音が聞こえてくる位置をデザインする最新技術とはーー「方位知覚」を考える

放送の様子はこちら(下記サイトでは音声配信も行っています)。
「音が聞こえてくる位置をデザインする〜『方位知覚』の最新技術」(Screenless Media Lab.ウィークリー・リポート)
2019.5/24 TBSラジオ『Session-22』OA

 Screenless Media Labは、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、音と方位(方向や距離)の関係性について考えます。

◾方位知覚とは何か


 音を認識する際、私たちは通常、音がどこから聞こえてくるかに着目し、音と自分の間の距離を無意識に測定しています。このように、音から位置を特定すること、つまり音源を把握することを「方位知覚」と呼びます。

 この機能を適切にデザインすることは、様々なメリットをもたらします。例として「音サイン」をあげましょう。駅の改札で「ピーン・ポーン」という音を聞いたことはないでしょうか。これは主に視覚障害者に対して、音を鳴らすことで場所を知らせているものです。他にも階段の前で小鳥の鳴き声が聞こえるもの等もあります。

 しかしながら、方位知覚を用いた技術はあまり利用されていませんでした。例えばステレオイヤホンは左右の耳から直接音を発生させますが、音源が聴取者の頭の中から発生するように感じられます。これは「頭内定位」と呼ばれる現象ですが、これだと音の位置を知ることはできません。特にウォークマン登場以来、現在のスマホに至るまで、情報を受け取る聴覚の中でも、方位知覚をあまり利用してきませんでした。

 一方、近年は方位知覚をイヤホンで再現し、さらにはユーザーの動きに合わせて動的に音源を移動させることも出来る、「音響AR」と呼ばれる技術が登場しています。それには、イヤホン内に「9軸センサー」と呼ばれる様々な動きを感知するセンサーを組み込みます。

 そうすると、私達がどのように動いても、私達から離れた一定の場所から音が聞こえるように感じられるのです。このことは、これまで活かされてこなかった聴覚による方位知覚を再び活性化するだけでなく、音源を自由にデザインできるという意味で、新しい可能性を開くものです。

 このように、私たちの方位知覚と音響技術を重ね合わせることで、さらなるサービスが登場することも予想できます。例えばある企業が開発中のイヤホンは、周囲の環境音を人工知能が認識し、会話がはじまると聴いていた音楽の音量を下げたり、サイレンなどが鳴る緊急車両が通った際には、周囲の環境音を聞こえるようにするといった機能を搭載する予定とのことです。つまり、音の性質を人工知能が理解することで、重要な音が迫った時だけ、周囲の音や必要な音が、ある方角から聞こえるようになるということです。



  また別の研究では、複数の人々の声の中から、特定の人物の声だけを抽出する技術も開発されています。こうした技術開発がさらに進めば、騒がしい街中でも、登録した人の声だけがクリアに聞こえる、といった設定を行うことも可能になるでしょう。


 さらに、観光においてもこの技術が使われています。実際に、GPSを利用してユーザーの位置情報を把握し、レストランや観光名所が近づくと、イヤホンを通してその建物の方向から音が鳴る、といった仕組みも開発されています。こうした技術を用いれば、旅行先でも迷うことなく、音が私たちをガイドしてくれるのです。これは地図を利用するよりも便利な機能ではないでしょうか。

 こうしたことは、いわば現実の一部分を選択的に強化していると言えます。このように現在の音響技術は、私達の聴覚をリアルタイムに拡張したり強化したり出来るようになってきました。これらによって、音声による全く新しいサービスが登場するのも、時間の問題であると思われます。

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