何を買うかは音に影響されるーー「サウンド・プライミング」を考える

放送の様子はこちら(下記サイトでは音声配信も行っています)。
「何を買うかは音に影響される〜『サウンド・プライミング』を考える」(Screenless Media Lab.ウィークリー・リポート)
2019.8/09 TBSラジオ『Session-22』OA

 Screenless Media Labは、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は人の潜在意識に影響を与える「サウンド・プライミング」ついて紹介したいと思います。

◾サウンド・プライミングとは

 以前の記事で、「気分誘導効果」について扱いましたが、人々の気分を分析し、その状況に適した音楽を流すことで、気分を高めたり抑制したりするものです。それらは有効な機能を果たしますが、当然この考え方はマーケティングにも用いられています。

 最近出版された、音楽芸術博士でサウンド表現コンサルタントのミテイラー千穂氏の著書『サウンドパワー』では、「サウンド・プライミング効果」について紹介しています。プライミングとは、潜在的に持っている意識を刺激する行為を指します。例えば、リンゴの話をした後で、「リ○○」の○○に入る言葉は?と問われれば、嫌でも頭にリンゴが浮かんできます。

 本書では、このプライミング効果を利用したサウンド・プライミング研究が紹介されています。ワインの選択とBGMについて調査した研究では、ワインショップでフランス風の音楽やドイツ風の音楽など、日替わりで店内のBGMを変えました。その結果、フランス風音楽を流した日はフランスワインが、ドイツ風音楽を流した日はドイツワインの売り上げがアップしました。これは明らかに、音楽が私たちの潜在意識を刺激した、つまりサウンド・プライミングが効果をもたらしたことを意味します。

◾あらゆるところに「サウンド・プライミング」がある

 ところで、スーパーマーケットや喫茶店、歯医者など、あらゆる施設で音が流れています。施設ごとに音楽は異なりますが、当然そこにもサウンド・プライミングが用いられており、目的に適した音楽が流れています。

 店内BGMにも、多くの研究があります。例えば先程のワインの事例ですが、クラシック音楽が再生された日は、顧客が店内にいる滞在時間が長くなっただけでなく、高価なワインが購入されやすくなったこともわかりました。クラシックがリッチな気分を刺激した結果だと考えられます。

 同様にフラワーショップでも、店内BGMをポップサウンド、ロマンティック・サウンド、無音の3つで比較したところ、ロマンティック・サウンドを再生した場合、花の種類や本数などが他と比べて増加しました。顧客が想像する花のイメージとマッチし、潜在意識が刺激されたのだと思われます。

 本書では他にも、スーパーマーケットにおけるサウンド・プライミングの例が紹介されています。それによると、あるアメリカの大手スーパーマーケットでは、場所ごとに流れるBGMが異なります。野菜や青果のコーナーでは、川のせせらぎや水しぶき、鳥の鳴き声や波の音が聞こえます。自然な音は鎮静作用があり、水の音は「新鮮さ」を想起させるので、気づかないうちに野菜や青果に良いイメージを持つのです。キーポイントは、直接的すぎる表現だと、嘘くささを感じて逆効果になってしまうということです。あくまでも、潜在意識を刺激する程度の音が、サウンド・プライミングには重要なのです。

 マーケティングとしてのBGMには他にも、アップ店舗な音は顧客の移動速度をはやめたり、逆にスローテンポは移動速度をゆっくりにするなど、様々な効果が分析されています。歌詞がある音楽は購買に向いていた意欲を減少させてしまうこともわかっており、好まれません。いずれにせよ、音がどれだけマーケティングに用いられているかがわかります。

 このように、私たちが潜在的にイメージする音とマッチする時、マーケティングとしては大きな成功を示すのです。もちろん消費者としての私たちとしては、こうした点を考慮する必要もあるでしょう。必要以上にモノを買ってしまうとしたら、サウンド・プライミングについて考えてみることも必要かもしれません。

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