「アクセントがなくなると心理的距離が近くなる?ーーアクセントの「平板化」を考える」

放送の様子はこちら(下記サイトでは音声配信も行っています)。
「平板化は親しみの証し?アクセントが持つメッセージ性とは」(Screenless Media Lab.ウィークリー・リポート)
2019.4/26 TBSラジオ『Session-22』OA

◾アクセントの重要性

 Screenless Media Labは、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、言葉にアクセントがなくなることと、人の心理的関係について考えていきます。

 音声には、トーンやスピードの他、語尾が上がったり下がったりする「アクセント」があります。言語ごとに異なる規則もありますが、近年の研究には、日本語のアクセントの変化に関する興味深いものも多くあります。

 日本語のアクセントには、声の高いところから下がるもの(起伏式)と、下がり目がないものがあります。アクセントは上から下がるのが重要なのですが、下がり目のないものは「平板式」と呼ばれます。中でも、もともとアクセントがあった言葉からアクセントがなくなり「平板化する」、といった現象がみられます。

 例えばドーナツ屋の従業員が使う「ドーナツ」や、バイク仲間の間で使う「バイク」は、一般的なアクセントと異なり、平板化が認められます。お店の従業員や愛好家など、専門家集団が専門用語を発する際に、言葉が平板化することがあるということです。また多くの研究で、アクセントの平板化は首都圏在住の若年層に進行が認められています。

 この問題についてさらに考えるために、「彼氏(カレシ)」という言葉について考えてみましょう。若い学生にいくつかの文章を読んでもらい、アクセントの差異を調査したところ、話し言葉(会話文)では「彼氏」が高い確率で平板化することがわかりました。逆に書き言葉(地の文)の「彼氏」はそうはなりません(ただし、個人によってもある程度ばらつきがあるため、すべてが平板化するわけではありません)。

 なぜアクセントの平板化が生じるのでしょうか。これについては、発音の負担を軽減するための省エネといった意見や、平板化は若者・都会的なイメージをもって受容されるといったもの、また話し言葉か書き言葉かによって変化する、といったものもありますが、完全には解明されていません。

◾敢えて平板化を用いる

 アクセントの平板化の原因は完全に解明されたわけではありませんが、なじみ深さといった、言葉と人の間の心理的な距離と関連がありそうにも思われます。考えてみれば、「グーグル」や「LINE」といった企業の発音は平板化されていないでしょうか。グーグルについては、当初はアクセントがあったものの、現在ではCMなどでも平板化されてます。社会にグーグルが浸透していく中で、平板化が生じた可能性も考えられます。

 また人々の心理的距離と平板化に関係があるとすれば、例えば企業がある商品を販売する時に、最初から平板化された音で表現すればどうでしょう。少なからず、その商品が私たちにとって身近なものであると感じる可能性は高くなります。
 
 こうした音の研究は、私たちの心理などとも密接に関係する可能性が高く、社会言語学の観点からみても重要です。アクセントの平板化は主に首都圏の若者に生じていますが、研究の数は少ないものの、これが全国的な現象であるという指摘もあります。その原因をテレビの影響だという声もありますが、完全に証明されたわけではありません。

 とはいえ、逆に言えば、まだまだ音と私たちの関係は研究される必要があるということです。音が持つ影響、あるいは私たちが音にイメージを与える影響分析は、さらなる研究が求められるのです。

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