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マンガの上手さの奥深さ【ここは今から倫理です。 / 野人転生】

ここは今から倫理です。 8

新章突入しました。8巻です。
新しい環境でも変わらない先生がよかったです。

こういう周りが変わっても同じ行動を取る描写ってブレないキャラクタを表現するのにピッタリです。

そして雨瀬先生といえば、この絵。

雨瀬シオリ「ここは今から倫理です。8」 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL, 2023年), 8頁。

写実的なんだけど特別リアルという訳でも無い、デフォルメが上手い絵ですね。強いて言えばキャラデザが美形過ぎない点が尖っています。

絵柄は特別好みではないんですけど、作風や主人公の先生のミステリアスさと合っていますよね。
この8巻までそのくらいの感覚で読んでいました。
特別マンガ技術が上手いとか思っていなかったんです。

でも実は基礎がしっかり出来ていて、それを押しつけない渋い技が散りばめられているんだと気づかされました。
だから、派手な展開が無くても飽きずに読めるんですね。
ここでは構図を少し紹介します。

雨瀬シオリ「ここは今から倫理です。8」 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL, 2023年), 31頁


導入の生徒との会話です。
生徒は先生を見ているし、先生は生徒を見ています。
会話しているんだから当然ですよね。

それを構図でめっちゃくちゃ丁寧に表現しています。

雨瀬シオリ「ここは今から倫理です。8」 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL, 2023年), 31頁

二人の身長差から生じる目線の違いを丁寧に反映した構図です。それをひたすら徹底しています。
さらに1コマ目の煽りです。
これは生徒から見える先生と同じ構図ですよね。

この場面を説明すると、ここは生徒のキャラ立てとなる導入です。
なので生徒に好感度を持たせたり、読者が感情移入していって欲しい場面です。
このタイミングで生徒視点の構図を使うと、読者は生徒の気持ちで先生との会話を体験する事になります。
自然と生徒に感情移入してしまうんです。

これ地味に上手いです。
こういう基礎が出来ているからヤンジャンで戦えているんだろうな、と勝手に納得しました。
本当にちゃんとしています。

面白かったですし、ああ推せるな。となりました。


野人転生(7)

最近転生もののマンガをあまり追えていないんですが、楽しみにしているシリーズです。
安定の面白さでした。

このマンガはアクションがあんまり良くないんですよ。
相手がヤジンに切りかかりバトルが始まるシーンです。

野人転生(7) (電撃コミックスNEXT, 2023年), 125, 126頁。

全然動きとか勢いが無いんですよ。
静止画の連続に見えるコマが並んでいます。
空手バトルのマンガでこれは致命的です。

でも面白い。
なぜこれで面白いのか考えてみたら学びがありました。
それを紹介したいと思います。

読んでみると分かるんですが、じっと見入ってしまうような迫真の殺し合いになっています。
他のバトルマンガだったら成立しないような表現なのに、このマンガにはなぜかドンピシャです。

まず、この静止画っぽさは効果線の少なさが影響していそうです。

このマンガはスピード感を出す効果線を排除した結果、かえって目の離せない(息の詰まる)バトルを表現しています。
こんな逆説的な表現をしているマンガだったとは。
そして、マンガ表現の奥深さったらやべえですね。

ここまで思い至ってから、現実的なケンカや殺し合いを忠実に再現するとこうなるのかな、と気づきました。
人間に出来る速度、それを認識するのも人間です。
一瞬の姿勢や重心の移動で相手の動きを把握・対応するような戦いになるのでしょう。

その一瞬で判断している達人っぽさを効果線の少ない絵で表現できているから面白くなっているのかな、と。
その達人が判断する一瞬を切り抜いていったのがこのマンガなのです。

そして現実ではしゃべっている暇はありません。
なので、ヤジンも相手もほぼしゃべりません。
本作について言えば思考の吹き出しもありません。

野人転生(7) (電撃コミックスNEXT, 2023年), 131, 132頁。

ずっとこんなです。
ヤジンの必死さやお互いの本気が伝わってきますね。

動画のような連続したコマからどこを切り取るか。
どこから何を見るか。
効果線を使わない表現では、構図と切り取り方だけで勝負する必要があります。
その止め絵がめっちゃ上手いから、ヤジンの必死さが伝わり目の離せないバトルになっているんですね。

いや、すごい。


また、ヤジンの戦い方は逃げたり隠れたり、後ろから殴ったり、毒を使ったりととにかく卑怯でリアルです。
負けないために全力を尽くします。
このヤジンの特徴とバトルの表現のリアルさがドンピシャですね。
シナジーによって魅力が増していますね。

少年向けのバトルばっかり読んでいると、あまり見ない表現です。
使わない筋肉です。
少年向けのドッカンバトルには向かないけど、リアル路線の殺し合いマンガには向く表現なんですね。

なにが「このマンガはアクションがあんまり良くないんですよ。」だ。めっちゃアクション良いじゃねーか。



さいごに

たまたま同時期に読んだ2冊です。
全然違うマンガで、全然違う技術で、どちらもマンガ表現の奥深さを知る事になりました。

技術とストーリ(読者層)がマッチしていると必要になる技術も変わってくるんですね。
学びがあったので覚書として記事にしました。

最後まで読んで頂きありがとうございました。
どちらも面白い作品なので、みなさんもぜひ。

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