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エンタテインメントの世界へ。アロマセラピストだった私を「香り演出家」に導いてくれた、“特殊効果演出”の師匠のはなし

こんにちは。

香り演出家、郡(こおり)香苗です。

このnoteでは、香りの演出ウラ話、香りを仕事にするためにやったこと・やらなかったこと、私が最近気になっていることなどをお伝えしています。
 
春先までの慌ただしさはひと段落。今は、新しくリリースする機材の販売に向けての準備作業や、夏に予定されている舞台の打ち合わせといったお仕事はあるものの、久しぶりに自分だけの時間を楽しめています。
 
先日のGWは劇団四季のミュージカル『オペラ座の怪人』を観に行ってきました。涙が出るほど感動的でした!

私は香り演出家として、舞台演出のサポートをしています。実はこうしている今も、親子を対象にしたファミリーミュージカル全国ツアーで私たちが創った香りを演出していただいています。

アロマセラピストだった私がこのエンターテインメント業界に足を踏み入れたのは、私が「師匠」と呼んでいる舞台やイベントの特殊効果を手がけるプロとの出会いがきっかけでした。

師匠と私の近影。最初の出会いは、師匠が60代、私が30代のころ。ずっと尊敬しています!


今日は私の人生を変えた「師匠」との出会いや、舞台での香り演出の裏側についてお話したいと思います。
 

初めての香り演出は、ジャズダンス教室の自主公演

約10年前、私はアロマセラピーのサロンを運営していました。そのころ私は、子どもと一緒にジャズダンス教室に通っていました。あるとき、ジャズダンスの先生から「ダンスに合わせた香りを作ってほしい」と相談を受けました。

師匠との出会いのきっかけになった明石ジャズダンスファクトリーの舞台。大成功でした!

私が通っていたジャズダンス教室では、2年に1回自主公演を行います。先生は「単なる発表会ではなく、観客を楽しませる舞台芸術にしたい。」と、熱い思いを持っていました。そのため、ブロードウェイミュージカルなどを参考にした演出にも力を入れていました。「ダンスに合わせた香りで、観客をダンスの世界観に引き込みたい」というオーダーも、演出の一つだったのです。
 
当時は、自分が「香り演出家」として起業するとは夢にも思っていなかったのですが、自主練として音楽から香りを作る訓練をしていました。そんな私にとって、舞台での香り演出は願ったり叶ったりの挑戦。「ぜひやらせてください!」と迷わず答えました。

香りの濃さは?拡散のタイミングは?「舞台演出」は難しくておもしろい!


舞台では、演出効果を高めるために照明や音響をはじめ、さまざまな装置が使われます。舞台効果を手がける会社のスタッフとして、ダンスの先生から紹介してもらったのが師匠でした。師匠は第一線で活躍している舞台効果の専門家です。舞台だけではなく、当時評判となった人工雪の演出や、今は当たり前になっている花火の打ち上げシステムを手がけた、いわばエンターテインメント界の先駆者。演出家の希望に応えて、さまざまな装置をDIYする名人でもあります。舞台で香りを拡散する演出の経験もすでにお持ちでした。
 
ダンスから「バラ」をイメージした私は、さっそく香り作りに取りかかりました。
 
香りの濃度はどのくらいがいいのか?バラをベースに、どんな香りをブレンドすればいいのか?出来上がった香りは本当に隅々にまで拡散できるのか?全てが手探り状態でした。なんとか香りを完成させてからは、香りを拡散する機械をどこに配置するのか、どのタイミングで拡散しはじめるかも試行錯誤の連続。師匠と一緒に、本番ギリギリまで考え続けました。
 

※イメージ写真です

いざ本番を迎えても、香りをうまく拡散できるかに集中していたため、客席を見る余裕はありませんでした。無事に舞台が成功することだけを祈って、ドキドキしっぱなしだったのを覚えています。先生から「すごく良かった!」と喜んでいただけたときは、本当にホッとしました。
 
師匠から「今後もぜひ一緒にやりましょう」と声をかけていただいたのも嬉しかったです。師匠は舞台のノウハウや香り演出の経験を持っていたのですが、香りをイチから作ることはしていませんでした。そのため、香りを専門とする私と組めば「新たな舞台演出ができるだろう」と考えてくれていたようです。
 

