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【0373】発酵から世界を見る本がヤバイ⑥

発酵デザイナーを名乗る小倉ヒラクさんの発酵文化人類学というヤバイ本。
どうヤバかったかを読み返してみました。

その⑤はこちら

発見、面白い話が多すぎて、全章書いてしまいそうな勢いですが、

5:醸造芸術論〜美と感性のコスモロジー〜
6:発酵的ワークスタイル〜醸造家たちの喜怒哀楽〜

は、読むと甲州ワインやあの日本酒、あの醤油、あのお味噌を嗜みたくなるし、アートの楽しみ方にも気づきがあり、それでいて、これまでの章と同じくビジネスやコミュニケーションについての示唆も得られる内容になっています。本を片手に嗜みたい。

バイオテクノロジーとヤマタノオロチ

最後の章は「よみがえるヤマタノオロチ〜発酵の未来は、ヒトの未来〜」というタイトルで、微生物よりもさらに小さい単位のバイオテクノロジーにまで触れられています。

ゲノム編集等で話題にあがる、クリスパー(CRISPR-Cas9)という技術について。簡単に言うと、DNAの一部をものすごいピンポイントでカット&ペーストできる技術で、例えば遺伝子単位で病気にかかりにくい農作物というのが作れたりする代物。化膿レンサ球菌という病原菌(鋭いカッターのような酵素を出して生命構造をズタズタにしてしまうそう)の酵素に由来する技術だそうで、ヤマタノオロチを退治して得た草薙の剣のように、恐ろしい病原菌からミクロの剣を取り出してしまったということで、このタイトルにされているようです。本の冒頭でも紹介されたヤマタノオロチの伏線回収にゾクっとしましたw

ゲノム編集や遺伝子操作は、非常に便利な反面、生物多様性への影響(その土地に突如外来種を召喚してしまうようなものになる可能性)が言われていたり、デザインベビーや遺伝子のDIYなど倫理的な問題も指摘されています。

↑こんなことも記事になるくらい。

サプリ感覚でこんな技術を取り入れるようになる未来も来るかもしれませんが、まあ現時点色々言われそうではありますよねw

ただ、実はこの遺伝子操作、これほど精密に短時間でできてしまうというのはこのクリスパーのすごいところであり、問題視されそうなところでもありますが、古くからやられてきたことがあるとのこと。それが

品種改良

です。日本の発酵文化に大事な麹菌も、「人間に都合の良い」特性がいくつもあるそうで、長い年月をかけて日本人が菌を自分たちの良い方向に飼いならしてきた結果だとする研究もあるのだそう。

考えてみれば、大昔から人間の営みも自然の中にずっとあったわけなので、人間の手つかずの自然というものはなく、共生してきた結果、人間に良い自然が改変されて残ってきているのが今の自然であり、それが自然のそのものなのかもしれません。

両義性・振り子の発想

自然は「崇拝し、犠牲を捧げる神」であると同時に「自分たちに都合のいい利益を引き出す収奪の対象」という二面性を持っていて、この2つの意味を人間は両方持ち合わせて生きているというお話。

「発酵」も、今の健康ブームな文脈で「オーガニック軸」で取り上げることもできるし、クリスパーのような「イノベーション軸」としてバイオテクノロジー文脈で取り上げることのできる両義性がある。

さらには、文化人類学者のレヴィ・ストロースが説く「熱い社会」と「冷たい社会」という考え方があるそうで、ここにも両義性があるとのこと。前者は「直線的に進化する社会」、つまりはイノベーションとか資本主義的発想がなんとなく当てはまりそう。後者は「円環的に循環する社会」のことで、クラの交換ゲームやサーキュラー・エコノミーとかはなんとなく当てはまるかもしれない。

冷たく円環的な社会は、熱く直線的な社会へと成長するものだとするのではなく、変化や進化を求める熱い社会の根底には循環と持続を求める、冷たい社会の考えがある。とレヴィ・ストロースはすでに50年以上前に世に問うたそう。

じゃあ、冷たい社会こそが唯一の正義かというと、そうでもない。SDGsでも言われている世界の課題を「技術革新によって解決する」というのも必要な正義。

SDGsについて、色んな情報に触れているとこの二つの考え方の対立のような構図は、結構気になることが多く、どちら側の話も僕も取り上げることが多く、その度に「自分のスタンスはどっち側なんだろう?」とモヤモヤしていたこともあります。

この「進化」と「循環」の世界観のあいだで揺れ動くことこそが「人間らしさ」の証なんだね。

というヒラクさんの言葉は、そのモヤモヤをスカッと晴らしてくれる、名言だなと思いました両義性やどちら側にも揺れ動く振り子の発想が大事なんだなと。

前回取り上げた記事の中でも紹介されているヒラクさんのツイート

「誰かから社会的役割を与えられること」と「自分の意志で人生を切り拓いていくこと」の2つの極のあいだで揺れ動きながら「社会の中での自分らしさ」形作られていく。大事なのは「矛盾の中で揺れ動くこと」で、どちらかの極に振り切れていくと自分自身を見失ってしまいます。

ここにも両義性・振り子の発想の大事さが現れているなと思います。

しばらくバイブルになりそう

そんなこんなで6回も本の中身に触れさせていただきました。

言葉足らず、解釈違い、まとめ下手、色んな情報や読後感の抜け落ちが否めませんので、少しでも「お」と思った方は、ぜひ読んでみていただきたい一冊です。

しばらく、言葉の引用や考え方の引用など、色んなシーンでしてしまう、バイブル的存在になりそうです。

今ならなぜか約半額880円です。


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