音体験はさらなる段階へーー「音のAR」を考える

放送の様子はこちら(下記サイトでは音声配信も行っています)。
「音体験はさらなる段階へ〜『音のAR』を考える」 (Screenless Media Lab.ウィークリー・リポート)
2019.7/12 TBSラジオ『Session-22』OA

Screenless Media Labは、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は拡張現実の名前で知られる「AR」を音声に用いた技術について紹介します。

◾音のARとは


ARとは「Augmented Reality=拡張現実」を意味します。現実空間をコンピュータ技術を用いて豊かにするARは、これまで主に視覚を用いたサービスが展開されてきました。代表的なものに「ポケモンGO」がありますが、これはスマホを通して、現実空間にポケモンが現れるというものでした。

一方、昨今は視覚ではなく、聴覚に適したAR技術の開発が進んでいます。例えば観光地など、特定の場所に立つと、そこでしか聞くことのできないキャラクターの音声が聞こえるといった「舞台めぐり」というサービスもあります。他にも、美術館では作品に近づくだけでイヤホンから解説が流れるものも考えられています。

以前「方位知覚」に関して紹介したように、GPSなどの位置情報から、地図ではなく音によって場所を知らせる技術はすでに存在します。ポケモンGOでは街中を歩いているとポケモンが現れますが、音のARは声で場所を知らせ、到着すると特別な音声や音楽が流れ、いつもの街を別物のように体験することが可能になるでしょう。また、表参道から渋谷までのルートを音声ガイドを頼りに歩くことで、知らなかった情報を得られるような、街の魅力の再発見も可能となります。

◾音のARの可能性

 音のARの可能性は、エンターテインメント領域に限定されません。歴史遺産を目の前にした時、私たちは解説文を読むよりも、その遺産を眺めていたくなるものです。そこに音のARがあれば、文章の代わりに音声で解説する、つまり視覚ではなく聴覚を利用するので、遺産を眺めながら、ストレスなく情報を耳から聴くことができます。さらに、そこで行われた歴史イベントを再現するような音声(例えば、戦国時代の合戦を再現するラジオドラマ)を流すことができれば、歴史を学ぶ「教育的コンテンツ」としても音のARを活用することもできるでしょう。

他にも、視覚障害者に対して、横断歩道や信号の情報を、音のARを通して伝えることも可能です。方位知覚技術と合わせれば、信号が変わった際に進むべき方向から音が聞こえたり、あるいは音声で周辺状況を伝えるといったサービスも考えられます。

このように、音のARは教育や福祉など、幅広い可能性を持っていると考えられます。音のARの利点は、過度な視覚情報を遮ることができる点にあります。スマホは便利ですが、ついついスマホを見る=視覚を利用しすぎてしまうものです。音声解説であれば、視覚を利用することなくスムーズに情報収集が可能となります。また歩きながらでも学習したり、周囲の環境を感じながら、特別な音体験もできる音のARに、期待できることは多いと考えられます。

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