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【0372】発酵から世界を見る本がヤバイ⑤

発酵デザイナーを名乗る小倉ヒラクさんの発酵文化人類学というヤバイ本。
どうヤバかったかを読み返してみました。

その④はこちら

トロブリアンド諸島の「クラ」という交換文化

文化人類学のテーマでの事例なのですが、トロブリアンド諸島に住んでいる部族の習慣で「クラ」という交換文化があるそう。何してんの?それ?という島間をまたいだ壮大な交換ゲームなんですが、

・赤い貝の首飾りを時計回り
・白い貝の腕輪を反時計回り

に円環にできる諸島間でずーっとまわし続けるというゲームだそう。

参加者Aはこの首飾りか腕輪が回ってきたら、隣の部族の参加者Bにまわしていき、Bはその時お返しの贈り物をしなければ行けないというルールだそう。それを円環の諸島でぐるーっとまわしていくのだそうです。そして、面白いことに

①交換の主役である「首飾り」と「腕輪」はほぼ無価値
②だけど交換のお礼の価値は「これくらいが良いんじゃ?」と品やサービスを自分で考えないといけない。
③一度参加したら抜けれない。

というなんだか世にも奇妙感漂う3つのポイントがあることで、面白い現象が起こるそう。

無価値なものに対するお返しなんですが、自分で決めないといけないので、自分がもらったものよりも価値の低いものを次に回せば、得をすることになるんですが、それをすると気まずくなったり、人間性を疑われるそう。その結果、次へ送っていくお返しがどんどんインフレ化していく傾向にあり、元々無価値なものを贈っているのに、そのお返しがどんどん良いものを贈っていく、ペイフォワードな状態になるそうです。

自分の損得の話ではなく、そういうものだという全体の中の一人として気前良さを次へ次へと送っていく。そんな贈与経済が成り立っていくのだそう。

「ここで良いことをしておけば、後々、、」のような打算もクラでは、あまり意味を成さないそうで、というのも、円環の諸島でぐるーっとまわす規模感なので、恩恵が次に自分に回ってくるのは数年後になってしまうから。今の世の中では1つのモノに対してお金という対価を払って、1対1のプラマイゼロの経済が当たり前だと思っていますが、こういった全体のコミュニケーションの中によって成立する経済圏も文化として存在しうるんですね。

このコミュニケーションが「優しさ」と「気前のよさ」によって回れば、そこには平和と秩序が生み出される。反対に「憎しみ」と「ずる賢さ」によって回れば、そこには争いと混沌が生み出される。世界はコミュニケーションがどのエネルギーによって回るのかによってその様相を変えるのだ。

とおっしゃってまして、サステナブルな社会も重要な示唆を感じます。。!

微生物→人への贈与経済

発酵の話はどこ行ってん!?なんですが、これが微生物間と人との間でも巻き起こっている、世界は同じなんだね。というお話があります。

微生物による発酵でも、菌と菌の組み合わせやコンビネーションによって行われる発酵が異なるそうです。カビによる発酵が、酵母の発酵を手助けし、それが細菌(乳酸菌など)による発酵を手助けし、ということが微生物間でも起こっているというのは以前取り上げましたが、そもそもこの発酵、微生物が自分のためにエネルギーを取り出すための活動なんですが、

効率がめちゃ悪い

らしいです。人間が行っている消化とかと比べると、全然まだまだ栄養が残っている状態でも微生物的には「あかん、限界や。これ以上エネルギー抜き出せへんで、次や!」とゴミとしてポイしちゃうそう。その残った&分解されることで吸収しやすくなったものを、次の生物が美味しくいただいちゃってるのだとか。そしてその生物も、また効率の悪い代謝をして、次に贈って、、というクラのような贈与経済的連環が成立していくのそうです。

これを「役に立つやんけ!」と思った人間は、今度は微生物を育てるべく、最適な環境やエサを用意するようになりますよね。

人間にはお腹の中に何兆という菌を飼っている状態ですが、通常、自分の身体に異物が混入したら追い出す、免疫システムがこの菌たちを攻撃してもおかしくないはず。病原菌とかウイルスは攻撃されるのに、お腹の菌は攻撃されないという謎の紳士協定が出来上がるほどに、この全体的コミュニケーションを続けてきたんですね。人と菌とそして菌が育つための自然や環境といった、森羅万象、全体の中の一部なんだなという神秘を感じます。

贈与経済(ギフトエコノミー)にみる資本・個人主義へのカウンター

えーっと、菌の話してたんでしたっけ?コミュニティの話してたんでしたっけ?資本主義?全体の和の話・・?と、今何のどこの何の話をしていたとしても話が通じてしまう、これらすべてに共通するものがあり、互いにメタファーでの理解を勝手に想像してしまう類似っぷりです。

この章は著者的には本の中で一番むずかしいと書かれていますが、全然わかりやすくかつ、はっとさせられることばかりの章です。
(めちゃくちゃ端折って書いているので、伝わりづらいかもなので、ぜひ本を。)

資本主義へのカウンターでもあるし、ファンベース的な話にも通じそうだし、ソーシャル・キャピタル、チームビルディングの話、色んなものへの広がりが想像できてしまいます。

交換を繰り返すごとに強者はより勝ち、弱者はより負ける。そんなシビアな近代の市場経済とは真逆の可能性が贈与経済に託されている。周りを蹴落とす強い個体で満ち溢れた環境は、はたして住みよい世界なのだろうか?
僕たちが直感的に発酵に何か社会的なものを期待してしまうのは、その根本に「贈与の原理」が働いているからだ。微生物たちの働きから学ぶことは、実は人間社会の秩序の起源を学ぶことでもある。

とのまとめ。さすがが過ぎますね。

そして、この話、何かすごく自分に沁みてくるなと思ったんですが、以前に「この記事、あとでじっくり読もう」と思ってリンクだけコピーして読めていなかった下記の記事、なんと小倉ヒラクさんによる発酵のお話でした。

偶然のパワーに一人でテンションが上がってしまいました。
この記事の冒頭に紹介されているヒラクさんのツイッターの引用も、本質すぎてやばいです。

2020.7.19その⑥を書きました。


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