二言三言言葉を交わし微笑む母をみて、僕はやっと思い出した。母は死んだのだ。これは夢なんだ。 だ

        • これからの時代は優秀な若者の争奪戦だ。企業だろうが地域だろうが。

          この手の地域活性化ケーススタディはよく見るけど、要するにこれ、「若者の奪い合い」なんじゃないのって思う。若者を吸引できるリソースがあれば勝つしなければ滅ぶ。 若者を吸引できる前提で、地域住民とよそ者とが有機的に活かし合うための方策を論じているだけなんじゃあないだろうか。いやもちろんそれだって重要なんだけど。

        全くライフスタイルが異なる人びとを2グループ集めて統計にかけるテクニック

        マガジン

        • 『社会調査の社会学』
          7本
        • 読書ノート(研究)
          6本

        記事

          自殺対策推進協議会に出席しました

          ◆自殺死亡率あるいは自殺死亡者数について 疫学や社会学などをしていると、自殺という現象の多寡を総人口に対する割合で示すのが一般的だと思ってしまうけれども、市町村さんが示す資料ではしばしば合計人数が語られることがある。 人口10万人の市で20人死ぬのと、人口3万人の町で20人死ぬのと、いたましい出来事の数は同じである、という考え方なのだろう。それはそれで何か重要な科学的視点が含まれているような気もする。今後の課題。 ◆自殺未遂歴データ へええ、そんなデータがあるんだと思った

          自殺対策推進協議会に出席しました

          環境と観光の対立といういささか時代遅れなテーマについて

          「蛍が減ったから蛍を放つ」は「正しい」んだろうか。蛍が減ったのはカワニナが減ったからで、それは水が悪くなったってことだよね。そこへ蛍を放ったらカワニナが全滅して蛍も全滅してしまうんじゃないか? まあ過疎農村の観光資源なのだから毎年放てばいいじゃんという言い分も「正しい」っちゃあ正しいんだけど。 このラーメンはその集落の人々が結局は下流にある道の駅に降りてきて作っているラーメン。あの時殺された(であろう)カワニナたちの貴い犠牲は何だったのか。 まあいいやいただきまーす!

          環境と観光の対立といういささか時代遅れなテーマについて

          「アーバニズムをめざす実践における社会学者の貢献可能性」

          五十嵐泰正/地域社会学会第49回大会 ◆概要 まちづくり・都市計画に社会学者として参加する際に、工学系の有識者の間でいったい何を期待されているのか、どういう提言をおこなっていけばよいかがわからないという経験から、先行研究や自身の経験を整理する発表。 ◆用いたデータ 著者による上野における実践的関与 ◆RQ 社会学者への期待の内実とは? ◆結論 都市計画界の外部から、観察で理念の作動を評価する ◆所見 社会学者の外部性を利用して、都市計画の評価サイドに回るという見解は

          「アーバニズムをめざす実践における社会学者の貢献可能性」

          「地域社会学におけるボランティア研究の動向と課題-構造の隙間と潜在的機能に着目して-」

          都築則彦/地域社会学会第49回大会 ◆概要 都築さんは、長年のボランティア経験の中で、一日限りを含む、期間限定で参加するボランティアが多い中で、ひとつのボランティア団体の姿勢や性格が(ごめんメモがないので姿勢・性格という言葉遣いだったかは不正確)維持されていくのはなぜだろうということを思っていて、その理由を読み解くためのツールを検討するというもの。 ◆用いたデータ 「学生団体おりがみ」「NPO法人おりがみ」における活動経験 ◆RQ 流動的なボランティアが、マクロには社会

          「地域社会学におけるボランティア研究の動向と課題-構造の隙間と潜在的機能に着目して-」

          「関係人口を活用した観光まちづくりの可能性ー北海道夕張市を事例としてー」

          鈴木里奈/地域社会学会第49回大会 ◆概要 北海道夕張市における「清水沢まちあるき」のデータから、「関係人口(=定住人口でも観光客でもない第三の人口)」参加の重要性を指摘する。 ◆用いたデータ 「清水沢まちあるきの参加者(2023年5月27日、第92回)」 ◆RQ まち歩きには、どのような人々が集い、どのような関係性を築き上げているのか ◆結論 交流人口、関係人口、定住人口が集う「観光の場」で関係人口が自らの経験を語る ・臨場感のある 「生の声」 を聴ける機会 ・関

