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看護師が持つべき「際立ちの感知」「直感思考」「分析思考」

際立ちの感知:Sense Of salience

患者さん、利用者さんの初期把握として、「際立ちの感知」という概念が、臨床判断モデル2022年版(クリスティーン・タナ−)で解説されています。

際立ちの感知とは、何かを識別するとか、分析するとか、そういった思考以前の感知で、ピコッとポップアップが浮かぶような、そんなイメージです。

この際立ちの感知とは、まだ、それらの感知したものが重要かどうかわからないけれども、「気づいてしまう」という感覚です。

この際立ちの感知を磨いていくには、十分に説明できない患者さん、利用者さんの反応も含めて、その典型的パターンを知ることで、際立ちが自然と見えてくるようです。

しかし、これはすぐに初学者が得られるものかというとそうではありません。

基盤となる、仮説思考や臨床推論、暗黙知も含む反応の典型的パターンなど、それらの力を養って、始めて得られる技術だと考えます。

また、看護師がその患者さんのことをどれだけ知っているか?何を重要視して生活しているのか?日常的な反応はどうなのか?それらを知っているかどうかでも、その精度は変わってくるとも言われています。

「際立ちの感知」のあとの2つの思考

この際立ちの感知から得た気付きに続く思考は、主に2つあります。ひとつは直感的思考、もうひとつは分析的思考です。

1:直感的思考=早い思考

この直感的思考は、瞬時に「これだ!」と思える思考です。

メリットは、すばやく次の行為や思考に結び付けられる利点です。一方で、浅く熟考のない精度の低い判断となり、エラーを起こしやすい欠点があります。

それを補完するために学習を積み重ねるのは当然なのだが、批判的思考をもつことで、幾分、精度は高められます。


血圧が下がったのは水分出納のアンバランスだと瞬時に考えたとき、データはそれを示しているのか?という問いを自分に投げかけ、実践しながら内服薬が原因である場合もあるのではと自らの推論を吟味する。

補足として、この直感的思考を学習者が学ぶときには、熟練した看護師の直感を言葉にすることが重要です(思考発話と言います)。

2:分析的思考(仮説思考)=遅い思考

分析的思考とは、データからあらゆる仮説を立て、検証していくという思考です。これは段階的に進みますので、直感と比べ、遅いのですが、基礎として必要な思考になります。

誤解がないように補足すると、分析的思考が直感的思考よりも優れているということではありません。

経験豊富な看護師は、この2つの思考を的確に行き来している。つまり、Interactive(双方向)なのです。

例えば、早い思考(直感)が働いたとき、遅い思考(分析)により、仮説を立て、観察やチェックを行っていきます。

例えば、境界性パーソナリティ障害と診断されている人が「リストカットしました」と告白されたときに「自分に注目を浴びるための試し行為かも?」と直感的に感じたとします。しかし、ここで立ち止まり、状況を確認しつつ、他の可能性を考えるわけです。

まず直感から批判的思考を行い、いくつかの仮説を立てます。

  • 見捨てられ不安が強くなり、自分を守るためにリストカットをしたのかも?

  • 時間帯による気分変動があり、気分の波を鎮めるためにリストカットしたのかも?

  • 耐えられないストレスがあり、リストカットしたのかも?

  • 孤立感が強くなり、生きている実感を得るためにリストカットしたのかも?

他にもありますが、このように仮説を立てるわけです。次にこの仮説を検証するためのアクションを考えます。

  • 「言いづらいことを告白してくれたんですね。何があったか教えてもらってもいいですか?」と尋ねる。

  • 「どうしようもなく耐えられないストレスがあったんですか?もし、よかったら教えてもらってもいいですか?」

そして、看護師のアクションのあとに本人の反応がありますので、その反応を省察し、新たな「気づき」「解釈」「アクション」に結びついていくということです。

教育する側が考えるべきこと?

人は目の前にある事象だけではなく、自分がすでに知っていることや見ようとしているものに目が向くものです。

夏になるとセミがミンミン鳴きますよね。セミを見ようとしないと、木と一体化したような感じになり、見えません。

他にもめちゃくちゃ高い絵画も、私なんかはコピーとの違いはわかりません。

そう考えると、人は自分の見ようと意識しているものや、それ自体を知っていることでしか、見れないのかもしれません。

だからこそ、知識、理論を知ることは臨床判断に大きく影響するということですね。

最後に教える側の工夫を記しておきます(OJTでも使えます!)。

  1. 患者さん、利用者さんの状況を絞り、何がどう関連するのかを学べるようサポートする。

  2. 状況を絞って学ぶことがクリアできたら、模擬カルテを作り、情報収集するところから始める。実際の臨床であれば、新人と熟練看護師をペアにしてもいい。ねらいとしては、現場での様々な情報の中から、臨床判断に必要な情報収集を行っていく力を向上させる目的がある。

  3. 熟練看護師にも同じカルテから情報収集してもらう。次に新人がキャッチした情報と比較してもらい何が違うのかを比較し、熟達看護師の思考プロセスを理解に結びつける。結果、臨床判断が磨かれていく。

まとめ

  • 際立ちの感知という気付きが熟練看護師は持っている。それを磨くには、知識、理論はもちろん、暗黙知も含め、その典型的パターンを知ることで、際立ちが自然と見えてくるようになる。

  • 直感的思考と分析的思考があり、熟練看護師はその2つの思考を、的確に双方向性をもって使っていた。

  • 直感的思考は、批判的思考を持つことで、精度があがる。

  • 分析的思考から、いくつかの仮設を立て、検証するステップを踏む

  • 患者さん、利用者さんの反応から、省察を行う。

  • 省察した内容から、新たな「気づき」「解釈」「アクション」に結びつける。

参考文献

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