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成瀬あかりはこれからも~『成瀬は信じた道をいく』を読んで~

やっぱり成瀬は成瀬だった。

『成瀬は信じた道をいく』p.196

 作家の宮島未奈さんのデビュー作『成瀬は天下を取りにいく』(通称:成天)の続編『成瀬は信じた道をいく』(通称:成信)でも、主人公の成瀬あかりの「圧倒的な存在感」(宮島未奈 『成瀬は信じた道をいく』 | 新潮社 (shinchosha.co.jp) )は健在でした。
 大学進学とほぼ同時にびわこ大津観光大使に就任した彼女は地元をPRするため、精力的に活動していきます(「コンビーフはうまい」より)。
 そして、本作のラストに収められている「探さないでください」では、NHK紅白歌合戦という大舞台で特技のけん玉を披露して周囲を驚かせています(ちなみにその時、成瀬が着用していたのは、観光大使の制服でした)。
 このように、ひたすら我が道をいく成瀬に心惹かれた読者は多いと思います。かくいう自分もその1人です。
 著者である宮島さんとの対談で作家の柚木麻子さんは、成瀬の魅力について次のように述べています。

成瀬のすごいところは、周りへの影響力です。こういうキャラクターだと、周囲の人が彼女にコンプレックスを抱いて塞ぎ込んでしまいがちだと思うんですけど、宮島さんのお話の中では、むしろそれぞれが欲を解放していくんですよね。

宮島未奈 『成瀬は天下を取りにいく』 | 新潮社 (shinchosha.co.jp)


 「コンビーフはうまい」の語り手である大学生の篠原かれんは、成瀬に感化された1人です。初めはその真っ直ぐすぎる言動に戸惑っていましたが、観光大使の仕事を通じて、次第に親交を深めていきます。
 その過程でかれんは自身の生き方を見つめ直すようになります。それまでびわこ大津観光大使になるべく育った彼女は、それに代わる目標を見つけられずにいました。親たちが敷いたレールの上を歩まされている自分と違い、何にも縛られずに生きる成瀬の姿は輝いて見えたのでしょう。本編のラストで示されていたのは、「自分の生き方は自分で決める」というかれんなりの決意表明だったのではないでしょうか。
 現在3作目を執筆中だという宮島さん。今後も成瀬あかり史に新たな1ページが刻まれていくことでしょう。

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(*)見出し画像は、本書の特製ブックカバーを撮影したものです。


 


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