ヨーロッパ文化教養講座(「王妃の離婚」)

2022/11/10
1999年上期直木賞受賞作、佐藤賢一の「王妃の離婚」を読んだ。
フランスの歴史に疎いものにとっては、読み始めるまでのハードルがあったが、作者の巧みなストーリー展開に嵌まって数日で読破した。

この話は、フランス王ルイ12世が、王妃ジャンヌ・ド・フランスを離婚したいと訴え出た裁判で、王妃の弁護をすることになった、ナントの田舎弁護士、フランスソワ・ベトゥラースを主人公とする、中世の法廷ものである。

中世と言っても、時代は、1498年なので、イタリアでは、すでにルネサンスの盛期を過ぎたあたりである。

日本の将軍が妻を離婚するのに裁判など必要はないが、カトリック国である、フランスは、そもそも離婚が認められていないので、形だけであっても、裁判が必要だということだ。

そもそも離婚が認められていないのに、離婚できる要件が非常に興味深かった。

離婚が認められていないので、最初から結婚自体が無効であったことを証明することになり、その無効とする条件として、
1)近親結婚であった。
->根拠は、旧約聖書レビ記20の17 「自分の姉妹、すなわち父または母の娘をめとり、その姉妹の裸を見、女はその兄弟の裸を見るならば、これは恥ずべき行為であり、彼らは民の目の前で断たれる。彼は自分の姉妹を犯した罪を負わねばならない。」
2)他者の強制による結婚や婚姻相手の同意のない結婚
つまり、当事者間の合意のない結婚
3)結婚中に生殖行為がなかった。

このローマ教皇が力をもっていた時代は、結婚に関するキリスト教的な基本理念、すなわち、結婚は、子孫を残すためだけにするものであり、快楽のためにするのではない。
1)の近親結婚は、幼なじみ同士などもともと親しい関係なので、恋愛感情がうまれ、快楽のための夫婦の交わりをする可能性が大きいので認められていないということのようである。

歴史上は、ルイ12世が、離婚訴訟を起こし、最終的には、離婚が成立したということのようだが、この歴史を作者の学者としての知識と偉大なる想像力で、一大エンタテインメントを作り上げたということだろう。


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