読書メモ:進化とは何か?

2014年に出版された"The Princeton Guide to Evolution"の冒頭、"What is evolution?"を「生命の歴史は繰り返すのか?」の著者Jonathan B. Lososが書いている。"The Princeton Guide to Evolution"の全体像を紹介しつつ、本人の進化の見方を述べている。以下は要約。

約 3 億 7500 万年前、サンショウウオに似た大型の生物が水中から飛び出し、脊椎動物の上陸が開始した。これが鳥や獣の繁栄を導いた。それより何百万年も前に、植物が上陸し、その後すぐに、またはおそらく同時に、節足動物が続いた。

進化生物学者は、このような歴史を理解し、生命がどのように、そしてなぜ特定の道を歩んできたかを説明しようとする。さらに、進化が現在どのように進行し、今後どのように進化していくのかを研究する。

1. 進化とは何か?


進化生物学者の間でさえ、進化はさまざまな方法で定義されている。例えば、広く読まれているある教科書では、進化を「世代の経過に伴う生物群の特性の変化」(Futuyma 2005)とし、別の教科書では「時間の経過に伴う対立遺伝子頻度の変化」(Freeman and Herron 2007)と定義されている。

2. 進化:パターン対プロセス


自然淘汰は進化を引き起こす一つのプロセスであるが、自然淘汰は進化を生み出さずに起こることもある。逆に、自然淘汰以外のプロセスが進化をもたらすこともある。

集団内の自然選択とは、ある形質(例えば、青い目)を持つ個体が、別の形質を持つ個体よりも、健康で繁殖力のある子孫を次の世代に多く残す傾向がある状況を指す。このような選択を何世代にもわたって続けることで、集団の体質を大きく変化させることができる。

自然選択が進化をもたらすためには、形質転換が親から子へと伝えられる必要がある。

場合によっては、遺伝的な違いではなく、成長過程で経験した環境が異なるために表現型が異なる個体もある。しかし、集団内の表現型の変化の多くは、実際には遺伝的なものであり、その結果、自然選択はしばしば進化的変化をもたらす。

突然変異、遺伝的浮動、遺伝的性質の異なる個体の移入など、他のプロセスもまた、ある世代から次の世代へと集団の遺伝的構成を変化させることがある。すべての進化が適応的であるとは限らない。

3. 進化:遺伝子プールの変化以上のもの


前世紀中頃の集団遺伝学の全盛期には、多くの生物学者が進化を遺伝子頻度の世代間変化と同一視していた。「総合進化説」によって、この分野は数十年間、自然選択に重点を置いた集団の遺伝学に主眼を置いていた。しかし、集団には予想以上に多くの変異があることが判明し、自然淘汰が進化の変化を導く支配的な力であるという見解に疑問を投げかける中立説へとつながった。

進化論的思考が拡大した3つの側面は、
1.発生は複雑なプロセスであり、DNA配列の検討だけでは理解できない。表現型がどのように進化するのか、また、発生システムが進化の変化をどの程度制約し、方向づけるのかを理解するには、分子学的、発生学的な詳細な知識が必要である。

2.歴史は進化を理解する上で不可欠である。例えば、断続平衡や停滞、種選択、大量絶滅に関する理論など、古生物学は進化生物学の重要かつ活気ある一部となっている。同時に系統関係に関する情報、種間の関係がすべての側面を解釈する上で重要である

3.生命は階層的に組織化されている。例えば、齧歯類は2000種以上いるのに、哺乳類の中でもかなり古いクレードである単弓類(カモノハシとハリモグラ)はなぜ5種しかいないのか?この問いに答えるには、種全体の特性を問う必要がある。進化は生命の階層構造の複数のレベルで起こっており、その複雑さを理解するためには、これらの異なるレベルでの進化と、それらの間の相互作用を研究する必要がある。

遺伝的変化は依然として進化生物学の基本的な基盤となっています。しかし、近年では、表現型の可塑性のように遺伝によらない変化にも注目が集まっている。なぜ集団は無限に可塑性を持ち、どんな環境でも適切な表現型を生み出すことができるように進化しないのだろうか?表現可塑性と遺伝的変化のコストを比較することは難しい。

集団間で観察される違いは、異なる環境条件に対する可塑的な反応を反映している可能性があり、遺伝的な差異を反映していない可能性もある。このような非遺伝的な差異が一貫して世代間で伝達されると、遺伝的に決定される形質に対する選択圧が異なり、集団間の進化的分岐を促進する可能性がある。伝統や文化の違いがその行動に関連する形質の遺伝的分岐を引き起こす可能性がある。