「香り作り=精油」の固定概念から離れたら、一歩前に進めた


私は、舞台での香り演出という新たな世界を知り、「いずれは自分の力で舞台に香りを届けられるようになりたい」と思いはじめました。そのためには、まずは舞台で実際に何が行われているか、もっと知る必要がある。そう考えて、師匠が舞台効果を手がける作品のお手伝いをするようになりました。

舞台に同行し、師匠の現場オペレーションを見ながら学びました

師匠の手伝いを始めて数年後、大きな仕事が舞い込んできました。NHKホールで行われた舞台作品の仕事です。キッズミュージカル『ヘンゼルとグレーテル』で、お菓子の香りを拡散してほしいというご依頼でした。
 
「くんくんくん…いい匂いがするぞ!」というセリフを合図に、3分間のダンスに合わせてお菓子の香りを拡散するというのが、演出家から師匠に伝えられた希望。そこにピッタリの香りを作ることが、私に与えられたミッションです。
 
バニラやシナモンをブレンドした香りを師匠に嗅いでもらうと「くさっ!全然あかん!」とあまりにも辛辣なコメント。ここから、試行錯誤の日々がスタートしました。何度作り直しても師匠のダメ出しは厳しく、くじけそうになったことも。「ゲ〇の匂いがする」とまで言われたときはさすがにショックでした…!
 
アロマセラピストが香りを作るときは、花やハーブといった天然由来の精油を調合していきます。リラックスするための「いい香り」を作るのは得意でしたが、「美味しそうな香り」は初めての経験。美味しそうなケーキの香りに、なかなかたどり着くことができませんでした。
 
観客のみなさんに「美味しそうなお菓子の香り」と感じてもらうためには、何を使えばいいのだろうか?あちこちを探し回って、やっとたどり着いたのが、百貨店の製菓材料売り場でした。洋菓子の香りづけといえばバニラとシナモンくらいしか知らなかったのですが、実際に売り場に足を運ぶといろんな香料が並んでいます。そこからカスタード、バニラ、イチゴの香料を選んで調合すると、「美味しそうなお菓子の香り」が完成したのです!
 

※イメージ写真です


製菓材料を使うアイデアは、今思うと「なーんだ、こんなに簡単なことだったなんて!」と笑えるのですが、たどり着くまでの道のりは、果てしなく長く感じました。「香り=精油」という思い込みが、舞台に必要な香り作りの邪魔になっていたのです。やっと師匠のOKがもらえたときはホッとしたのを覚えています。
 
舞台の当日は、オーケストラピット(舞台と客席の間で、ミュージカルなどの演奏を行う場所)の一角に香りの拡散装置を設置。もくもくとスモークが焚かれるタイミングに合わせ、手動で香りを拡散しました。オーケストラピットをそっと抜け出し会場を見渡すと、くんくんと匂いをかいだり、辺りを見回したりと、観客のみなさんが香りを楽しんでいる様子がはっきりとわかりました。その瞬間、これまでの苦労が全て報われた気がしました。終演後に演出家や師匠から「すごくよかった」と言ってもらえたのも、本当に嬉しかったことを昨日のことのように覚えています。

師匠から学んだ「エンターテインメントのプロ」としての姿勢


舞台演出の世界で大切にされているのは、「今、この瞬間の感動」。演出効果が1秒でもズレてしまったり、スモークが焚けなかったりということが起これば、せっかくの舞台が台無しになってしまいます。そのため、気が遠くなるほど入念に準備が行われます。舞台の裏側には、大道具や装置が複雑に並びます。工事現場のようにハーネスを付けて高所作業をする人もいます。一歩間違えば、誰かが命を落とすことだってあり得る世界なのです。
 

オペレーション中の師匠。失敗が許されない現場では、緊張感が漂います


現場の裏側は、ピリピリした緊張感に包まれています。怒号が飛び交うこともあります。それは、スタッフの皆に「最高の舞台作品を作りたい」「安全第一で進めなければ」という強い想いがあるから。師匠もまた、妥協を許さない姿勢をもつプロフェッショナル。師匠から厳しい言葉を浴びせられても、私はくじけませんでした。むしろ、舞台を重ねるごとに「師匠についていきたい」という想いが強くなりました。
 
せっかくエンタテインメント界に身を置けるなら、高みを目指したい。ラクをしてそこそこのものを作るのはいや。極限まで踏ん張って、最高の舞台づくりをしたい。私は、厳しいほうが燃えるタイプなのかもしれません(笑)。

