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鉱物ってなんぞい? ― 北海道石を例に

と言うわけで (どういうわけで?) 先日発見報告が話題となった「北海道石 (Hokkaidoite)」について解説してみるよ!

北海道石がなじみの薄い有機鉱物であることも鑑みて、とりあえず「そもそも鉱物って何?」ってところから説明をしてみるから、もし鉱物の基本的な部分について既に知ってるよって人は、下にある目次の「都道府県名を冠した「北海道石」」から読み進めてね!

(Copyright (サムネイル) : 田中陵二, 2023 (flickr) )

鉱物と似た言葉との違い

鉱物と何となく語感が似ていて、よく代わりに使われる「鉱石」と「岩石」という単語。実は全く別物の単語だよ!ここでは軽く説明するよ。

鉱物にはきちんとした学術的定義があり、その詳しい所は後で説明するけど、最も重要なのは、鉱物は1つの化学成分で定めることができる点だよ。理科の教科書的に言えば、鉱物は純物質であると言い換えることができるよ。

一方で岩石は、鉱物という純物質が複数混ざった混合物であるという違いがあるよ。一応、石灰岩のようにほぼ1種類の鉱物で構成された岩石もあるものの、ほとんどの岩石は混合物であり純物質ではないというのが大きな違う点だよ。だから鉱物と違い、岩石は通常の意味での化学成分を定めることができないよ。ただし、岩石は構成鉱物、粒の大きさ、でき方などによって種類を定めることができるので、これも学術的定義のあるものということになるよ。

そして鉱石。これはそもそも学術の範囲ではなく、商業的な単語になるよ!鉱石とは、産業的に有用な元素や成分を含んでおり、それを掘り出した時に商業的に利益を得られるほどの量や純度となっている、資源的に有用な鉱物や岩石のことを指すよ。つまり、全く同じ成分の鉱物や岩石が存在したとしても、その場所でどれくらいの量が眠っており、その地域で採掘することで生じるコストと釣り合うかどうかで、鉱石と呼ばれるかどうかは変わってしまうよ!鉱物の代わりに鉱石と呼ぶ文脈はしばしばあるけど、実際のところは鉱物と鉱石はイコールではないどころか、最もイコールからほど遠い単語とすら言えるよ!

鉱物の定義

さて、さっき言ったように、鉱物には定義があるよ。基本的には以下の4つを満たすものと言われているけど、後述するように割と例外があるよ。これは天然に存在するものだからある程度柔軟に対応している、というのもあれば、歴史的な理由といった人為的なものもあるよ。

1. 地質学的作用により生成された、天然に産するものである

鉱物の定義の中で最も重要なのはこれだと思うよ。現時点で鉱物と認められているものの多くは人工的に合成ができるし、いくつかは生体が生み出すことができるよ。例えば貝殻は炭酸カルシウム、骨や歯は水酸リン酸カルシウムといった具合に、鉱物と同じ成分を持つ物質を生体が生み出している例はあるものの、これらは排除されるよ。

ただし、これらはあいまいな部分もあるよ。例えば植物由来の堆積物が高温に晒されて生じたエヴェンキ石 (Evenkite) 、コウモリの糞が変質してできたタラナキ石 (Taranakite) 、骨化石が変質してできたブラッシュ石 (Brushite) 、鉱山の坑道内壁に生じた大阪石 (Osakaite) のような鉱物は、生体由来の物質や人為的な地形改変があってこそ生じた、生物の関与を排除できない鉱物と言えるよ。とはいえ、この理屈を続けてしまうと、大半の方解石は生物の殻が堆積・変質してできたものと言えるし、極論を言えば、金属酸化物の大半は30億年以上前にシアノバクテリアが生み出した酸素と結合することで生じた、生物の関与した鉱物だ、と屁理屈を言えてしまうからね!

