メモ:進化という言葉

進化と言う言葉は広く使われている。Google検索ではevolutionは29億件、進化は3億2千万件ヒットする(2023年8月1日)。生物学での定義では、「生物個体あるいは生物集団の伝達的性質の累積的変化」(生物学事典)だが、わかりにくい定義だ。一方、日本大百科事典では「長大な時間経過に伴い生物が変化していくこと」とある。こちらの方が一般人にはなじみやすいだろうが、不十分である。進化生物学では議論はあるものの、集団内での遺伝子頻度の変化を進化とみなし、大腸菌などでは数日あるいは数時間で進化は生じる。それに対して一般的には、恐竜が絶滅して哺乳類が増加するだとか、猿の仲間からヒトが誕生するような大きな変化を進化ととらえている。

現在の進化理論の基礎となっているのがダーウィンの「種の起源」である。書名は「種の起源」であるが、ダーウィンは種分化のみを進化と考えたのではなく、個体群レベルの変化について言及している。

ところで、ダーウィンの「種の起源」の初版には進化evolutionという語は使われていない。しかし、象徴的なことに全文の最後がevolvedで閉じられている。
“from so simple a beginning endless forms most beautiful and most wonderful have been, and are being, evolved.”

 それに対して、第6版では、evolutionは8回使われている。「種の起源」に対する批判への対応のために追加された文章で、種が突然飛躍的に出現するという考えを批判して、自然淘汰によって漸進的に変化することを論じる文脈である。しかし、末尾のGlossaryにはEvolutionは記されていない。

もともとラテン語のevolutioとそれから由来するフランス語のévolutionが軍事作戦や陣形の変更を指すのに使われた。17世紀初頭には、英語のevolutionは「広げる、開く、明らかにする過程」という意味で使われていた。ダーウィンが初版でevolutionを使わなかったのは、自分の理論を、生命の歴史はあらかじめ決められた創造的計画の年代順の展開であるという考えと結び付けたくはなかったためだとされる。ダーウィンの叔父エラスムス・ダーウィンは1801年の著作でevolutionを「世界は...全能の神の意思によって突然全体が進化する(a sudden evolution)のではなく、非常に小さな始まりから徐々に生み出されたのかもしれない。」のように使っている。
 しかし、その後evolutionは漸進的変化の意味で使われるようになった。ライエルは1832年に、「まず海洋に生息する種が存在し、その一部が徐々に進化して(gradual evolution)、陸上に生息する種に改良された。」と書いている。

最近のテキストでは、
Futuyma DJ (2005) Evolution. Sinauer Associates
「世代を重ねることによる生物集団の性質の変化…遺伝物質を介して世代から世代へと受け継がれるもの」

Freeman, S and Herron JC(2014) Evolutionary analysis. Pearson Education Inc.
「時間の経過に伴う対立遺伝子頻度の変化」
 
Losos JB (2017)What is evolution? In “The Princeton Guide to Evolution”. Princeton University Press
「種内で起こる変化と新しい種の起源の両方を含む、時間経過による種の変化」

ダーウィンの進化論の核心は「自然淘汰による進化」であるが、近年の分子生物学の発展によって、新しい考え方が生まれつつある。

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