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探究学習それ自体は「手段」でしかない。探究学習の「目的」とは何か。


こんにちは、芽もりーです。渋谷区の小中学校は、2024年度から午後の時間をすべて探究学習に充てるそうです。9年間あれば、何回も探究サイクルを回せそうで素敵ですね。「いやあ、ついにこの流れが初まったか」といった感じです。先行き不透明で変化の激しい時代に対応する教育改革として、非常に良いモデルケースになりそうで、私も大変ワクワクしております。もちろん「活動あって学びなし」とか「這い回る経験主義」だとか、毎回恒例の批判もでてくるはずです。そうならならい為には、いったい何が大切なのかを改めて考えてみましょう。

私は、真に意味のある探究学習を実現するカギは、「目的の明確化」だと考えます。探究学習に取り組む目的を共有し、明確化することこそが大切です。つい、どのように探究学習を実施するかという「How」に焦点が当たりがちですが、そもそも、なぜ探究をするのかという「Why」についての徹底した対話と高い解像度が必要なのです。形骸化しないように、私は「あなたはなぜ探究に取り組むのか」「あなたの学校はなぜ探究に取り組むのか」この問いに明確に答えられるよう学校の仲間と共に創り上げていきたい。

至極当然ですが、探究学習それ自体は手段でしかありません。探究学習を通して、どういった資質能力を育むかが重要であり、勤務校の教育理念や教育vision、育てたい生徒像などと照らし合わせながら、ここにじっくりと対話の時間を割くべき。例えば、戸田東小中学校では、探究学習の目的をシンプルかつ明確に「課題発見力」「論理的思考力」「解決への行動力」と置いています。目的が定まっていないと、ふわふわした、まさに「這いまわる探究」になってしまうことが危惧されます。

立命館宇治中学・高等学校の例も見てみましょう。私は、こちらに勤務されている酒井淳平先生のことを私淑(直接教えを受けてはいないが、ひそかに尊敬し、模範として学ぶこと)しており、著書やオンラインイベントを通して、話を聴くが多いです。酒井先生によれば、「なぜ探究に取り組むのか」という議論は、2017年のカリキュラム委員会から始まったそうです。生徒について「まじめで素直だが受け身」といった共通の問題意識をもっていました。そこで「お客様から生産者へ」をキャッチフレーズに探究を本格始動させたようです。与えてもらうお客様から自ら価値を生み出す生産者に変えることが探究学習をおこなう目的であり、当時の立命館宇治中学・高等学校も、まさに「目的の明確化」が功を奏したのだろうと推察します。

酒井 淳平(2023) 探究的な学びデザイン 明治図書



もう少し大きな話でいうと、探究学習を通して身につくであろう資質・能力は、2022年に経団連により実施された「採用者が大卒者に特に期待する資質・能力」にも合致します。産業社会の要請に応じて身につける資質能力がその都度、コロコロと変わるのはいかがなものかといった議論もありそうですが、それは一旦横に置いておきましょう。やはり、一般的に探究学習の目的に置かれているような「課題設定・解決力」、「論理的思考力」、「創造力」、「主体性」、「協調性」、「実行力」、「学び続ける力」こういった資質・能力が上位にきていることが分かります。

出典 2022年 経団連 「採用と大学改革への期待に関するアンケート結果」


ちなみに、どういった資質・能力を育もうかな。育てたい生徒像や具体的なルーブリックはどうしよう?そんなときは、福島県のふたば未来学園さんが参考になるかもしれません。ルーブリックを皆で更新して育て上げている素敵な学校です。今回は、ルーブリック表のみ記載させさせていただきます。詳細が気になる方は、ぜひ調べてみてください!

