水中でも活躍する音ーー「水中考古学、水中ドローン」の紹介

2023.12/08 TBSラジオ『荻上チキ・Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、音を利用することの多い学問である「水中考古学」について紹介します。

◾水中考古学とは

「水中考古学」という言葉をご存知でしょうか。水中考古学はその名の通り考古学の一分野で、主に海底に没した遺跡や、沈没船などを対象とする学問です。海中は地上と比べて変化が生じにくく、100年が経過しても当時のままの状態を保つ遺跡・船も多く、学問的価値の高いものが多く残されています。(有名なのはタイタニック号でしょう。1985年に発見されました。)

水中考古学が行われはじめたのは1960年代からで、主に沈没船の発見が主なものでした。その後2001年にはUNESCOで「水中文化遺産保護条約」が採択され、その研究対象は拡大されていきます。例えば現在の日本では、およそ130年前、火山の噴火の影響で湖に沈んだ宿場町の海底調査が行われています。(TBSテレビ『報道特集』2023年10月15日)

水中考古学における作業は様々ですが、やはり海中における発掘には、泥の除去のほか、そもそもどこに何があるか等の事前調査も必要となります。その際に重宝されるのが「音」の力なのです。

◾水中考古学の鍵を握る「音」

水中考古学に使用する器具をいくつか紹介します。まずは「ソナー(Sound Navigation and Ranging)」です。漁業にも用いられるソナーは、音波を用いて水中を探索するもので、音波を飛ばし、その跳ね返りから空間を認識するものです。水中考古学では遺跡の探索に用いられており、例えば2023年3月には、アメリカ海洋大気庁がアメリカ五大湖のひとつであるヒューロン湖で1894年に沈没したIronton(アイアントン)号」を発見しました。

音波を利用するものとしては他にも「マルチビーム音響測深器」という名前で、複数の音波を流すことで、広範囲の海底の地形や水深を測定するものもあります。

ちなみに、音波を利用して水中の空間を認識する技術は、イルカのもつ「エコロケーション(反響定位)」が有名であり、当ラボでも紹介しています。また、イルカのエコロケーションを参考に、小型のソナーの開発も行われています。

◾注目が集まる「水中ドローン」

また、水中の活動で近年注目されているのが「ドローン」です。ドローンといえば空中を飛ぶものを思い浮かべますが、「水中ドローン」の開発も行われています。有線で遠隔操作するものや、無線で自動航行するもの等様々ですが、水中の探索がドローンでも行われることで、水中考古学だけでなく、インフラ設備、例えば海底ケーブルの保守点検など、様々な用途に用いられています。

こうした水中ドローンを利用する際に大切なのが「海中(水中)音響通信」技術です。水中ドローンに代表されるように、海洋分野でも水中のIoT製品が開発されると、必要となるのが通信技術です。通信手段は主に3つあり、従来の有線での通信と、光をつかった水中光通信、そして音波を利用した無線通信である海中音響通信があります。

海中音響通信は光に比べて通信容量は少ないですが、長距離の通信が可能な点に特徴があります。NTTは2022年11月、NTTドコモ、NTTコミュニケーションズと共同で海中音響技術の開発を行い、世界ではじめて水深30メートルで伝送速度1Mbps/300mと、従来の10倍以上のスピードを達成しました。また、この技術を利用した世界初、完全遠隔無線制御型水中ドローンを実現したとのことです。

水中考古学や水中ドローンなど、水中における様々な活動にも「音」は重宝されています。普段あまり見聞きすることは少ないかもしれませんが、音は縁の下の力持ちとして、私たちの生活や文化に強く貢献しているのです。

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