4 . 進化論に照らして


ドブジャンスキーは、「生物学では、進化に照らし合わせなければ何も理解できない」と宣言した。

ヒトゲノム解読プロジェクトの結果が発表されたとき、人々はヒトの生物学がまもなく徹底的に理解されると信じた。しかし、遺伝暗号とは、DNAを構成する4つのヌクレオチドの羅列に過ぎず、ゲノムの多くは、機能を持たない。遺伝子がどのように機能しているかを解明するのは、容易ではない。

ゲノム学者たちは、ヒトゲノムを理解する最善の方法は、ヒトの塩基配列を他の生物種の塩基配列と系統的に比較し、進化の歴史の中で研究することだとすぐに理解した。DNAの非機能的な部分は、時間の経過とともに差異が生じる傾向があるため、進化が緩やかなDNA領域を特定し、機能的な遺伝子の位置を特定することができる。さらに、ある遺伝子がどのように機能するかは、他の生物種の相同遺伝子の機能と比較することなどで推測できることが多い。

生命の木全体のゲノムを調べることで、有用な知識を得ることができることが明らかになっている。。例えば、ヒトのパーキンソン病の遺伝的原因に関する知識は、ショウジョウバエの同種の遺伝子を調べることで得ることができる。

5. 進化への批判と証拠


進化生物学の基礎である「種は時間の経過とともに進化する」という考え方は、科学の中でも特異なもので、特にアメリカ、トルコ、その他数カ国では、科学者でない多くの人々に受け入れられていない。

しかし、進化に関する科学的データは圧倒的である。

進化論の根拠は、2つの柱の上に築かれている。第一に、化石記録は生命の歴史における主要な変遷と小さな変遷の両方を記録している。第二に、進化のプロセス、特に自然淘汰についての理解である。

進化の発現が非常に多くの重要な社会的結果をもたらす。病原菌やウイルスの進化的な適応により、多くの薬が効かなくなる。

6. 進化のスピード


生物学者たちは、進化は通常ゆっくりと進むものだと考えていた。

ダーウィンは、自然淘汰が弱く、その結果、進化はゆっくりと起こり、検出可能な変化を起こすのに何千年、何百万年かかるだろうと予想していた。

しかし、1970年代に本格的に始まった自然淘汰に関する長期的な野外調査は自然界の選択はしばしば強力であり、その結果、進化的変化はしばしば非常に速く起こることを明確に示した。

ピーター・グラントとローズマリー・グラントのガラパゴスフィンチの研究によって、天候による環境変化に対応して世代交代する鳥の急速な進化が記録されたことに端を発し、自然界のリアルタイムの進化の研究が多くの事例を記録した。

捕食者のいない小川に生息するグッピーは、一般に色彩が豊かであることに着目したジョン・エンドラーは、捕食者のいる小川から捕食者のいない小川に魚を移したところ、あっという間に色彩の豊かな個体が生まれた。

7. 進化・人間・社会


進化は、さまざまな意味で人間にとって重要な意味を持つ。人工淘汰を改善するために、進化の知識が重要である。さらに、医学、生物多様性の保全、犯罪科学、実験室で新しい分子を作る、解析的に困難な問題を解くアルゴリズムを考案するといった人類の重要課題まで含まれる。

進化を理解することは、人間とは何なのか、といった私たち自身についての多くを教えてくれる。化石は人類進化を解明し、過去と現在の人類と霊長類のゲノムの配列は、これらの発見を重要な形で補完した。

しかし、私たちの進化の未来はどうだろうか。医療が多くの遺伝的形質を改善しただけでなく、避妊のような文化的習慣が、有益な形質と生殖能力の間の正の関係を断ち切るかもしれない。

これらの指摘は妥当なものではあるが、絶対的なものではない。遺伝子に基づく形質が生存や生殖の成功と相関していることを示す証拠があり、自然選択は依然として進化的変化をもたらしている。しかし、現在進行中の地理的な遺伝的交流は、過去の進化の歴史の結果である地理的変異を減少させている。

人類の進化を形成する上で淘汰は重要であったが、だからといって自然淘汰が人類のあらゆる側面を説明できるわけではない。人間の行動のほとんどに、過去または現在の状況への適応の証拠を見る人もいれば、より懐疑的な人もいる。

人間とは何かという問題を解決するために、多くの人が進化論に期待している。これらの問題は主に哲学の領域であり、本書ではほとんど含めないが二つの考えを述べる。第一に人類は進化の木の何百万という小さな枝の一つに過ぎない。次に、恐竜のいた生態系において、哺乳類の祖先は小柄でマイナーな存在であった。もし、6530万年前に小惑星が地球に衝突して恐竜が絶滅し、私たちの種を含む哺乳類の進化的多様化の道が開かれなかったら、世界はどうなっていただろう。

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