このため、生物や人間の関与を完全に排除できるもののみが鉱物だ、という感じではないよ。なので途中経過はともかくとして、最終的な段階で生物の関与や人為的な誘導なしに、純粋な地質学的な作用によって化学反応が起こって合成された物質が鉱物である、という感じではあるものの、この辺はかなりあいまいだと言わざるを得ないよ。

ちなみに、ここでいう天然とはなにも地球とは限らないよ!地球外からやってくる隕石を調べれば、地球ではほぼ、あるいは全く存在しない鉱物がたくさん見つかるよ!もちろん隕石に限らず、他の天体でも全くOK!最も極端な例は、グリッグ・シェレルップ彗星の塵からのみ発見されている鉱物であるブラウンリー鉱 (Brownleeite) だね。ただし後述するように、鉱物として認められるにはより多くのことを調べなければならないことから、現状では実際にサンプルを手元で調べられる場合に限られるよ。

2. 自然状態で固体である

そもそも鉱物が岩石の構成物質であることを考えれば、鉱物が固体であるのは必須であると思えるよね?実際、次の定義である結晶構造に関わることから、固体であることは必須要件であるように思えるよね。

ところが、これにはいくつかの例外があるよ。最も強い例外は自然水銀 (Mercury) だね。-38℃以上では液体金属であり、ツンドラか氷雪気候でもない限り自然水銀は固体になることはないけど、それでも自然水銀は鉱物だよ。これは、自然水銀が数千年とも数万年とも言えるくらい古い時代から認知され、鉱物の扱いを受けているという特別扱いだよ。

次の例外は (Ice) だよ。ご存知の通り、氷は0℃で融けてしまうため、水は鉱物じゃないけど氷は鉱物であるというかなりややこしい状況にあるよ。更にややこしいことに、2017年にはボツワナで見つかったダイヤモンドの中に、通常の氷とは異なる結晶構造を持つ氷が見つかったよ!この氷は、実験室では既に合成されていて、氷VIIと呼ばれる結晶構造を持っているので、当初はこれで正式名称とされたよ。しかし、2022年に名称が立方氷 (Cubo-ice) に変更されたよ。立方氷は常温でも固体な代わりに、大気圧の3万倍の圧力がないと存在できないよ!ダイヤモンド内部と言う高圧がかかっている状態だからこそ固体状態が維持されていると言え、もしこれだけを室内に取り出したらたちまち変質するよ!

この、環境条件を変えれば固体かどうかの話が変わってくるというもう1つの例は南極石 (Antarcticite) があるよ。某マンガで知名度があがったもののそれ以前はかなりマイナーだったこの鉱物は、名前の通り南極の塩湖で発見されたよ。確かに、発見された現地では固体であり立派な結晶を示していたけれども、25℃くらいで融けてしまうことから、南極の外に持っていけば融けてしまうことになるよ!しかも、南極石の発見は1963年と結構最近。でも南極石は発見地の環境で固体を維持していることから、鉱物として扱われているよ。南極石と立方氷は、近現代に発見された物質であり、通常環境では固体にならない物質でも鉱物扱いされるという門戸が開かれていることを示す例であると言えるよ。

3. 一定の結晶構造を持っている

結晶構造とは、原子が一定の周期で並んでいる構造のことだよ。つまり同じ方向に直線で進んでいくと、同じ間隔で同じ種類の原子がいつまでも現れるような構造だよ。結晶構造を持っている相は固体なので、重複定義じゃないかと思えるかもだけどこれは重要だよ。そもそも氷と立方氷が別の鉱物扱いされているように、全く同じ化学成分を持っていたとしても、結晶構造が異なれば異なる鉱物として扱われるというのは、石墨 (Graphite) とダイヤモンド (Diamond) のように無数にあるよ!ということで、結晶構造は定義であると同時に、鉱物のアイデンティティを決める重要な要素であるとも言えるよ。

一応、これにも例外があるよ。オパール (Opal) やネオトス石 (Neotocite) のようにアモルファスと書かれているのは典型だね。ただ、これは真の意味で結晶構造を持たない物質ではなく、極めて短い長さの結晶構造がぐちゃぐちゃに混ざっている結果、結晶構造を持たないように見えるものだよ。これらはX線回折という一般的な結晶構造解析法では分析できないけど、電子回折という別の方法では隠れた結晶構造が見えてくることがあるよ。芋子石 (Imogolite) やアロフェン (Allophane) のようなのもこれに似ているものの、これよりももっと複雑な構造をしていると見られていて、はっきりとした正体が研究中なくらいだよ!