「香苗さんならできる」。不安な時にいつも思い出す、師匠の言葉

その後、大きなイベントで私が作った香りが採用され、人気ラジオ番組で紹介されたことをきっかけに、師匠以外の方からもご依頼をいただくようになりました。中には、「この装置を商品化して売ってほしい」と声をかけてくれる企業の方もいらっしゃいました。
 
「使い勝手のいい香りの拡散装置を作れば、ニーズがあるのでは?」と気づいた私は、師匠が所属する会社に協力を仰ぎ、資金を集めて新たな装置を開発に取り組むことに。それまでは、舞台効果の一種として香りを扱うことはあっても、エンタメ業界で香りを専門とする会社はまだありませんでした。新たなビジネスが生まれるかもしれない。その直感に従っての行動でした。
 

香り演出機器Scent Machine開発の様子

装置の量産体制が整い、販売代理店との繋がりも出来たところで、「もっと本腰を入れて取り組むべきでは」と考えるようになりました。当時はまだアロマセラピストと臨床心理士の勉強を続けており、大学院への入学も決まっていたのです。悩んだ末に「香り演出家としてビジネスを始めよう」と決意しました。
 
とはいえ、初めて香り演出を依頼してもらった時と同じく、手探りでのスタート。これまでは依頼に応えて香りを作ってきましたが、これからは装置のプロモーションや事業拡大のための営業活動も自分でやっていかなくてはなりません。私には当然ながらBtoB事業の経験もありません。私は、自分で決めたこととはいえ、このまま進んでもいいのかどうか、不安でたまりませんでした。
 
師匠と新世界で串カツを食べているとき、「私に、香り演出家ができるかな」と漏らしたことがあります。
 
いつものように辛辣なコメントが返ってくるかと思いきや、「香苗さんならできると思うよ」と意外な言葉。信頼できる人が背中を押してくれる。私ならきっとできる。師匠は私に、前を向いて進む自信を与えてくれました。
 
師匠は昔かたぎの職人でありつつ、面倒見のいい一面もあります。食事にもよく連れて行ってくれますし、なにより、会社の部下でもなく、舞台演出なんて何もわからなかった私をエンターテインメントの世界に連れてきてくれました。今、私が香り演出家としてエンタテインメント業界でお仕事ができているのは、すべて師匠のおかげです。

2019年5月シーナリーセント創立記念パーティーにて。師匠が熱いスピーチをしてくれました


今も師匠との繋がりは続いています。挫折しそうになったときはいつも師匠の「香苗さんならできる」という言葉を思い出し、走り続けてきました。
 
舞台を作り上げる中で、ときには本気の喧嘩をすることも。腹が立つこともありますが、本音をぶつけ合えるのは、お互いがお互いを信頼しているからなのでしょう。年が離れていることもあり、「まるで親子喧嘩のようだな」といつも思います(笑)。

師匠と私の共通目標は「2025年万博」の演出!

師匠の目標は「2025年の大阪万博の演出に関わること」です。実は、師匠は1970年に開催された万博の演出にも関わっていました。人生で2回も万博に関われたとしたら、すごいことだと思いませんか?師匠の目標は、私の目標であり夢でもあります。
 
万博の会場で、たくさんのお客さまをアッと言わせることができるよう、師匠と一緒に演出したい。そのためには師匠には元気でいてほしいし、私はそこに並んで立てるよう、経験と実績を積み重ねていかなくてはなりません。目標が叶う日まで、ワクワクしながら香り作りを続けていきたいと思います!
 
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私が代表を務める大阪・淀屋橋「SceneryScent(シーナリーセント)」では、イベントや展示会、店舗などで香りを演出する事業を行っています。
 
世の中に「ある」香りの再現も、「ない」香りのオーダーメイドもOK。
 
また、イベント会場などで香りを拡散する機器を開発。販売やレンタルも行っています。
 
◆イベント、ライブ、テーマパークで香り効果演出
◆商業施設でのクリスマス装飾香り演出
◆ホテルブライダルでの香り空間演出
◆ミュージカルなど舞台演出での特殊効果の香り演出
◆アニメやゲームなど推しキャラの香り
 
シーナリーセント https://sceneryscent.com/
 
郡(こおり)香苗

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