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忘れられた打ち上げ花火:第12話 「あなたの二番目にしてください #4’」

仮の世界の湖の前
仮の打ち上げ花火を
仮の姿のあなたの隣で見上げながら
夜通し聞いたあの曲を

未だって私は聴くの


***


スモークが焚かれ、紫に霞がかった会場
ついにライブがはじまった

恋しきれない苦々しい歌詞が
まるで自分たちを映し出しているような
錯覚を起こしてしまう

そんな失恋ソングを得意とする
アーティストのライブだった

わたしたちはこのアーティストが大好きだ

いや正確に言うと
あなたが大好きな音楽
だからわたしも大好きになった音楽

あなたを想う歌詞がせつない歌声と共に
矢のように降りそそぎ心に突き刺さる

行き場のなくなった感情が
遂に目からあふれ出てしまった


その瞬間


わたしたちの一番好きな曲が流れた
夜通し聞いたあの曲


ふいに ぎゅっと握られた左手

何度か組み換えながら
あなたの太腿の上に置かれると
両手で愛おしそうに包み込まれた

本当に温かい
こんな日がくるなんて

ようやくあなたの体温を感じることができた

仮の”わたし” には
絶対手に入れることのできない
あなたのぬくもりを

現実のわたしは手に入れた


今日のセットリストは
当日まで全くわからなかった

わたしたちの一番好きなこの曲が
今日演奏されたことさえも
奇跡に近い


ずっと不安だった

もしかしたら
今日は演奏されないのかもしれない

もしかしたら
演奏されない方が良いのかもしれない

もしかしたら、

現実のわたしが現実のあなたを
好きになってしまうのかもしれないと


薄暗い会場の中で
ゆっくりと左に首を振り
あなたの顔を覗き込む

舞台の中心で歌うアーティストを
真っすぐに見つめながら
あなたは一緒に口ずさんでいた

本当に、好きなのね

強く握りしめるお互いの手が
汗ばみ始めても
ずっと離すことなく
アンコール曲まで
握りしめたままだった

その感覚も
記憶から消えることはないでしょうね

ボーカルは最後にこう話した

「僕たちの音楽は、もう自分たちだけのものじゃなく
 皆がそれぞれに気持ちを当てはめて自分たちの音楽にしているんだ」


***


叶う事ならば
感謝を伝えたい

出逢うことのない奇跡的な恋が
ここで起きたという事実

アバター同士の恋が
遂に結ばれたの

わたしは仮想世界で待つ
仮の”わたし” を思い浮かべた

「想いが通じ合えて良かったわね、彼のことが好きだったんでしょう? 」


それなのに
素直に喜ぶことだけは

どうしても叶わなかった



>>>第1話はこちらから♪


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今まで小説を読んでくださった方、女性の生き方として興味を持ってくださっている方、作品を通してnoteに来てくださった方に、自分の気持ちに向き合いながら正直に感じる思いをエッセイに込めて描き続けていきます。 生き方や愛に思い惑うときにも、エンターテイメントとして楽しみたいときにも、喜んでいただけるような内容を届けられたら、嬉しいです。 新しいスタートを切った*うみゆりぃ*をよろしくお願いいたします

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