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ネットラジオを作ろうとした業者さんとの思い出

 このnoteはフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。(そしていつも通り、無料でも全文読めます)

事の始まり

 もう5年以上前の話。東海地方のある業者から「ネット専業ラジオを開局させたい」という相談があったので話を聞いてみた。すると、その内容は結構壮大で、単にネットラジオ局を開局するにとどまらず、開設する地域ごとにコンテンツを分けて放送し、それを一括して管理する仕組みを作りたいとのこと。
 要は、コミュニティ放送のIP版とも言ったところで、けっこう重い内容だなあと思ったことを覚えている。

ヒアリング

 後日、その事業主と直接あって話す機会があった。そこで、事業主からは4枚にまとめられたレジュメを見せられた。内容はだいたい上記と同じようなものだけど、よくよく見てみると、
・独自基地局の設置
・受信端末の開発

 という不穏な文言がそこには記載されていた。で、よくよく話を聞いてみると、どうやら2.4GHzの電波を利用したデジタルラジオ(DAB)を設置したいという意向だったらしい。
 2.4GHzは俗にISMバンドと言われていて、基準を満たしていれば無線局免許は原則不要で利用できるという点は大きい。そして無線LANとおなじ10mW程度の出力で電波が出せれば、基地局1個に対して半径数十メートルのカバーエリアが期待できる。技術的には可能である。
 問題は、2.4GHz帯を利用したDAB用送信機(と受信機)というものがおそらくこの世に存在しておらず、そこからの開発になってしまい、莫大な費用がかかることが予想される。そして。そんな物作ったところで本当に技適が取得できるかどうかも怪しい。率直に費用面……つまりは、その開発費について聞いてみると、そこは問題がないとのこと。なるほど、ということは、数十億円レベルの予算確保ができるということか。
 しかし、当然ゼロからの開発になるので、既存の技術や製品(海外にはDAB送信機や受信機はあるので、それらの製品の周波数帯を変更すればいけるか?)を利用したとしても、そこそこの時間はかかると思われ、先行してインターネットを利用したサービスを開始するべきと伝える(このへんはコンサルとしての仕事をちゃんとした)。

提案

うちからの提案は次のようなもの。
・ひとまずインターネット上に専用の音声配信サーバを立ち上げる
・アクセス地域判定のため、協力店舗等にVPNクライアントを立ち上げ、フリーWiFiアクセスポイントとして利用してもらう
・自社ラジオアクセス時のみ、VPN経由で配信サーバに接続できるようにする

 VPNクライアントは設置場所(提供エリア)により接続先(VPNサーバ)を変更することなどで設置場所を特定することができるので、「場所ごとのコンテンツ配信」はこれで可能になる。その上、フリーWiFiとして使えるアクセスポイントを容易することで、聴取者は自分の携帯電話の通信量制限を気にかけることなくインターネット接続ができ、また各種提供コンテンツにアクセスすることができるようになる。おまけに既存インフラを流用できるので、初期投資が格段に安く上がる。独自規格の送受信環境を構築するよりは桁外れに安く、同じようなシステムを構築することができる。
 こんな話をすると、さっそく見積もりが欲しいとのことで、後日発射した。見積額は、サーバ構築、専用VPNクライアント構築(開発)、試験環境の提供、VPNクライアントのサンプル数台。あわせて100万にすこし届かないくらい。ざっくりいえば一昔前の「1人・月」である。送受信機器の開発ができると豪語しているお客様なのだから、このくらいはなんてことない投資だろうとおもっていた。

その後

 まあここまで書いていてお気づきの皆さんが多いとは思うのですが、それっきりその事業主さんからは連絡がこなくなった。なんどか「その後ご検討はいかがですか、気になる点があれば遠慮なく言ってね」的な内容のメールを送信したものの、梨のつぶて。そういえば「是非一緒にこの企画を盛り上げていただきたい」としきりにいってたので、たぶんウチにコストをかける気はまったくなかったのだろうな、と。
 そして、当然見積もりが出せるということは技術的になんの問題もなく構築ができることを確認していて、なんなら小規模でなら稼働する環境もすでにある。と言うわけで、現在同じような仕組みを使った全く別のサービスを何社かに提供している。そして、件の事業者が計画していたサービスはいまだ開始していないようだし、なんならその事業者のホームページが消えているのも確認した。

 一緒に盛り上げましょういわれても、こちとらべつに御社の社員じゃないので、払うもの払ってくれないなら何もできないですよ。

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