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ひと・哀しみ・人生

言うに言えない哀しみというものがある。それは何か事があって、哀しいというものではなくて、もっと本質的な、生きていくこと自体に関わる、そして避けることのできない、命を揺さぶるような哀しみだ。

宮本輝氏の小説を読むと、そんな哀しみが滲み出ているのを感じる。心というものの不思議さと、そのとてつもなく深い井戸のような底知れなさに怖れを抱く。

そこに感じる「愁い」は人間の実存的な存在というものを心が感知したときに生じる感覚かもしれない。

ふとした瞬間にそれを感じて、人は何ともいえない不思議な感覚を胸にきざむ。人間の弱さ。優しさ。人生の悲しさ。自分は有限の命を生きていると感じる。そんなときに「愁」という感情が起きる。

宮本輝氏の小説にはどれも「愁」がある。
それは読む人の、心の裂け目の奥深く染み込んで、静かに、やさしく癒していく。


そしてもうひとつ。宮本輝の小説では、人物描写がどれも素晴らしい。たとえば、『流浪の海』に登場する松崎という人物は、独自の価値観を持っている、自由奔放で荒々しい性格として描かれている。

彼は自由な生き方を選び、社会のルールや規範に縛られることを嫌う。そのため、その行動は時に社会的に問題視されることがある。一方で、彼は孤独を感じることが多く、自分自身と向き合うことが下手な人間だ。

幾分照れくさそうに笑った松坂の顔からは、天田の財界人にはみられない純朴さと、強烈なアクの強さ、そしてその相反するものを独特の風格へと転じる鬱勃たる力が三つ巴にこぼれたのを見て、房枝は不思議な心の昂りを感じた。

もしも機会があれば、宮本輝氏の「小説がうまれるとき」という短い公演を聞いてみてほしい。Audibleの会員なら無料で聞くことができる。


小説を読むとき、書くときの向き合い方がきっと変わると思う。




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