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Forget-me-not blue eyes

この広いの空の下で
その大いなる海の間で

心から好きだと想える人に
出逢えたことは

「運命」と呼んでいいだろう?


けれど


好きだからと

自分の一生を捧げて
一緒に居続けることは

「運命」じゃない



***



どこまでも続く水浅葱色みずあさぎいろの大空
静かに波打つ灰青はいあおの大海

あらゆる青に挟まれた俺たちは
手だけを繋いで互いの先を眺めていた


彼女は今にでも飛んで行きたいと
高鳴る胸を必死に抑えていたのだろう

薄雲が隠す夕陽の僅かな光を反射して
かすかにきらりとゆらめく波を映した

青い瞳を輝かせた横顔

たまらなく愛おしく
ずるいほどに狂おしい

俺はあまりの青の広大さに
飲み込まれそうになって

思わず顔をしかめた


「カッコわりぃ」


青は恐怖だ

感情も思考も瞳さえも
全てインディゴに
染め上げられてしまいそうになる

自分が情けない

俺が不甲斐ないばかりに
親父には飽きられ
弟には一生涯分の“迷惑”を掛けてしまっている


そうして今も

隣にいる愛しい存在を
この空に手放してやることさえ
できずにいるのだから


つい力が入りぐっと握ってしまった
その小さな白い手が
さらに強い力で握り返してきたから
驚いた


「Sind wir zusammen?(私たち付き合ってるの?)」


まさか彼女の口から
ドイツ語が飛び出すとは思わなかった


「おい、ドイツに来るつもりか?」

「質問を質問で返すなんてダサいわよ」


凛華は一度言い出したら聞かない

説得してなだめて
どうにか意見を変えさせることは

この俺でさえも難しい


「Vergiss mich nicht(わたしを忘れないで)」


勿忘草わすれなぐさか」


「勿忘草は、Vergiss-mein-nicht」


雑学レベルのドイツ語じゃないか

英語、スペイン語を独学で習得した
凛華の語学の才能は俺も及ばない

そんな彼女が
ドイツ語を習得することなど

俺が思う以上に
容易たやすいことなのかもしれない


何やら楽しそうに
勿忘草の伝説について話し始めた隣で

彼女の実家に遊びに行った時を
思い出していた


凛華には歳の離れた姉が二人いる

初めて高知県の実家を訪れた時は
親戚一同が集まる賑やかな日だった


クリっと無垢な丸い瞳で見つめてくる
クソガキどもに

そいつらの面倒を
終始ニコニコと見ている
優しそうな姉の旦那達

女達はこれでもかというほどの量の料理を
次から次へと大きな卓に並べていく

今まで食べてきたどんな値段の高い料理にも
決して劣らず
どれも美味いと感じるから不思議だ

俺は家庭の味とやらを
知らない

ごく一般的な家族の愛を
知らない

笑いの絶えない家庭を
作りたいとも欲しいとも
思わない


凛華の望む幸せを
俺には描くことができない


「--だから、花を投げてシグレは死ぬんですよ」

「おい、俺は死なないだろ? 」


とっさに自分は死なないと
言葉が出てしまった


「出逢ったのは異世界だけれども」


あぁ、にんまりと
目を細めて俺を見つめてくれるな


「その仮想世界のシグレが残してくれた勿忘草を

現実リアルの凛華は心に秘めて生きていきますよ」


そうか、
俺は彼女が隣に居るから

まだ生きていきたいと
思うようになったんだ

仮想の彼女に出逢ってしまったからと
現実の俺の道が狂うことのないように

責任と覚悟の現実リアルから
逃げ出さないように

ズボンのポケットに手を入れる



俺は

意気地なしだ


「おい、ちゃんと見てろよ」


繋いでいた手を放し
身を乗り出すように柵を掴む


「凛華ぁーーー! 俺はおまえを、、、 」



青い風が背中を押したと思ったら

近くで誰かが
鐘を鳴らす音が3回聞こえてきた






「シグレさん達、遅すぎて先に温泉楽しんじゃいましたぁ 」


ようやく帰ってきた二人に
片方の眉を上げて
不機嫌さをアピールした

待ちくたびれて
お腹はペコペコだし

わたしだけ何も聞かされずに
勝手に二人で居なくなっちゃうし


「ゆりちゃん、ピンクの浴衣着似合うねー」


いつもより増して
シグレさんの機嫌が良い

相変わらず
わたしの質問には答えることはない


「恋人岬に行ってたんですって? 」


「あぁ、堂ヶ島も良かったよ、青の洞窟」


目を細めて、頬を膨らます


「えー、二人だけずるい」


「ゆりちゃん達も行ってくるといいよ」


せっかく四人での伊豆旅行なのに
そういうのは嫌


「四人で夕食楽しめるように、こっちのお部屋にみんなの食事用意してもらうよう頼んでおきましたよ 」

「お、さすがゆりちゃん。準備できたらすぐ行くわ」


シグレさんの一歩後ろを歩く
凛華さんの元気がないようにみえた


「いろんな色の浴衣着借りられるから、凛華さんも着て来てね」

「うん、青がいいかな」


そう言って
かき上げた黒髪と指の間が
不自然にきらりと光った


あれ、凛華さんて指輪してたっけ?


目をぐるっと一回転させるように
思考も一回転させると

不機嫌なんて
どこかに飛んでいってしまった



にんまりとシグレさんに目配せすると
彼は何にも気づかないフリして

彼女の手を引いて
部屋に戻っていった


***


わたしたちの出逢いは
異世界だけれども

現実のわたしたちは
確かに存在していて

現実で出逢い
冒険をしているの


この先の道もゲームと同じように
ずっと繋がっていて

四人でパーティーを組んで
笑い合える未来を
思い描いていけるものだと

信じていたあの日のサブストーリー



リーダーはもちろん
シグレさんでね




「Forget-me-not blue eyes」


~END



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