 2021年4月 福島県立ふたば未来学園中学校・高等学校 人材育成要件・ルーブリック


ここで、そもそも探究学習とは何か、探究学習の目指すところを改めて確認してみましょう。「総合的な探究の時間」の学習指導要領によれば、探究学習の目標は、「自己の在り方生き方を考えながら、よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を育成すること」とされています。探究プロセス(サイクル)は、以下のように表現されています。

「自分の興味関心や日常生活の疑問、社会の問題などをテーマに、問題解決的な学習を発展的に繰り返すことによって、物事の理や自分の生き方・社会の在り方について洞察を深めていく」こんな風にも解釈できるでしょう。


私はこれまで、何のための探究なのか、探究学習の意義やその目的について思索をめぐらせてきました。上記の言い換えに過ぎない部分もありますが、探究の意義や目的は、以下のようなものだと私は考えております。モレなくダブりなく整理されてはいませんが、参考にしていただければ幸いです。

〇課題発見力・課題解決力を養う
〇進路・キャリアの明確化
〇学びの型の習得(学び方を学ぶ)
〇主体性・協働性・創造性を養う
〇自己学習力(自立的に学ぶ力)を養う
〇エージェンシーを養う

ひとつひとつ説明していきます。
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〇課題発見力・課題解決力を養う。
「課題設定、情報収集、整理分析、まとめ表現」といった探究サイクルを通じて、問題発見力・問題解決力を養う。確かにこれまでの受験生のような、正解を出すための解法に習熟してから、正確かつ高速に再現する力を育む学び(正解主義型=ジグソーパズル型)も必要だ。一方で、正解の無い問いを発見し、対話を通して周囲を巻き込みながら、新たな解決策を創造するような学び(構想力型=レゴブロック型)が重要になってくるのである。偏差値よりも課題発見力、課題解決力のベースとなるような思考力・表現力・行動力が評価される時代といえる。

〇進路・キャリアの明確化
探究活動は、自分の将来の生き方や社会の在り方をロングスパンで考えることのできる貴重な時間だ。各教科の範囲内においては、進路やキャリア教育に繋がる学びを提供することは難しい。その一方で、探究学習ならば、自分の将来の生き方や社会の在り方をロングスパンで考えることができる。また、学校での学びが、実社会にある問題や実際の学問などと地続きであることを実感する機会にもなる。大学のイメージや偏差値で志望校を決めるのではなく、より解像度高く、自分にマッチした大学・学部選びが可能になる

〇学びの型の習得(学び方を学ぶ)
探究学習は、学びの型(学び方の守破離)を習得することや、学習のOSをセッティングすることともいえる。高校と大学以降の学習スタイルの隔たりに適応するためにも良い。卒論や修論等の研究、社会人になってからの仕事では、答えが無いことが当たり前であり、暫定的な答えを出し切らないとならない。正解のない問いに対して試行錯誤し粘り強く課題発見・解決しようとすることは、一見すると無駄が多く遠回りなように感じる。しかしながら、不確実で変化の激しい時代を生きる私たちに必要な学びのあり方である。

〇主体性・協働性・創造性を養う(OECDが求める資質能力に対応)
自分の興味関心や日々の生活、実社会に基づいた探究テーマにすることは、主体性が育むまれる。アルフィーコーンのやる気を引き出す「3C=contents(内容)choice(選択肢)collaboration(協働)」にもあるように、興味のある内容を自ら選択できるからこそやる気が引き出される。また、探究プロジェクトを進める中で、多様なメンバーと対話を通して合意形成したり、対立やジレンマを何とか克服したりする経験を通して協働性が育まれる。そして、オリジナルの答えを創り上げることを通じて創造性が育まれます。自分なりのこたえを創り上げる経験を何度も積み重ねることや、自分が取り組みたいことが誰かのためになることは、自己肯定感の向上にも寄与すると考えられる。

〇自己学習力(自立的に学ぶ力)を養う
「世界の誰も答えを知らない」ことをテーマとする。したがって、当然教員は教えることができない。答えのある問いに対する解法に習熟してから再現することに慣れ親しんだ生徒たちも、自分で考える他ないという状況に置かれると、自然と自ら考えはじめ、学びのオーナーシップが自分自身にあることに楽しみを感じる。そして、自ら思考、表現、行動するようになる。必要な知識は自分で調べて習得することが当たり前の感覚になり、先生に過度に依存することなく、自立的に学習できるようになる。これは受験勉強にも好影響を与えると考えられる。

