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『承』で書くのが止まるのを解消する『貫通行動』という一手!

「『承』がむずかしい」
という話が、先日の『語りきクラブ』で、話題になりました。

『語りきクラブ』は、シナリオ・センターが月に2本あげている『新井一かく語りき』という動画の原案を、みんなで考えるというyoutubeライブ配信です。

ふだんは、ダラダラ7割、まじめな時間3割くらいで配信していますが、先日の配信では、コンクールの締切時期も近かったので、「わざわざ見てくれるなら、コンクールに役立つ話をしよう」ということで、そこそこいい話をしました。
※配信のURLは、下に入れておきます

話の内容は、ふだん、プロデュサーの方向けに実施している本打ちの精度をあげることを目的とした『ディレクション講座』のなかから引っ張ってきました。

『承』がむずかしいのは、なぜか?

配信のチャットに書き込まれたのが、先ほどのつぶやき。
で、『承』がむずかしいという方、たくさんいるだろうな、ということで、どうすればいいのか、という話になりました。

『承』が難しい理由、その①

『承』は、長い!
だから、難しい。というがあると思います。でもこれは、しょうがない!承だけに!!
というか、長いのがむずかしいとしたら、それは、その長さに耐えうるアイデアを『承』で作れないからなのだと思います。
2時間ドラマでいえば、7割くらいが『承』です。84分くらいあります。たしかに、長い。

『承』がむずかしい理由、その②

その長い『承』の機能は、主人公に事件、事実、事情などの障害をぶつけて、ドラマを積み重ねていくところです。『シナリオの基礎技術』p35

となると、全体の7割くらいある『承』では、主人公に障害をぶつけていかなくてはなりません。それだけのアイデアを出さなくてはいけないので、『承』がむずかしいということになるのだと思います。

『承』がむずかしい理由、その③

主人公に障害をぶつけて、追い込んで追い込んで……どうにも解決ができなくなりそうというのが、『承』のむずかしさにあります。
なので、ドラマ全体の7割以上をしめる『承』が、および腰になってしまう。それも、『承』をむずかしく感じさせるのではないかと思います。

新井一さん流の解決策

新井一は、シナリオ・センターの創設者です。『シナリオの基礎技術』や『シナリオの技術』『シナリオ作法論集』などロングセラーがあります。
シナリオ・センターの講座は、すべて新井一が体系化したシナリオの技術をみなさんに伝えています。

じゃあ、新井一さんは、どうすればいいと言っているのか。
孫のぼくが、いたこのようにお伝えすると……こうなります。

登場人物に貫通行動を持ってきて、それに反対の障害を持ってきて、アイデアで解決すればいい

シナリオ作法論集p60

おぉ、なんともシンプル。
そうです。『承』のむずかしさは、長くて、それだけのアイデアが浮かばないというのがありました。それを解決するのが、『貫通行動』です。

『貫通行動』って、なんぞや?

新井一をいたこよろしく、おろしてくると、

わたしたちの日常生活でも、何かをしなければならないとか、こうして切り抜けようとする時、必ず心の準備がいるものです。
実はこの心の準備のことを、ドラマでは貫通行動といいます。
この貫通行動について、ドラマの教本にはあまり触れていませんが、人物が行動を起こすとき必ず必要なのです。そしてそれが妨害される(障害)にあってはじめてドラマになるのですからよく覚えて、いや覚えるだけでなく、どんどん使って欲しいのです。

シナリオ作法論集p116

本の中では、例として、秀吉みたいに天下を取ろうという貫通行動もありますし、早く電話をかけて連絡しようという気持ちも貫通行動なのです。と言っています。
古今東西のテレビドラマや映画、小説をいくつか思い出せば、すぐ浮かぶはずです。貫通行動。

『承』のアイデアが浮かばないのは、貫通行動がないから!?