では、一定の結晶構造を持つとはどの程度のことを言うのか?今のところ、天然で続々見つかっているナノサイズの粒子は鉱物扱いされていないよ。せいぜい数百個の原子の大きさしかないから妥当とも言えるけど、少なくとも明文化された定義は存在しないよ。

ちなみに、2011年のノーベル化学賞にもなった準結晶は、結晶構造は持つけど、同じ原子の配列は二度と現れない、普通の結晶とアモルファスの間のような性質を持っているよ。では、天然の準結晶は鉱物か?今のところは鉱物扱いされているよ!そのような例は今のところハティルカ隕石の中からのみ見つかっており、それぞれ二十面体鉱 (Icosahedrite) 、十面体鉱 (Decagonite) 、プロキシ十面体鉱 (Proxidecagonite) と名付けられているよ。

4. 一定の化学組成を持つ

鉱物の大きな特徴として、一定の組成を持つことだよ。つまり、鉱物は1種類の化学物質として定義が可能だよ。

ただ、鉱物は天然物である以上は、ある程度緩い規則があるよ。例えば自然金 (Gold) の場合、多かれ少なかれ銀を不純物として含有しているよ。しかしこの場合、最も多い元素を代表して自然金という名称になるよ。自然界は実験室じゃないので、多かれ少なかれ不純物の存在はあるので、何かしらのルール (ほとんどは最も多い元素を基準とする) で鉱物の組成を1つに定義づけているよ。ただし、不純物の存在が結晶構造の維持に重要などの例外があれば、その不純物の存在も込みで組成が決定されるよ。

なお、古い文献だと、ここに無機物であるという記述が付いている場合も多いと思うよ。現在では、今回の話の主題である北海道石も含め、有機物の鉱物も多数見つかっていることから、これはもはや古い話だよ。

新鉱物とは?

上記のような定義を満たすものを鉱物と定義づける場合、当然ながら自然界の探索で今まで未発見の鉱物が見つかることがあるよ。そのような新種の鉱物である新鉱物を発見した際には、その組成、結晶構造、産地などといった、未発見の新種であることを証明するデータを国際鉱物学連合 (IMA) に申請する必要があるよ。申請内容はIMAの中の新鉱物および鉱物名に関する委員会 (CNMMN) において審議され、委員の過半数が参加した投票で2/3以上の賛成が得られれば、晴れて新鉱物として認められるよ!

さて、新鉱物には発見者によって名前が付けられるけど、何でもいいわけじゃないよ。最近の新鉱物の多くは人名で、地学に多大な貢献を残した人を称えての献名である場合が多いよ。これは鉱物学に限らず、地学と関連していればOKだよ (モーツァルト石 (Mozartite) のような、かなりこじつけのような名前も中にはあるけど…) 。その次に多いのは地名だけど、大抵は発見された鉱山や市町村といった、ごく小さな単位の地名である場合が多いよ。県や国レベルのかなり大きな単位の地名である場合には、発見地である以上の特別な意味が込められることが多いよ。

他に許されているのは、色や形、組成といった、鉱物そのものの特徴に対する命名だね。また、角閃石や輝石といった、特定のグループに属する鉱物の場合、ある程度命名に制限が加えられている場合もあるよ。また、バナルシ石 (Banalsite) に対するストロナルシ石 (Stronalsite) (どちらも化学組成に基づく命名) 、海王石 (Neptunite) に対するわたつみ石 (Watatsumiite) (どちらも発見地の文化圏における海の神) のように、制約はないけれども先に発見された鉱物に倣った命名がされている、というユニークな例もあるよ。

有機鉱物とは?