〇エージェンシー(主体性、当事者意識、社会参画意識 等)を養う。

自分が取り組みたいテーマや日々の生活、社会と繋がるテーマを設定する探究学習だからこそ主体性や当事者意識(より良い社会を責任をもって実現しようとする態度等)≒エージェンシーが育まれる。認定特定非営利活動法人「カタリバ」による探究コンテスト「マイプロジェクト」に取り組んでいる高校生1654人を対象にした調査では、「今回の探究の経験から、自分の将来を自分で切り拓けると思ったか」という設問や「社会をよりよくするため、社会の問題に関与したいか」という設問に対して、肯定的な回答(とてもそう思う・そう思う)が9割を超えた。社会と学校を繋ぐ探究的な学びは、エージェンシー(主体性や社会参画の意識)を育むのに最適な学習といえる。

そもそもの話をすると、OECDによるEducation2030プロジェクトでは、ウェルビーイングを実現するためには、エージェンシー(Agency)が非常に重要であると記載されている。エージェンシーは、主体的に行動して、責任を持って社会を変えていくといった意味である。主体性にもいろいろあって、犯罪者や環境破壊者など望ましくない主体性もある。よって「責任のある主体性」そんな風な言われ方もしている。OECDの定義では、「変化を起こすために、自分で目標を設定し、振り返り、責任をもって行動する能力」とされている。また、エージェンシーは、単に自分たちの欲求を実現するだけでなく、その行動や自らが起こした変化が周囲にどう受け止められ、社会にどのような影響を及ぼすかに責任を負い、振り返ることを重要視している。例えば、探究学習では良くも悪くも、地域の商店街や森林・里山(環境保全)など、実際のフィールドに行き、多様な人と関わりながら行動した結果、迷惑をかけてしまうこともある。自分たちの行動には必ず責任が生じるのだ。そのため、探究では、責任をもったうえでの主体的に行動する姿勢が自然と育まれるといえる。

余談であり次回書きたい内容だが、エージェンシーの概念は、日本の教育基本法にある「~公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと」という記述にいくらか重なるものである。決して、日本にこれまで無かった目新しい概念ではない。先に書いた酒井先生の学校における「お客様から生産者へ」もエージェンシーに近しい話である。

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以上、探究学習の目的を6つに分けて、紹介させていただきました。

反対に、探究の目的として相応しくないものがあります。それは、総合型選抜での大学合格のためだけの探究学習です。大学入学者の半数が年内入試である昨今は、総合型選抜バブルだと言える。その弊害として、企業や地域の忙しい社会人の方に強引に絡み、最終的には、お世話になったにも関わらず感謝のひとつもしない。他にも、貧困やジェンダーなどのセンシティブな問題をテーマにし、インタビューで当事者を平気で傷つける。こういった問題も少なからず起きているのが実情です。合格するための、いわば、受験戦争を勝つためだけの総合型選抜専門塾なんかも乱立してきました、探究がただの大学合格の手段として消費されて欲しくないと切に願っています。

最後に「何のための探究か」という問いで終わりたいと思います。もちろん個人がVUCA時代を生き抜くための力を身につけるための探究も大切です。しかし、更に理想を言うならば、公正で持続可能な社会をつくることに繋がる探究をすることが大切なのではないかと考えます。「誰もが自分の価値を感じることができる」「誰ひとり取り残されない」そのようなよりよい社会を実現する基盤となるような学校を探究学習を通してつくるべきなのです。藤原さとさんが言っているように、倫理観が欠如していたり、環境を破壊してまで金儲けを追求するような探究があっても良いのだろうか。原子爆弾に関する探究はありなのだろうか。学習指導要領に「持続可能な社会の創り手」と記載された意味を今一度大切にしたい。善い探究と悪い探究がある。ここSDGsに繋がる探究学習をおこなう価値があると考えます。社会が学校を創るのではなく、学校が社会を創る。学校が変われば社会が変わる。より善い社会を実現する基盤となるような学校を探究学習を通して創り上げたい。

芽もりー




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