          「関係人口を活用した観光まちづくりの可能性ー北海道夕張市を事例としてー」

          「京都府立植物園・北山エリア開発計画の問題点と市民運動

          鯵坂学/地域社会学会第49回大会 ◆概要 鯵坂先生の在住地域である京都・北山エリアの開発計画とそれに対抗した市民運動の成果についての報告。 ◆用いたデータ 「北山エリア整備基本計画」 「なからぎの森の会」活動データ ◆RQ 市民・住民運動の成果はどこから生まれたか ◆結論 1 文化的フレーミング(『植物園』を前面に出した運動) 2 動員構造(ソーシャルキャピタル) 3 政治的機会構造(自公維vs共) 4 運動の全国的な広がり(コモンズを守る全国ネット) ◆所見 政治

          「京都府立植物園・北山エリア開発計画の問題点と市民運動

          『協働型の地域自殺対策と自治体―持続可能なまちづくりへのアプローチ―』

          公益財団法人日本都市センター 編 自殺対策系のテキストって、自殺死亡者数を問題に採り上げているものと、自殺死亡率を問題に採り上げているものとがあって、僕は社会学者であることから、デュルケーム先生が採択した自殺死亡率の方が重要なんじゃないかと思うけど、このテキストは最初の数ページを読む限り、自殺死亡者数の方を重要視しているみたいだ。いい機会だから少し詳しく読んで、彼らの意図を見極めてみたい。208ページ・・・。

          『協働型の地域自殺対策と自治体―持続可能なまちづくりへのアプローチ―』

          インプリケーション

          noteをはじめて最初に相互フォローしあった荒谷先生のノーツには刺激を受けることが多い。彼が論文作成にあたり「研究の貢献」とはいかにあるべきかを論じていらっしゃるのに刺激を受けて、僕も少し自身の経験を踏まえてまとめておきたい。 1.科学的な貢献 1-1 新規性 科学の世界では、これまで誰も指摘してこなかったような新しい因果関係が発見されれば、それはもちろん、とても素晴らしいことだとされる。 けれども、どんなに精密な検証があっても「キュウリを食べたらサッカーが上手くなる」な

          インプリケーション

          社会的背景とは何だろう

          人間はみんな十人十色の個性があって、そう考えると行動選択も十人十色になるように思える。けれども、実際に観察してみると、同じ社会に属している人間は同じような行動パターンを採っていることが多い。 これはどうしてだろうか。まず思いつくのは、法律や会社の規則などで決められているから(ご褒美や罰則があるから)。あるいは、その行動選択が一番得をするから。けれども、他にも原因となるものがある。 たとえばエスカレーター。あなたはどう使う? 左側? 右側? 真ん中? 歩く? 歩かない? 関

          社会的背景とは何だろう

          社会学とは何だろう

          どんな入門書でも、第一章第一節のタイトルはこんな感じ。そして次に来るのは「社会とは何か」だ。でもこれらの問いって実はとても難しい。その証拠にどんな入門書も同じ答えを書いてなんかいない。 本テキストでは、逆から行こうと思う。「SocialなものをOlogyする」のが「Sociology(社会学)」なのだけれども、じゃあOlogy(科学)って何だろう。それが第一章第一節で一番大切なことだと僕は思う。 科学とは、すごくざっくりというと、データを集めて分析し、文章や図表などを用い

          社会学とは何だろう

          本書の目的

          どんな分野でも、「入門」と表題がついた本がたくさんある。けれども、何ページか進むと、かなり内容が難しくなってくるものが多い。その分野の基本的な【知識】をしっかり教えようとすることが原因だと思う。 このテキストは、社会学を【やってみる】ための入門書だ。空手にたとえるなら、その歴史や技術体系を【知る】ことではなくて、正拳突きが【できる】ようになることが目的だ。それだって結構難しいのだけれども。 僕は元々工学部に入って(理系人間)、しかもそこを卒業もできなかった程度の脳みそ(頭

          本書の目的

          強い言葉と弱い言葉

          質的な研究を拝読していてよく違和感を感じるのは、質的な掘り下げに集中しているが故に量的調査では必須とされる充分な量のサンプルサイズや偏りのない抽出だとかいう手続きがぶっ飛ばされているにもかかわらず、「明らかになった」といった強い言葉遣いが見られることだ。 量的な研究においても、新規な組み合わせの因果推定には、慎重な調整を重ねてもなお、「かもしれない」という結論にすべきではないか、という議論がある。未知の交絡があるかもしれないからだ。横断分析で有意だったものが介入分析では有意

          強い言葉と弱い言葉