さて、そろそろ本題に入りたいところだけどもうひとつだけ!今回紹介する新鉱物である北海道石で欠かしてはならないのは、それが有機物 (有機化合物) の組成を持つ有機鉱物であるという点だよ!

地質学的作用で天然に生成される物質であること、有機物の多くはマグマのような高温に耐えられないことを踏まえれば、有機物である物質が鉱物扱いされるのは稀なのはある意味自然だよね。しかし、鉱物はずっと低温でも生成しうるので、有機物の組成を持つ鉱物はありうるよ。どちらかといえば、それが生物の関与なしに生成したことを示す方に苦労するということと、鉱物の大半が無機物である関係から、無機化学の専門家が必ずしも有機化学にも詳しいわけではないことも合わせて、どうしても研究する人が少ないという弊害があるんだよね。だから世界中で6000種類近く見つかっている鉱物の中で、有機鉱物は100種類もないくらいしか見つかっていないよ!

更に、有機鉱物は以下の3つに細分化されるけど、その多くは1番の有機酸塩に属するよ。

  1. 有機酸塩鉱物: シュウ酸塩やギ酸塩といった、有機酸の塩である鉱物。

  2. 炭化水素鉱物: 文字通り水素と炭素のみでできた鉱物。北海道石はここ。

  3. その他の有機鉱物: 文字通り有機酸塩でも炭化水素でもない有機鉱物。

なぜなら、有機酸塩の鉱物は一番無機物に近いっぽい性質を持っており、それだけ地質的にも安定だからね。逆にその他の部類はほぼ完全に有機物と言えるもので、生物の直接関与を排除するのが大変な領域だよ。中には尿酸石 (Uricite) のように、ほぼほぼ生物の老廃物由来であるものすらあるからね。

ところで、石油は有機鉱物じゃないよ。固体ではなく液体である、という点も大きいけど、なによりも化学組成が一定じゃないからね。一応、石油には北海道石を始めとして、単独で取り出せば固体の結晶を作る物質もあると言えばあるんだけど、石油に溶けているという状態は固体じゃないから、これをいくら調べても鉱物としては扱われないよ。蛇足だけど、同じく琥珀も、組成や結晶構造が一定ではないことから有機鉱物とは扱われないよ。


都道府県名を冠した「北海道石」

今回、相模中央化学研究所の田中陵二氏らが報告したのは、新鉱物の「北海道石 (Hokkaidoite)」だよ。

北海道石の概要の概要 (?)

新種の鉱物として驚きなのはもちろんだけど、何よりびっくりなのは、日本で初めて発見された多環芳香族炭化水素 (後で詳しく説明するよ) の組成を持つ鉱物である点だよ!炭化水素を組成に持つ鉱物は世界中でも10種類とちょっとくらいしか見つかっておらず、北海道石はその点だけでもかなりスゴい鉱物だよ!

加えて、このような組成を持つ鉱物の多くは、紫外線を当てると光る蛍光を持つことが多いよ。北海道石も黄色から黄緑色の光を放つ性質があり、これが発見のきっかけの1つとなるくらい稀な性質でもあるよ。一般に、紫外線を当てると光る鉱物というのは蛍石 (Fluorite) や燐灰ウラン石 (Autunite) を始めとして多数あり、当たり前とは言わないまでも、結構見かける性質だよ。また、多環芳香族炭化水素は紫外線で蛍光することは珍しくないよ。しかし光るという特徴は、あまり鉱物に関心のない人でも注意を惹くよね。そして、光っているのがめったに見つからない炭化水素の鉱物となれば、その魅力はさらに増しているよ。

北海道石の "先輩" カルパチア石

北海道石の "先輩" とも言えるカルパチア石。紫外線で強烈な青白い蛍光を示すよ。 (Copyright: Michael C. Roarke, 2010 (mindat.org) )
カルパチア石は有機化学的にはコロネンという炭化水素だよ。後述する通り、今回初めて日本で発見されたよ。 (Copyright (カルパチア石) : Michael C. Roarke, 2010 (mindat.org) / 筆者により加筆・トリミングあり)

