読解力を養う5分テスト


私が高校3年生を対象に行っている小テストの内容を紹介します。

目次

1.テストの問題例

2.この小テストの良いところ、活用方法

3.この小テストでなぜ読解力がつくのか

4.読解力のない生徒の読み方、丸暗記とは

5.問題例の解説とテストの振り返り方

6.読解力を養う意義


 タイトルにも書いてありますが、この小テストは生徒に読解力をつけさせるためのものです。実践内容としては、以下に記載するような問題を3個ほど集めた小テストを毎授業の最初5分で解かせています。早速、テストの内容を記そうと思います。


1.テストの問題例

問.酵素について述べた次の①~⑤のうち、正しいものを全て選び、記号で答えよ。

① 酵素は活性化エネルギーを上昇させて化学反応を促進する。

② 酵素を用いた反応では基質濃度が高ければ高いほど反応速度は速くなる。

③ 活性のある酵素は全てタンパク質で構成されており、熱を加えると変性・失活して本来の働きをほとんど失う。

④ 酵素は強酸や強塩基によって変性するが、強酸の存在下でも変性しない酵素が存在する。

⑤ 酵素を用いた反応は温度やpHなどによって反応速度が変化するが、反応の結果生じた物質によって反応速度が調節される場合もある。



このような問題を3個ほど集めた小テストを、毎授業の導入5分で解いてもらっています。ちなみにこの問題の正答は④、⑤です。


2.この小テストの良いところ、活用方法

・毎授業行うことで、文章を丁寧に読解するクセをつけられる

・導入5分の小テストにすることで、休み時間と授業時間の切り替えがスムーズにできる

・導入として行うので、生徒が解いてる間に出欠を確認できる

・意外と難しいので、定期試験の最終問題にこれを10問ほど入れておくと平均点がだいぶ下がる



3.このテストでなぜ読解力が身につくのか

 まず、ここで述べている読解力とは「単文を読み、内容を理解する能力」という前提で話を進めます。(長文読解のような読解力とは異なる能力を指しています。)

 このテストを繰り返すと読解力がつくと考える理由として、この問題は「文中の単語を全て読まなければ正解を判断できない問題である」ことが挙げられます。詳細は後述しますが、勉強に慣れていない生徒は単語を丸暗記しようとします。その結果として文章中にある重要単語だけに注目してしまい、その他の文章を読み飛ばすという読み方をしてしまい、文章の内容を正確に理解できなくなるわけです。そのため、②基質濃度が「高ければ高いほど」反応速度が上昇し③酵素は「全て」タンパク質で構成されており といった文章のように、重要語句以外の部分を読まなければならない問題では非常に正答率が低くなります。

 小テストの振り返りとしてこのような文章全体を読むことを意識させていくことで、「丁寧に文章を読む」クセがついて、文章を読解する能力が養われると考えます。


4.読解力のない生徒の読み方、丸暗記とは

 一年ほど前に話題となった新井紀子さんの

AI vs.教科書が読めない子どもたち

にも記載されていましたが、生徒たちは文章を読むのが苦手です。その意味するところは「日本語として音声は理解していても、その内容を理解していない状態」です。

 彼らは文章を理解するのではなく「丸暗記」を行っており、例えば上記の酵素の問題に沿ったものだと「酵素―タンパク質でできている―熱で変性・失活」といった風に、単語と単語をリンクさせている状態です。

※簡単にいうと、問題文の中に「酵素」とあったら、説明文に「タンパク質でできている」「熱で変性・失活する」と書いてあるものを選べば正解!という、単語と単語を結び付けているだけの状態

そのため、酵素は「全て」タンパク質で構成されていると言われたらこの選択肢が正解に見えるわけです。(実際は補酵素のようにタンパク質ではない部位も含んでいる、というのは教科書にも書いてある情報)

