アーバンギャルドを聞きたまえ

 久しぶりにアーバンギャルドを流し聴いている。眠れない夜に音で耳を塞いで溺れさせるのは常だけど、アーバンギャルドを選んだのは本当に久しぶりだった。
 ぼくりりとか、ササノマリイとか、サカナクションとか、倉橋ヨエコとか、赤い公園とか、THE ORAL CIGARETTESとか、アルカラとか、椎名林檎とか、宇多田とか、Coccoとか、サイダーガールとか、フレデリックとか。私を支えてくれる音楽は山程ある。
 今夜はもう眠れないな、と思った。自分の体のことだ、分かってしまう。本当は多分、寝なきゃいけないけど、まぁいいかと思ってしまった。薬を飲むタイミングを逃し、寝るタイミングを逃して、何か文章を書こうとして、でも唐突に恥じらいで死にたくなりかけて消した。
 その代わりに今、アーバンギャルドについて、というか、アーバンギャルドと私について、を書こうとしている。

 と、ここまで書いて半年も放置した私よ。いい加減にしなさい。

 アーバンギャルドとの出会いはまだガラケーで、モ○ゲーとかが全盛期だった頃。たまたまモバ○ー内で音源配布?してたのを聞いて、脳天に雷が直撃したくらいの衝撃を受けた。記憶ではそういう出会いをしている。最初に聞いたのが「水玉病」だった。よこたんのウィスパーボイスに電撃が走り、天馬きゅんのラップで尻尾を巻いた。なんと形容していいのか分からない音楽のジャンル。後々、wikiとかで調べたら「トラウマテクノポップ」と称されていた。めっちゃ納得。PVも後から見て、もっと好きになったし、性をこんなに堂々と扱っている音楽に出会ったのは本当に衝撃的だった。私はアーバンギャルドの虜になった。
 でも数年経てば新たな音楽との出会いで、新曲もなかなか拝めずにいた私は、一瞬、本当に一瞬、アーバンギャルドの名前すら忘れていて、これもたまたま子供の観ていたテレビに天馬きゅんが映っていたことで、一気にアーバンギャルドが再燃した。けれどそれもまたすぐに忙しさの中で、忘却されかけていって。

 私が私として息ができる時間に、たまたま愛用している音楽アプリで「アーバンギャルド」が聴き放題だったので、再生した。ランダムで流れてくる中に、懐かしいものも新しいものも、MIXされたものも混じっていて、私はまた、そして今度こそ、虜に戻った。
 気持ちが落ち込めばアーバンギャルド。死にたくなったらアーバンギャルド。嬉しい時もアーバンギャルド。家事の際にもアーバンギャルド。それくらい聞いて聞いて聞きまくった。

 何がそんなに好きなのか考えてみる。私はきっとラップが好きだ。そして元々テクノポップも好きだ。ウィスパーボイスも好きで、そして、トラウマはお友達だ。好きな要素しか持ってないのがアーバンギャルドだった。それだけの話。ではない。
 天馬きゅんの作詞のセンス、音楽性、それら全てを芸術にするよこたんのお声。全てが完璧で、全てが最高。それがアーバンギャルド。
 歌のタイトル1つ取っても、「自撮入門」「あくまで悪魔」「ときめきに死す」「病めるアイドル」「さよならサブカルチャー」「セーラー服を脱がないで」と、本当に言葉遊びの天才だと思う。
 歌詞にしたってそうだ。どれも最高なのだ。韻を踏むのもお得意で、聞いてて耳に心地よい言葉が並んで、でもきちんと物語性もある。
 それを盛り上げるテクノポップな曲調。明るくもあり、暗くもある、不気味で愛おしい少女の叫びを引き立てる。どちらにも転んでいける音楽。その時の自分次第で、アッパーにもなり、ダウナーのもなる。最早耳から摂取する薬物である。
 10代に出会ってなくてよかったかもしれない。私は無事に死んでいたかもしれない。

 アーバンギャルドは生きる絶望を歌ってくれる。この世界の汚さ、それに絶望した少女の悲しみ、それに慣れて生きていく元少女だったものの無念さ、それらがいつの間にか生きる活力へと昇華される。そんな作用があるように私は思う。だから、今30代の私がアーバンギャルドに憧れて死ぬことは多分、ない。縁のなかった青春を嘆くように、輝きのなかった10代の自分を憐れむように、そんな時に隣にあるのはアーバンギャルドだ。
 美しい鬱。それが、アーバンギャルド。私はいつまで虜になっていられるだろう。

 天馬きゅんの天才っぷりに憧れて、作詞してみたいな、なんて気持ちもなくはない。私はまだまだ青春真っ只中の少女のように、夢をみることだってできる。そう、諦めなければ。よこたんのような声も美貌もないけれど、それでもまだ、夢現で生きることはできる。
 羨望と嫉妬は=ではないことを教えてくれたのはアーバンギャルドだと思う。私の理想の1つを体現してくれている先駆者。そんな彼らに恥のない人生を送っていこう。いつか絶対にやってくる、終わりまで。

 そんな妙な気持ちになるのだから、アーバンギャルドは電波に乗った麻薬かもしれない。また聞きたくなってきた。耳から入って脳味噌がべちょんべちょんになるくらい、アーバンギャルドを聞き流してこよう。では。

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