ところで、紫外線で強く輝く多環芳香族炭化水素といえば、ある意味で先輩と言える鉱物があるよ。それはカルパチア石 (Carpathite) 。黄色い針のような結晶をしているこの鉱物は、紫外線を当てると強い青白い光を放出するよ。このカルパチア石は、有機化学的にはコロネン (coronene) という物質と同じ分子でできており、これの天然結晶といえるよ。分子式も特徴的で、炭素が正六角形に結びついたベンゼン環が全部で7個くっ付いている、あるいは6個がぐるりと輪を描いたとも表現される形を持っているよ。コロネンのように、ベンゼン環が多数結合した有機分子を多環芳香族炭化水素と呼ぶよ。

コロネンは炭化水素としては結構熱に強い物質で、実際に見つかっている場所も、過去に大きな熱を受けたと推定される場所だよ。また、石油にはコロネンが含まれているのが見つかっているよ。なのでカルパチア石は、石油成分が高温を受けて変質し、それによって生じたコロネンが何らかの理由で結晶化したものだ、とはぼんやりと考えられていたけど、その詳しい過程が謎だったよ。

光るオパールと炭化水素はどう繋がる?

産地の状況。層ごとに蛍光する色が違うことから、異なる物質が異なる時期に堆積したことが分かるよ。 (Copyright: 田中陵二, 2023 (flickr) )

これとは別に、2014年頃に北海道の鹿追町において、紫外線で蛍光するオパールという世にも珍しいものが見つかっていたよ!大半のオパールはもちろん蛍光しないよ。たまに蛍光するオパールも見つかるものの、これはウランなどの微量元素によるもので、鹿追町のオパールも当初はその方向で検討されたものの、詳しい蛍光を示す理由が分からなかったよ。なぜなら、微量元素による蛍光ならば大抵1色になるはずなのに、鹿追町のオパールは層ごとに色が異なるカラフルな蛍光を示していたからだよ!層によって蛍光が全然違うのに、微量元素の種類や濃度はほぼ同じ。これでは色が色々な理由の説明がつかないことになってしまうからね!

しかし、オパールの蛍光の理由は多環芳香族炭化水素であるとアタリを付ければ、実は色んなことが解決するよ。日本では多環芳香族炭化水素の鉱物は見つかっていないのであまり候補に挙がっていなかったこともあるし、実際に多環芳香族炭化水素であると証明するには、有機分子として詳しい構造解析をしないといけないので、分析はかなり大変になるよ。このような分析は、単に元素の種類を見るだけという従来の解析方法では全く分からない話なので、今までの分析で理由不明とされてきたことにも説明がつくよ。そして、多環芳香族炭化水素はその構造によって蛍光の色は多種多様な一方で、元素として見れば炭素や水素の数がわずかに違う程度。つまり、ちょっとした違いが多種多様な色を見せる源となるから、カラフルなオパールの理由になると推定することができるよ。

このオパールの産地は大雪山系の近くにあり、過去に火山の熱によって温められた地下水が、温泉として噴き出していた場所に当たるよ。温泉水にはオパールの素となるケイ酸塩が溶けており、これが少しずつ堆積することで層状のオパールとなるよ。この温泉が噴き出すような状況と、温泉を作るための火山の熱がある状況ということは、多環芳香族炭化水素がオパールに含まれるという理由付けにもなるよ。そもそも石油というのは生物の遺骸が長い時間をかけて変質したものではあるけど、この変質には熱の関与も重要な要素の1つだよ。この熱のかかり方によって、含まれる有機分子の種類や量は様変わりするよ。熱に強いコロネン (カルパチア石) は、熱による変質が極端に進んだ石油の成れの果てであると考えれば、カルパチア石のある場所が過去に熱を受けた場所と一致している、というのは無理のない考えにも思えるよ。

