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我ら、凶賊七色党!

 「お頭ぁ、そろそろ限界ですぜ! いくら殺しても怯みもしねえ、これだから武人ってのは嫌なんだ! もうあっしだけ飛んで逃げてもいいですかい!?」

 「うるさぁい! 弱音吐くなよ藍鳶あいとんび! 僕だってもうウンザリだ! 後一人で逃げたら撃ち落とす!」

 恐るべき凶賊・七色党の頭目、紫蟻むらさきありは背後の手下に叫んだ。蟻のように無限に湧き出ると豪語していた彼の分身は、今やほとんどが消えていた。

 「そもそもお頭が『猛毒大夫』の屋敷に押し入ろうと言い出したのが、ケチのつき始めじゃ」

 橙蛙だいだいがえるが粘液塗れの鞭を振るって、飛んできた矢を絡めとりながらぼやいた。その場の一味全員が、太夫の毒を打ち込まれた首筋に一瞬手を滑らせる。

 「もう少し強く止めておくべきであった」

 青羆あおひぐまも、城兵の首を折りながら巨体に見合わぬ小さな声で呟く。

 「過ぎたことを言うなよ! 早くブツを盗って戻らなきゃ全員死ぬんだから!」

 相変わらずの子供っぽい声で叫ぶ頭目の前に、天井からぬるりと影が降り立つ。

 「お頭。まずい。大変」

 「これ以上どう大変になるのさ、赤蛇あかへび――――」

 今戻った手下の偵察も空しく、その言葉の意味はすぐわかった。向かいの建屋を丸ごとぶち壊し、屹立する巨大な鎧武者。巨岩のように大きな顔。その耳に緑猿みどりざるが片腕で掴まりながら、呑気に笑ってこちらに手を振っていた。

 紫蟻の目には見える。その遥か上、鎧武者の眉間に埋まっている小さな球体こそ、猛毒太夫が求めてやまない『百目観音』の眼球の一つ。あの化け物からもぎ取らねばならないのか。

 「……上等だ、七色党舐めるなよ! 黄蛸きだこ、火つけろ!」

 「あいよ」

 滲み出るように壁から出てきた黄蛸が、火薬壺を床に叩きつける。広がる炎。城兵の怒号。巨大武者が腕を振りかぶる。

 「あ」

 次の瞬間、城壁を腕がぶち破り、七色党は宙を舞った。

【続く】

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