子どもの言語習得プロセスを、AI研究に活用する――「子どもと言語、そして赤ちゃんが感じる音」の最新研究

2024.2/23 TBSラジオ『Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、子どもが言葉を習得していく過程をAIに役立てようという研究や、赤ちゃんが感じる音に関する研究をご紹介します。

◾子どもはどのように言葉を習得するのか

人間の赤ちゃんは、どのように言語を獲得していくのかについては、専門分野における研究が様々に続けられています。

最近の研究では、赤ちゃんがみているものや聞いた音から、言語習得にいたるプロセスを、AIの学習に活かすための研究が進められています。ChatGPTが文章を書くためには膨大なデータと訓練が必要ですが、人間は生後数年の少ない経験で、かなりの言語能力を習得しているからです。

2024年1月、米ニューヨーク大学の研究チームが『サイエンス誌』に発表した研究では、生後6ヶ月~2歳になるまでの間、オーストラリアのサムという子どもに、負担にならない範囲で頭部にカメラを装着し、計61時間分のビデオを録画しました。

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adi1374

私たちがみている世界は複雑ですが、幼い子どもはモノと言葉が結びついていません。研究者によれば、生後6~9ヵ月で、単語と視覚情報を結びつけはじめ、18ヶ月から24ヶ月までには、平均300語(主に名詞)を理解できるようになるといいます。

目線の先にある椅子や、前を通る猫など、ビデオには様々なモノが写っています。ですが、「ボール」という言葉を覚えるには、弾むボールなのか、ただそこに置いてあるボールをボールと理解するのか等、私たちはどのように言葉とその意味理解するのでしょうか。このように考えれば、モノ(物)を理解するのは、非常に複雑な過程を経る必要があります。

研究では、ビデオに映る視覚情報と言語情報(親やその他の人間が発するおよそ37500の言葉)の関係を理解するAIモデル(Child's View for Contrastive Learning:CVCL)を構築します。そし、言葉(言語)と子どもが見ているであろうモノ(視覚)が合致するケースやそうでないケースなど、様々な事象を分析しました。

研究者によれば、今回作成したAIモデルはまだまだ精度の上では脆弱とのことですが、こうしたモデルは生成AIのような大規模なデータを必要とすることなく、AIの学習効率が高くなり、同時に人間の発達に関わる領域の解明にも役立つといいます。

もちろん研究者も指摘するように、単語の意味は幼い子どもが理解した事以上に、抽象的な概念や意図、あるいは他の言葉の意味知識との関連性などが含まれており、今回の研究で言語習得の過程がすべて理解できるのもとは到底言えません。

一方、人間のみている世界から言語習得の過程を理解しようというアプローチは、昨今の動物の言語理解を行う研究(クジラ等の海の生物や、猫や哺乳類)などにも、有効に機能するかもしれません。

◾赤ちゃんは生まれながらにビートを感じることができる

赤ちゃんといえば、もうひとつ興味深い研究があります。
ハンガリーの「ハンガリー研究ネットワーク(HUN-REN)」自然科学研究センターとオランダのアムステルダム大学の研究チームが2023年11月に発表した論文では、人間の新生児=赤ちゃんが生まれながらに、音の「ビート(一定間隔で繰り返される音)」を規則的に感じられることを突き止めました。

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0010027723003049

研究では生後0~6日の新生児27人を対象に、2つの音を聞かせます。ひとつは規則正しく鳴るドラム音で、大抵の人は音の規則性を感じるでしょう。もうひとつは、同じ音ですが、ドラムの音がランダムに鳴るというもので、音の順序を覚えれば、つまり学習すれば音の規則を理解できるということです。

いずれも赤ちゃんの脳波を測定して研究した結果、赤ちゃんは最初の規則正しいパターンの音にだけ反応を示しました。このことはつまり、赤ちゃんは生得的にビートを感じることができる、ということを意味します。

このように、人間がもともと備えている特性という側面も、私たちの言語や言語感覚、そして音楽感覚を理解するのに役立ちます。

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