北海道石が含まれているオパールのサンプル。黄色から黄緑色をしている部分に北海道石が含まれているよ。ただし、色が似ていても北海道石ではないものが含まれていたりするし、色が明らかに違う層もあるように、このサンプルにはまだまだ未知の鉱物が眠っている可能性があるよ。 (Copyright: 田中陵二, 2023 (flickr) )
北海道石は有機化学的にはベンゾ[ghi]ピレリンという炭化水素だよ。石油に溶けている形なら既に見つかっているけど、固体結晶の形で見つかったのは今回が初めてだよ。 (Copyright (北海道石) : 田中陵二 (flickr) / 筆者により加筆・トリミングあり)

ということで、地下での炭素成分の循環を研究していた研究チームは、オパールに含まれるのが、地下に存在した炭素成分、つまり石油由来の有機分子であるとアタリをつけて研究を行ったよ。鹿追町のオパールの他に、似たような蛍光を示す愛別町のオパールについて、含まれる有機分子を解析してみたところ、層ごとに分子構造が異なることが判明したよ!その中の1つはコロネン、つまりカルパチア石と判明し、日本で初めて発見されたカルパチア石となったよ。しかし他にもいくつかが見つかり、その中の1つはベンゾ[ghi]ペリレン (benzo[ghi]perylene) という構造をしていることがわかったよ!ベンゾ[ghi]ペリレンは石油成分としての報告はあったものの、鉱物として報告できる固体結晶としての発見は今までになかったよ!

研究チームは、この物質が今まで報告のないベンゾ[ghi]ペリレンの天然結晶であることを示したデータをIMAに提出、2023年1月にIMA No. 2022-104として北海道石が正式登録されたよ!

2023年1月に承認された新鉱物の1番目に北海道石 (Hokkaidoite) が登録されているよ。 (元論文のキャプチャ)

北海道石から北海道の地下のことが分かるかもしれない

北海道石の分子構造とカルパチア石の分子構造はとてもよく似ているよね?これは見た目の問題だけでなく、合成ルートや結晶化など、鉱物としての重要な情報にも関わっていると考えられるよ! ( [Copyright] カルパチア石: Michael C. Roarke, 2010 (mindat.org) /  北海道石: 田中陵二 (flickr) / 筆者により加筆・トリミングあり)

ところで、なぜ北海道石はオパールに含まれているんだろうね?北海道石とカルパチア石の分子構造を比較してみると、原子としては炭素が2個違うだけで、見た目にはベンゼン環が1つだけ欠けているように見えるよね。これは単に見た目の問題だけでなく、カルパチア石が合成されるルートの途中経過に北海道石が含まれている可能性があるよ。この合成ルートは理論的には予測されていたけど、鉱物として見つかるほど多量に合成されているのが証明されたのは今回が初めてだよ。つまり、北海道石とカルパチア石が含まれるオパールは、北海道の地下で起こっている石油変質のスナップショットを提供している、と言うことになるよ!

また、オパールの蛍光色が層ごとに違うのは、含まれている成分の違いに由来することが分かっているよ。オパールは温泉水に含まれている成分が少しずつ堆積してできたものだ、とさっき説明したけど、この時に北海道石やカルパチア石も堆積したものと考えられるよ。ただ、北海道石とカルパチア石は、有機分子としては別物なので、温度や溶解度といった、堆積するかしないかの物理条件が異なるよ。ということで、層ごとに鉱物の種類が異なる理由は、その時々の堆積条件の違いを反映していることになるよ。

今回研究されたオパールは、まだ全てが探索しきれているわけではなく、更に未知の炭化水素の鉱物が含まれている可能性が大いにあるよ!種類が特定されることで、このようなオパールの生成条件や、それ以前の段階である、地下での石油の生成や変質について、更に多くの情報が分かるようになるかもしれないよ!

産地の保護について

これは研究のプレスリリースでも言及されているところだけど、今回北海道石が発見された2ヶ所については、詳しい産地は非公開だよ。産地は大雪山国立公園の中にあるので、そもそも 1934年から採集禁止だし、そうでなくてもあの辺はいつヒグマに遭遇するかわかったもんじゃないから、行くこと自体が危険だよ!

