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派遣で作ろうバベルの塔

 突然、上から派遣社員が落ちてきた。地面に叩き付けられた衝撃で、工具がいくつか跳ね上がった。

「バカ野郎! 落ちるならもっと離れたところへ落ちろ! オイ、誰かこれ片付けとけ!」

 班長が死体を蹴飛ばし、怒鳴り散らす。いつも具体的に誰にやれと言わないので、誰もやらない。結局は班長が自分でやる羽目になる。

「そっちの作業はいい! 建材の確認と選定が最優先なんだ! 塔に命を吹き込む、重要な工程なんだぞ!」

 品質管理室長も怒鳴る。こんな職場で、よく使命感を持続出来るもんだ。こっちは、今何の作業してるかも知ろうともせずやってるってのに。
 どんなに催促してもペースを変えない室長のせいで、いつも工程はここで速度が落ちる。

「ワハハ! 熱いぞホラ、ちゃんと掴め掴めー!」

 ベテランだがルールを守らないジジイが、熱したリベットをそのまま上の奴らに向かって投げ上げる。慣れた奴なら、上手いことキャッチしてそのまま鉄骨に打ち込むが、受け止め損ねれば真っ逆さまだ。
 ここでの落下死の二割くらいは、このジジイが原因なんじゃないかな。

「何言ってんの? お前らがちゃんとやってれば、資材揃ってたんだよ?」

「ふざけんな! てめえがもっと派遣集めてりゃ、こうならなかったんだ!」

 嫌みな人事部長とゴツい資材管理部長は、互いに唾がかかる距離で罵り合っている。また人数と資材が足りなくなったか。しょっちゅう死ぬし、壊れるし、消えるからな。

 王様が極限まで費用をケチって、クソ社員と派遣だけで作ると決めたバベルの塔の建設現場は、今や王国のクソ職場の中でも死傷率トップだ。俺はそんな職場で、二年勤め上げてきた。

 そんな俺でも、隣にいた同僚が呟いた言葉には耳を疑った。

「何か……浮いてきてない?」

 塔が傾くのはわかる。派遣は手を抜くからな。だが、何で浮くんだ?
 俺は塔の足元を見た。死んだ派遣を放り込み続けた、塔の基礎。

「やべえな、ちくしょう。死体が溢れて塔を持ち上げかけてる」

【続く】

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