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【剣】第45~49話(完)

 だいぶ間が空いてしまいました。さくさくまとめる。


第45話

 アンデッドたちの存在すべてがカードに封印されているわけだから、やはりカードが失われればそこに閉じ込められたアンデッドも失われてしまうのかも。種族自体が滅びるわけではないとは思うが、次なるバトルファイトが開催されても代表となるアンデッドがいなければ出場権は与えられないのかも、などと妄想する。

 直後に見た『オーレンジャー』第44話ではオーブルーが残高3982円の通帳を握り締めて登場したが、それよりも儚い残高。げに正義の味方とは貧しいものである。
 橘さんは人類基盤史研究所の研究員からライダーに転身したので無論正社員であろう。剣崎の身分は公式図鑑によると「社員」とのこと。社保完備の正社員だと仮定すると、この「コクミンネンキンホケン」はかつて未納だった分を追納しているのかも(引き落としに対応しているのかはわからないが……)。あるいはやっぱり、社保未加入の非正規社員なのか。ライダー仕事という特別職での採用だろうし、終身雇用にはなじまないものなあ。

 虎太郎が始と対等に話し、なんならちょっとつっけんどんな態度を取ることができるのは、始が人間、それもそこまで線の太くない青年の姿をしているからだ。もしもヒューマンアンデッドがむくつけき大男の姿をしていたとしたら、その姿をコピーした始はここまで人間社会に溶け込めていただろうか。ハカランダに住み込むところまでこぎつけたとしても、虎太郎の態度は目に見えて変わってきそうである。
 閑話休題、人間ならぬ異形の姿に対峙すれば、たとえ中身がよく知った相手だったとしても、どうしても恐怖や抵抗感が生まれてしまうのは理解できる心情である。まして「ジョーカー」はいつ暴走するともわからない、最凶のアンデッドなのだ。筵をかけてやるのは他の人間の目からジョーカーを隠すというよりも、ジョーカーの目を覆って他の人間を見えなくするための儀式のようにも思える。少なくとも眼前に襲う対象がいなければ、ジョーカーとて暴れるわけにはいくまい。



第46話

 ダイヤのカテゴリーキングこと金居。ジョーカーを除けば最後の一人のアンデッドである。己の進退がバトルファイト自体の趨勢を支配すると十分に理解したうえで、彼は行動を起こさんとする。すなわち、望まれぬ乱入者であるケルベロスアンデッド=天王路の排除だ。
 自らの身体に埋め込んだカードリーダーにより、いまや天王路はケルベロスと一体化してしまっている。ライダーシステムを用いたヒト優位の融合ではなく、まるでケルベロスの中に飲み込まれ、そのコアとして頭脳だけが生きながらえているような形態。アンデッドを倒すことはライダーたちの仕事でもあり、天王路の計画はたしかに脅威であった。……だが、倒れた天王路からは人間の血が流れる。アンデッドとして「最後の一人」になろうとした天王路は、しかし結局最後まで人間のまま、アンデッドにはなれなかったのだ。

 嶋さんや城光が睦月の内側で彼に強さを与えた例もある。融合されたアンデッドの誰もかれもが宿主に影響する、というわけでもなさそうだが、ヒューマンアンデッドは確かにジョーカーの人格へ働きかけを行っている。本能を抑え込み、人間社会に交わって暮らすための意識改革。小さな子どもに理性を身につけさせるようなものだろうか。三つ子の魂百までというが、まっさらな状態で書きつけられた価値観はそうそう覆せるものではない。ヒューマンアンデッドを封印し、その姿をコピーしたときに、相川始の運命はもう定まってしまったと言えるのかも。

 そういえば睦月、以前もカードばら撒きの被害に遭っていたなあ。手でかき集めたり足で雑に寄せたりするのではなく、一枚ずつ腰をかがめて拾っている姿がなんとも根っこの素直さを感じさせる。そういうところが望美をして「かわいい」と言わしめる所以なのであろう。
 珍しく白井家に泊まり込んだために、アンデッドサーチャーの警告音でたたき起こされることになった睦月。咄嗟に電話と勘違いしたのは、彼があまりこの音を聞きなれていないからか。眠たいだろうに、狸寝入りを決め込まずちゃんと受話器を持ち上げて「もしもし」まで言うのが偉い。

 御承知の通り世の中にはライフワークバランスという言葉がある。橘さんは仮面ライダーを「使命」かつ「仕事」であると述べるが、バランスどころかもはや文字通りライフワークとなっているのだろう。小夜子や桐生の命を抱えながら、必死になってこなすべきお仕事である。いずれ戦いの日々が終わった時に、燃え尽き症候群になってしまわないか少々心配ではあるが……。



第47話

 バトルファイトの発生について、最終話で烏丸所長が推論を述べていた。曰く、地球上の種族たちの「己が進化だけを望む闘争本能」が融合して、バトルファイトというシステムが生み出されたのではないか、とのこと。バトルファイトに欠かせない統制者の存在も、その必要性からシステムによって作り上げられたものであろう。独裁的な大いなる意思やその使者ではなく、どちらかというと合議制の産物に近いような……?
 そしてシステムの媒介であるがゆえに、統制者はバトルファイトの結末へ一切私情をはさまないし、情状酌量の余地もない。事前の取り決めに則って、粛々と地上の蹂躙を行うのみである。