といっても、虹色に光るオパールなんてのは恐ろしく一般の目を引くし、そこに新種の鉱物が混ざっているとなればますます注目されるのは無理もないよね。北海道石の発見のニュースは多くのメディアが取り上げているところだけど、新鉱物発見という話題が全国に流れるのって実は結構珍しいんだよね?なぜって?大体世界中で年100種類くらいの新鉱物が発見され、日本でも毎年数種類くらい見つかっているんだけど、じゃあ聞いたことある~?って感じだもんね。北海道という都道府県名が付いていることと、見た目にもキレイというのは、広告宣伝効果が相当絶大なのは否定できないところだよね。

そして、この見た目の綺麗さが災いしたのか、どうも北海道石の発見や研究の何年も前から、この産地のオパールが出回っているんだよね。1934年より以前の採集品だったなら一応合法だけど、そんな昔から知られていたものじゃないから、出所は極めて怪しいんだよね。しかも、この手の鉱物は光る色が類似している鉱物が無数にある、肉眼判定がほぼ不可能なもので、合法違法に関わらず北海道石だとラベルされた標本に果たして北海道石が含まれているのか?となるとかなり疑問なんだよね。

そりゃあ、私だって合法的な北海道石の標本があるなら、めっちゃほしいよ?光るからじゃないよ?有機鉱物という極めて珍しい鉱物であり、他の有機鉱物とセットになっていて、地質学的にも生成の仕方が極めて独特と、科学的価値がスゴいからね!レア物のコレクターとしては欠かしたくないよ!ただ、科学的価値があるからこそ、ダメと言われたものは我慢するのが、自然物をコレクションしている身分としての正しい態度なんじゃないかな?

実際のところ、北海道石に強烈な視覚的宣伝効果があるのなら、地質学的に貴重な場所を保護するための主要な例として利用するのはアリだと思うんだよね。北海道石やその他の炭化水素を含むオパールの存在は、地下でどのように石油が生成・変質するのか、という過程を調べるためには極めて重要なんだよね。近年になるまで存在が分かっていなかったように、こういう希少なサンプルがあるような場所は資源量的にも希少なことが多いので、盗掘の被害にあえば取りつくされたり、現状を荒らしてしまって科学的研究を妨げかねないんだよね。欲しい気持ちはスゴくよくわかるけど、だからこそ希少な場所を保護する必要があるんだよね。

日本列島は南北に長い上に4枚のプレートが交差している場所なので地質構造が極めて複雑で、国土面積は狭いのに1000種類以上の鉱物が見つかっており、100種類以上の新種も見つかっているよ。世界で見つかっている鉱物がもうすぐ6000種類なことを考えれば、この数は圧倒的だけど、では1つ1つの産地は、というスケールで見ると超狭いんだよね。なのでちょっとした盗掘や開発が、あっという間に産地を消し去るなんてのは全然ありうるよ。この話が、貴重な動植物の新種だったりしたら、命のあるものとして幾分か強く保護の意識が働くけど、新鉱物となると命がないただのモノじゃんってことで、割と違法な採集へのハードルが下がってしまうのは否定できないのよね。だからこそ、北海道石を広告塔として、地学的に重要な場所は動植物と同じように保護しようねという意識が少しでも根付けばいいんじゃないかな、と私は思うよ。

それに、北海道石は今のところ研究された場所でしか見つかっていないけど、高温で石油成分が変質する環境というのは日本にあちこちあるし、外国にもたくさんあるよね。ということは出所が怪しい上に真贋鑑定も微妙な北海道石に手を付けなくても、他の産地で合法的な北海道石や虹色蛍光のオパールが出回る機会は全然あると思うのよね。ということで北海道石が欲しい人はそんなに騒がず、果報は寝て待てスタイルで待ってみるのがいいんじゃないかなと私は思うよ。

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