『承』のアイデアが浮かばない原因の多くは、貫通行動の設定が弱いからではないかと思います。

「いや、私のドラマは、天下を取りたい!とか、海賊王になる!とか、甲子園に行く!とか、そういう系ではなく、もっと日常を描きたいので」

という人もいるかもしれません。であれば、「日常を平穏に暮らしたい」というのも貫通行動ですし、「頑張らずに生きていきたい」「友達と思い出の夏を過ごしたい」というのも貫通行動です。
で、これ全部、どんどん障害作れそうですよね。

映画の配給会社のプロデューサーさんに、シナリオS1グランプリ受賞者を紹介するというのをやっていたのですが(コロナ禍で中断中)、皆さんが腕試しに書いてくる企画書に、圧倒的に抜けているのが、貫通行動なんです。

貫通行動が抜けているから、『承』がむずかしいし、企画もおもしろく伝わらないわけです。

どうです。ご自身のシナリオ、貫通行動は描けてますか?

あえて『貫通行動』と名づけたのは、なぜか?

『貫通行動』という言葉は、今ではふつうに使いますが、名づけたのは、おそらく新井一ではないかと思います。違ったらすみません。

で、『貫通行動』という言葉にした意図を考えると、この大切さがよくわかると思います。いや、これあくまでぼくの想像の範疇ではありますが。

なぜ、『欲望』と言わなかったのか

貫通行動は、「○○したい!」「○○になりたい!」と言いかえることもできます。だったら、欲望という言葉にしてもよさそうです。
実際、新井一も、主人公に欲望を持たせることの大切さを言っている箇所もあります。

なぜ、『目的』と言わなかったのか

同様に、『目的』と言ってもいいような気がします。
キッズシナリオなんかで、貫通行動の説明をするときは、小学生や中学生にもわかる言葉ということで、「簡単にいうと目的ってことなんだけどね」と言ったります。
でも、目的とは、新井一は行っていません。なぜか。

たぶん、行動ということばが重要

おそらく、欲望も目的も、持つことはできるけれど、そこに行動が伴わないことが多々あります。
「お金持ちになりたい!」という欲望があっても、何もしない人はたくさんいます。「ミュージシャンになる!」という目的があっても、ただただ忙しい毎日に飲み込まれてしまうものです。

でも、ドラマの場合は、主人公が動かないことには、はじまりません。だから、『行動』という言葉が必要で、かつ、ドラマを貫くものであるという意味が必要だったのではないかと思います。ぼくの推測では。
なので、ドラマ全体にも『貫通行動』が必要だし、シーンのディテールを描くにも『貫通行動』が必要だと言っているのだと思います。

たとえ、主人公が何らかの状況で動けない、あきらめてしまう、としても、そこからもう一度たち上がるのは、『欲望』でも『目的』でもなく、主人公をその行動へと突き動かす一貫した思い、でなければなりません。だから、『貫通行動』と名づけたのだ!と、ぼくは思います。あくまで推測だし、新井一がこの言葉を考えたとしたら、という前提ですが。

名作から『貫通行動』とってみればわかる

『貫通行動』の大切さは、名作からこれを抜いてみたら、わかりやすいと思います。
主人公が、なんのために、苦労して進むのか、わからなくなりますよ。
『母を訪ねて三千里』
そのものずばり、母を訪ねるという『貫通行動』がなければ、ただ遠くまで歩いている少年のお話です。「一体なんのために?」って思うでしょ?

ぜひ、貫通行動について、ご自身の作品にあるかどうか、確認してみてくださいませ。

新井一のいたこ(孫)
シナリオ・センターのあらいでした。

▼この回の『語りきクラブ』で詳しく話してます▼

▼子ども向けシナリオ教室『考える部屋』も6月から始まるよ〜▼

シナリオ・センターは『日本中の人にシナリオをかいてもらいたい』と1970年にシナリオ講座を開始。子ども向けキッズシナリオも展開中。アシスト、お願いします!! https://www.scenario.co.jp/project/kids_assist/index.html