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忘れられた打ち上げ花火:第3話

いつかあなたが

自信に満ちあふれて
胸を張れるような
素敵な社会人になったとき

ご飯でもおごってくれないかなって
期待しないで
夢見てる

それ、すごくがんばれそう


***


あなたの住宅地の完成を
サークルのメンバーたちも
たくさんお祝いしてくれた

あなたはサークルのリーダーだった

サークルのメンバーであれば
だれでもあなたの住宅地にワープで飛んで
素材屋や競売はもちろん、冒険に必要な宿屋、
アイテム屋、教会など便利な施設を自由に使うことができた


これは本当にすごい事なの


仮想世界であっても
効率よく通貨を稼ぐのに
アバターを操作する現実世界の自分の能力が
大きく関わってくる

プレイヤースキルという操作技術

短期間で2億もの大金を稼ぎ出す力は
並大抵じゃない


どんな仮想世界でも
お金を上手に稼ぐことができて
高価な武器防具をオークションで競り落とし
アバターの基礎能力を高めてる人たちは

のちに現実世界でも起業したり
有名な会社に就職したりと

仮想世界から抜け出した後も
素晴らしい活躍をされている

そんな素敵な社会人になっているフレンドが
わたしの周りにも多くいた


<<  素直にあなたはすごいと思うわ

>>  約束通り、ここで一緒に職人のレベル上げようね


まさかわたしのために
土地を買ったのではないかと
”ここでは” 少し自惚れさせてほしい


<<  その前にわたしからも完成のお祝いしないと

>>  気持ちだけで十分

<<  わたしの気持ちがおさまらないの

>>  うん、わかった。楽しみにしてる


お祝いはもう決まっている
あなたを驚かせてあげたい



その日から
あなたがログインしていない時を見計らっては
住宅地に何度もワープを使って飛んで行った

到着すると決まって
プライベートビーチへアバターを走り出す

砂浜には水着に着替えられる小さな更衣室が
ポツンとあるだけで殺風景と言ったらない

山に囲まれた水辺はどうやら湖のようだった


わたしはそのビーチに持てるかぎりの
庭具アイテムをありったけ持ち込んで

リゾートベッドやビーチチェアで
常夏の雰囲気を作り出し

パラソル付きのローテーブルの上には
かき氷やトロピカルジュースを設置して
ハイビスカスで飾りつける

少しずつ少しずつ
賑やかになってゆくビーチ


サークルの人たちとも
イベントができるような場として
使ってもらえないかしらと
あなたが喜ぶ顔を思い浮かべながら

こっちでもない、あっちでもないと
設置した庭具を何度も並び替えていた



いつものように
あなたがいない時間に住宅地に飛ぶと
暗い夜になっていた

天候や朝昼晩の時間設定は
住宅地の所有者なら自由に設定できる

プライベートビーチの方から
木々の間を抜けて、かすかに見える光の輪と
ドンドンと胸に響く音が聴こえてくる


わぁ、綺麗


ビーチに到着すると
湖の向こう岸から
大きな打ち上げ花火が
何発も何発も上がり続けていた

仮想世界と言っても
ランダムに打ちあがる尺玉に、リアルな音響
かなりの臨場感に心が震えた

何年ぶりに見上げる打ち上げ花火かしら

誰かと花火大会に行った記憶は
ここ数年分抜けている


>> すごいでしょ、花火


振り返ると
いつのまにか あなたが後ろにいた

こういう粋な演出するの、
あなたは本当に得意だった


<< すごいでしょ、ビーチ


素敵に飾り付けた
自信満々のあなたへのプレゼント


>>  ゆりさんのセンス、好きだな


女を喜ばせる言葉も、
あなたは本当に上手かった



>>> 第1話はこちらから


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