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捨てられない死の指輪 #1

一度装備すると二度と外せない
死の指輪
無理に外そうとすれば
装備もろとも崩れ去る

それは
ゲームの仮想世界に囚われる
呪いだった


***


初めてのネット回線を繋いだ
オンラインゲームは
両親に許可をもらって
バイトの先輩に教えてもらいながら
自分でインターネット契約するところから
スタートした

回線を繋げるのも大変だったけれど
ゲーム機器にソフトをダウンロードして
インストールすることさえも
丸1日がかり


学校が終わって帰宅しても
まだ画面はインストール中の表示

「70%から数値変わってないんじゃないの?」

テレビ画面とにらみあい
はやくプレイしてみたい気持ちを焦らされる


あっという間にバイトの時間
近所のコンビニへと自転車を飛ばす




「まだ繋がらないの?」

昨日と全く同じ話題をふられる
この先輩がわたしをこんな恋愛癖にした張本人

仮想世界への導き手 ”白ウサギ”

フランクフルトに焼き目をつけながら
明らかにからかっている口調で
わたしの反応を見て楽しんでいる


「言われたとおりにやってますけど、全然できないんです」

頬を膨らませて軽くにらみつける


ピーク時間が過ぎたコンビニは
わたしと先輩と、オーナーの3人しかいない

オーナーはバックヤードでモニターを確認しながら
発注作業をしている


わたしは新発売のふわふわのスフレチーズケーキを
丁寧に陳列しながら
白ウサギの冒険記の続きを待っていた

「先輩、レベルはあがりましたか?」

あれこれ質問したい気持ちを押さえつつ
ケーキの一つを棚の奥に隠すように追いやった


オンラインゲームをやると決意してから
もう二週間は経っている

現実世界と仮想世界との接続作業は
なかなか進まない

4ヵ月前から新世界へと降り立った白ウサギは
ぐんぐんアバターのレベルを上げていき
仮想世界のコミュニケーションというものを
嬉しそうに教えてくれた

自分以外にも
たくさんのアバターを介したプレイヤーたちが
同じゲーム画面の中にうごめいているという

その未知の世界の話は
とんでもなく 興味をそそられる



「22時からレベル上げのパーティーの約束があったわ」

交代者へ簡単な引き継ぎが終わると
白ウサギは時計を気にしながら
足早にバックヤードから飛び出て自動ドアへ向かう


「先輩、待ってください」

スィーツが並ぶの陳列棚の奥から
新発売のケーキを一つ取り出して
急ぎレジを打ってもらう



「途中まで一緒に帰りましょうよ」



***


このまま
現実世界と仮想世界の接続が
できなければよかったのかもしれない

この時ならまだ引き返すことができたはず


その日
同じ時間でシフト上がりだった
白ウサギを追いかけて


永遠に戻れない「仮想世界」への穴へと
わたしは飛び込んだ


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今まで小説を読んでくださった方、女性の生き方として興味を持ってくださっている方、作品を通してnoteに来てくださった方に、自分の気持ちに向き合いながら正直に感じる思いをエッセイに込めて描き続けていきます。 生き方や愛に思い惑うときにも、エンターテイメントとして楽しみたいときにも、喜んでいただけるような内容を届けられたら、嬉しいです。 新しいスタートを切った*うみゆりぃ*をよろしくお願いいたします

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