 この丸暗記の話を聞いて半信半疑になった私は、本当に生徒は言葉を丸暗記しているのかを確かめるべく次のような3秒クイズを高校1年生の生徒相手に行いました。

「今から問題を出すから、3秒で答えてね。窒素で満たされた袋に石灰水を入れて振ると色はどうなる?」

 この問題に対して5割くらいの生徒が「白く濁る!」と自信ありげに答えました。3割くらいは「窒素って石灰水で白く濁るの?」と訊き返し、2割くらいは「多分何も起こらない」的な返答でした。彼らの脳内では「石灰水を入れて振る―白く濁る」という情報が単語だけで繋がっており、入試で時間内に高得点を取るために「石灰水を入れて振る」の記載をみたら「白く濁る」という答えを返すという作業が脳へインプットされているわけです。

 ですので、生徒に思考力や読解力を養ってもらおうと思ったら、まずは文章をきちんと読むところから始める必要があります。こうした丸暗記のクセを解除する上で、この小テストは非常に役立ちます。


5.問題例の解説とテストの振り返り方

この小テストを振り返る時は、「間違っている部分がどこなのかをチェックすること」を徹底させます。

① 酵素は活性化エネルギーを「上昇」させて化学反応を促進する。

→正しくは、活性化エネルギーを「低下」させて

② 酵素を用いた反応では基質濃度が「高ければ高いほど」反応速度は速くなる。

→基質濃度が低い時は基質濃度が高くなると反応速度が上昇するが、基質濃度がある程度以上高くなると、それ以上基質を追加しても反応速度は上昇しなくなる。つまり、「基質濃度が高ければ高いほど反応速度が上昇する」が成立しない場合があるため、間違い。

③ 活性のある酵素は「全て」タンパク質で構成されており、熱を加えると変性・失活して本来の働きをほとんど失う。

→補酵素など、タンパク質以外の物質を構成要素に含むものもある。全てではない。


 文中に「」を付けた部分が誤りを含んでいます。答え合わせをしながら、間違っている部分に下線を引かせていきます。その際、どこが間違っているかを生徒に訊いて答えさせています。

 この演習を半年くらいやったあたりで、私の生徒たちはこの正誤問題に対して「①は文の〇〇〇の部分が違うから誤りで~」のように選択問題を「何となくこれが間違いっぽいから」みたいな解き方で解かなくなりました。偏差値30台からスタートした子達がこの状態になったので、かなり有用なやり方だと感じています。

 ただし、そんな彼らのセンター試験の得点は何とか平均点を超える程度でした。偏差値30台からのスタートで、一年で平均点だとある程度の結果は見えるものの、あと一工夫必要だなあとも感じています。(なお、この授業では全11人の生徒がおり、うちセンター試験受験者は6人、平均点超えは5人でした。おしい!)


6.読解力を養う意義

 読解力は、大学の新入試はもちろん日常生活や仕事においても非常に重要な能力です。職場では様々なマニュアルに目を通すでしょうし、分からない事は上司に訊くだけでなく自ら調べていかなければならない状況も多々あります。このような社会へ進出していくわけですから、読解力というのは社会人として非常に大切な素養であると考えられます。

 また新学習指導要領では主体的・対話的で深い学びに向けて授業改善しようという記載があり、これに合わせて入試も読解力や資料の読み取りなどを重視した形式が増えてきています。特に今年のセンター生物はその傾向が非常に顕著でした。社会に出てからの事よりもまずは大学受験!という生徒にとっても、読解力は避けて通れない関門となりつつあります。そんな読解力を身に付けるための「単文理解の基礎」として、ぜひこの5分テストを活用してみてください。


P.S.

新任の先生方で、授業を50分に収められないことがある!という先生方はこういった5分テストを懐に忍ばせて授業へ向かうといいですよ。時間が余ったら5分テストを配って、「はい今日の復習。チャイムが鳴ったら回収して休み時間ね。」で時間調整ができます。


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