見出し画像

忘れられた打ち上げ花火:第6話

あなたの好きなエモい曲を聴いて
あなたの好きなアイスを食べて
少しずつ少しずつ
想いを冷ませていく日々

それは正しい恋愛じゃないわと
諭せるほど
わたしだって
大人に成りきれていないの


***


程なくして
あなたと一緒に遊ぶことをやめた

毎日遊ぶことを約束していたわけではなかったけれど
何となくフリーにしていた午後11時からを
これからは 他の人と遊ぶ時間にしていくねと
伝えた


>> ゆりさんの好きにしてくれて、俺は大丈夫だよ


理由も聞かず
引き止めることもなく
あなたはそう答えた


あなたの立ち上げたサークルからも抜けて
別々で遊ぶようになった

けれども

ともに世界を救う冒険者として
一緒にバトルをしたり
仲間の応援をしたりと
遊ぶ機会は残った

以前のように
ふたりきりでチャットだけをするような
そんな遊び方にはならないようにと
気を遣った


わたしだって
数年ぶりに再燃した恋心を
簡単に消火できるほど
大人に成りきれていない


相変わらず
あなたの好きなエモい曲を聴いて
あなたの好きなアイスを食べて
少しずつ少しずつ
想いを冷ませていく日々

あぁ、良いことを思いついた

音楽ならば
そっくりそのまま
この想いを託してしまって
心の平穏を取り戻せるのではないかと

あなたの好きなアーティストのライブを検索し始める
チケット販売がまもなくスタートする情報を掴んだ

”ライブはぜひ行って欲しい、感動するから!”

そうあなたから聞いていた
一人でも全然構わないから、行くべきだと

”うん、行ってみよう”


音楽を聴く習慣もなかったわたしが
アーティストのライブチケットを購入することも
何もかもが初めてで
正直、参ってしまっていた


”プレ? 先行? チケットって何なの”


悩んだ末に
あなたに相談することにした



<< あなたに教えてもらったアーティストのライブに行こうと思って、チケットの取り方を教えてほしいの

>>  え、衝撃すぎる、ライブしばらくないと思っていたから

興奮した様子でチャットが次々と送られてくる

>> いくつも衝撃すぎて、頭が追いつかない


そんなに聴いて好きになってくれていたことに驚いた、と
あなたは深く考えずにも言う

参っちゃうわね
あれからずっと聴いている

音楽の全くなかった生活から
常に音楽のある生活へと
変えてしまった罪は重い

心を落ち着かせてくれたり
気持ちを高めてくれたり
時には忘れさせてくれたり

音楽はすごい力を持っていると
気づかせてもらったのは

あなたのおかげ


<<  良い音楽を教えてもらえて、感謝してます。一人で行ってくるわ

>>  え、俺もめっちゃ行きたい

<<  いや、行きたいって言われても


現実のあなたと現実のわたしが
仮想世界と同じように
一緒にいて楽しめるのかと
大きな不安がよぎる


<<  わたしの方がだいぶお姉さんなんですけど

>>  年齢は関係ない!趣味が合うのが最高なんです



年齢は関係ないなんて
嘘ばっかり

でもきっと

現実のわたしを見たときに
あなたが抱く わたしへの感情が

すーっと違うものに変わっていく姿を
目の当たりにすれば

心の片隅にくすぶっている
あなたへの想いにも
せいぜい あきらめがつくだろうと
そう思ったの


ピロンと
メールの通知音が鳴った


あぁ、神様もそう思ったのね
なら従うことにするわ


二人分のライブチケットが
当選したとメールが届いた



>>> 第1話はこちらから


ここから先は

0字
【2023創作大賞応募作品】のため。現在全話無料公開中です。

【2023創作大賞応募作品】のため。現在全話無料公開中です。オンラインゲームからはじまるリアル恋愛短編小説です。綺麗に解けてゆく夏夜の魔法…

この記事が参加している募集

ゲームで学んだこと

恋し続けるために顔晴ることの一つがnote。誰しも恋が出来なくなることなんてないのだから。恋しようとしなくなることがわたしにとっての最大の恐怖。いつも 支えていただき、ありがとうございます♪