 年の割に聡く大人びていて、始が何らかの事情を抱えている事にも薄々感づいているだろう天音。もしここで始が何らかの長いお別れを告げれば、彼女は一時的にショックを受けつつも頭の中ではそれをきちんと理解し、時間をかけて受け入れることができただろう。だが、天音の電話を受けた始はまるでちょっとそこらに出かけているだけのような素振りをし、別れの言葉など一切口にしない。天音を心配させないために嘘をついた、というにはあまりにも堂々とした受け答え。第一、「プレゼントを買って帰る」なんて約束してそれを破れば、余計に天音が悲しむことくらい始にもわかっているはずだ。ゆえにこれは始の「絶対に生きて帰る」という決意表明であり、橘さんに向けてのパフォーマンスでもあろう。そしてそのパフォーマンスをまともに食らい、案の定、橘さんは始を討てなくなってしまう。大切な人と突然死に別れる哀しみは、橘さんのウィークポイントの一つである。

 鳥肌が立つほどの迫力と格好良さ! カテゴリーキング相手になりふり構っている暇など無い。彼我の戦力差は既に明確であり、最初から捨て身の覚悟であったのだろう。封印のカードが海に落ちても、それを目掛けてカテゴリーキングごと自分も海へ飛び込んでいくギャレン。思い切りの良さに感服すると同時に、全く躊躇しないその飛び込みにちょっとハラハラしてしまう。自分の命も大事にしてくれ!



第48話

 少し前にも原稿の持ち込みをしていたし、剣崎や栞のサポートをしつつも虎太郎はしっかり自分の仕事を進めていたらしい。見習いたい姿勢である。
 とはいえパソコンに向かって最近の事象を思い返しているのは、それだけ現状が手詰まりであり、今の虎太郎自身が他に何もできないという状況の現れでもある。冒頭で警官たちが襲われていたように、ダークローチと戦えるのはあくまでも仮面ライダーだけ。一般人にはとても歯が立たない。
 ダークローチの出没範囲は徐々に広がり、ついにハカランダ近辺にもきな臭いにおいが漂い出す。栗原母子も避難のため白井家に身を寄せているが、天音は始を心配するあまりひとりハカランダへ戻ってしまう。
 店内にも私室にも始がいないことを確認し、しょんぼりする天音。そんな時、突如として店の外にダークローチの群れが現れ、今にも店内へなだれ込まんとする。……しかし、ローチたちは不意におとなしくなり、ぞろぞろと窓ガラスから離れていく。窓の外、遠くにちらと天音が見かけたのは、以前自分を襲おうとした黒と緑の怪物の姿である。

 各種族の代表・象徴であるアンデッドたちが不死であるのはなんとなく理解できる。単一の個体が倒されても種族自体が滅びるわけではない。種族を示す概念的なものだと思えば、確かにそれは不死と呼べるだろう。彼ら自身も種族の恒久的な存続と繁栄のため、不死であることを望みさえするかもしれない。
 だが、ジョーカーが不死であるのは明らかに統制者の都合だ。地球上の種族たちが望んで始まったバトルファイトにおいて、一人だけ元の種族を持たないジョーカー。彼はどちらかと言えば統制者の側に近い存在だろう。システムを効率的に作動させるためだけに存在し、いざというときにバトルファイトをリセットするための鍵でもある。ゆえに、彼は自分の都合で勝手に死ぬことを許されていない。最強の力を持ち、すべてを破壊し尽くせるジョーカーは一見自由に振る舞っているようだが、実は闘争本能と統制者の規則に誰よりもがんじがらめに縛られているのかもしれない。



第49話

 天王路の額から流れた血が赤いままだったことを思い出す。悪党をののしる台詞として「お前の血は何色だ」というのがあるが、剣崎もまさに血の色の違う別のいきもの(はたして不死者は生きていると言えるのか?)へと変貌してしまったのだ。元が人間であったために人間の姿をしてはいるものの、それはただ外側がそうなっているだけにすぎない。
 変身を解除した剣崎はおもむろにブレイバックルを投げ捨てる。その腹部には始同様、カードをスラッシュするタイプの新しい変身機構が貼り付いている。正式にバトルファイトの参加者と認められた剣崎は、もはやライダーシステムの補助が無くても自由にカードを使うことができるのだ。とはいえ、カードデッキはバックルと共に手放してしまったため、手ぶらの状態で彼は姿を消すことになる。バトルファイトがリセットされずに引き伸ばされた以上、新たにカードを手に入れることができるわけでもなく、変身機構は無用の長物である。

 遙香からおつかいを頼まれた始は、購入した花を抱えて店に戻る途中、剣崎の姿を見かける。以前と変わらぬ笑顔と呼び声に思わず駆けよるが、それは一時の幻。並木道には無人のベンチがあるばかりである。
「お前は、人間たちの中で生き続けろ」
 剣崎の台詞がリフレインし、始の口角は寂しそうに少し持ち上がる。そしてそのまま、再び始は歩き出す。剣崎もまた、始が一緒に生きていきたかった「人間」のうちのひとりである。だが、その願いは世界の平和と引き換えに、永久に失われてしまった。並木道に人通りはなく、敷き詰められた金色の落ち葉はうら寂しい雰囲気を漂わせるが、しかしその道の先には天音たちの待つハカランダがある。
 始に「人間たちの中」での生活を勧めたからには、その始から距離を置くため、剣崎自身は「人間たちの外」へ行くしかあるまい。世捨て人になるのは難しいとしても、少なくとも今属しているコミュニティの外へ行かねばならないのは確かだ。それは遠い町か、あるいは遠い国か。砂丘に残る一本の轍に伴走者はなく、ただ真っすぐに、遠く地平線の先へと続いている。剣崎の行方はようとして知れない。だが、何も孤独でなければいけないという道理はない。チベットにいた嶋さんだって日本に来なければバトルファイトに参戦することもなかっただろうし、地球の裏側辺りでのんびり誰かと星でも眺めていてくれればよいなと思う。



 というわけで全49話完走。次は映画(配信ありがたい)と小説(もう買って積んである)に手を出す予定。楽しみです。

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