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忘れられた打ち上げ花火:第11話 「あなたの二番目にしてください #3’」

はじめましてじゃない
はじめまして

アバターのあなたが
現実のあなたに置き換わる
その瞬間が
わたしはたまらなく好きなんだ


***


名古屋はよく訪れる場所だった
九州から関東・東北にかけての中間地点で
現実の冒険者たちが集合しやすいため
いろんなオンラインゲームでオフ会の会場となる事が多い
”いつもの場所“ に少し安心することができた


定番の金時計前で
待ち合わせを指定した

結局お互いに顔はわからないままで
ライブの日を迎えていた

実際の姿なんて
どうでもよかった

それまでのチャットを通じて
信頼していたし
尊敬していたから

金時計の周りには待ち合わせの人が多く
それらしい男の人がたくさん立っている

思ったより緊張をしていないのは
わたしがあなたより年上と
わかっているからかしら

物哀しい安心感があった


>> 着いたよ


あなたからのLINEが入る
この人混みなら通話した方が早そうだと
タップしようとした親指が
急に震え始めた


涙が込み上げてくる

アバター姿のあなたが
浮かんでは消えていく

大好きなあなたへの想いを
終える瞬間へと進む勇気
どうかわたしにください


しばらく鳴っていたLINEのコール音が止んで
繋がった音がした


「こんにちは、わたしも金時計前に着いたよ」

良かった
平静を装って上手に通話できている


「こんにちは、いや人が多すぎてどれがゆりさんだかわからないよ」


スマートフォンのスピーカーから聞こえるはずの声が
右隣から聞こえる気がして


「ほんとね、人が多くて見つけるの大変そう」


話を続けながら
急ぎ横目で隣の人物を確認する


あぁ、わかる
あなただ

細身な体型で
すらっとした高い身長
足元は 白いスニーカー
有名スポーツブランドのリュックを背負って

少しニキビ跡の残る
男の「子」


あなたは幼かった
スマートフォンの持ち方から
足が外向きにひらく その歩き方まで
全てが目に幼く映る

音を立てて鳴り響いてた鼓動が
平常に戻っていくのを感じた


あなたも離れた場所から
金時計の下を確認できる位置にいた
考える事が一緒で
ふっと笑みがこぼれてしまう

イヤフォンを繋いだままの
スマートフォンを胸に抱え
あなたは金時計前へ向けて歩き出した


「わたしはあなたを見つけた」

「えっ」


オロオロと辺りを見回す様子が
小動物を見ているようで
意地悪をしてしまいたくなった


「一番かわいいお姉さんに声掛けてみれば?  当たるよ」

「いやいや」

強張っていたあなたの顔が緩む


「ほんとわからないからどこにいるか教えてくれる?」


早々に降参と言わんばかりに
肩をすくめたように見えた

あなたの姿を充分楽しませてもらったから
仕方ないなと言うように
頭の上垂直にいっぱい腕を伸ばして
気怠そうに手首を振ってみせた


「ここよ」


ようやく視線が交わった


はじめましてじゃない
はじめまして

いつも通りに会話が始まり
特にあてもなく
自然に二人で歩き出した


そう
わたしにとって
やっぱりあなたは
アバターのままのあなたで

あなたにとっても
やっぱりわたしは
アバターのままのわたしだった


>>> 第1話はこちらから


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今まで小説を読んでくださった方、女性の生き方として興味を持ってくださっている方、作品を通してnoteに来てくださった方に、自分の気持ちに向き合いながら正直に感じる思いをエッセイに込めて描き続けていきます。 生き方や愛に思い惑うときにも、エンターテイメントとして楽しみたいときにも、喜んでいただけるような内容を届けられたら、嬉しいです。 新しいスタートを切った*うみゆりぃ*をよろしくお願いいたします

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