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[掌編]独裁国家=セブンイレブン

どこまでいってもセブンイレブンしかなかった、この町には! 
いったいファミリーマート(テレレレテレン・テレレレレンのメロディが頭のなかを渦巻いて、とまらない!)はどこへいったか?=おれはもう二度とファミチキを食えないということだろうか?

家々の玄関にはちいさな旗が掲げられていた、赤とオレンジで描かれた神聖なる【7】の字が!
食卓にならぶ揚げ鶏、揚げ鶏、揚げ鶏――。
そうだ、ファミリーマート(テレレレテレン・テレレレレンのメロディが頭のなかを渦巻いて、とまらない!)はどこへいったか?

……………………テレレレテレン・テレレレレ――――ン…………テレレレテレン・テレレレレン――――テレレレテレン・テレレレレン……………………

こうした電子の唸るようなメロディはしだいに薄れていった。
そうしていま(というのは朝方の薄靄が晴れつつあるこの一瞬間に!)帝京平成大学は地底へと沈み、合宿免許WAOは歴史の上から消え去った。

キャッフェもレストラントもいまや【7】を掲げており……それはつまり、セブンイレブン(これはファミリーマートであらぬところのものという以上に意味をもたぬのであるまいか?=否、それは「おれがファミチキを食らうということ」を妨害する悪魔でしかない!)であった。

タクシーのナンバーは7777、心地のわるいゾロ目!
ファミリーマート(あのメロディはなんであったか?)までというと運転手が高らかな笑いを見せる…………。

信号で停まると、おれは777円を支払って飛び降りてやった! 痛快な煙のかおり、そして唐突に――あの青白い光!→ それはまさしく、ファミリーマートの看板なのではあるまいか?

おれは極度の昂奮におちいり、そのとき空を裂いた、キーーンという音! 赤い炎、爆風、叫喚、怒号。こうしてファミリーマート(かすれたメロディの残滓たちが苦しげに訴えかける!)はたちまち焼失した。

そうして湧きあがった凱歌の、暴力的な韻律。セブンイレブン・いい気分!セブンイレブン・いい気分!セブンイレブン・いい気分!……群衆は嬉々として――セブンイレブン・いい気分!――声をあげる。

かれらは一様にあの赤い制服を身にまとって(=ということは〈国家〉の忠実な犬として?)、右手にはからあげ棒の鋭利な串がきらめく。おれは細い路地に転がりこんで、かろうじてその行進を避けた。

ところが茶色い皮膚がめくれて血がにじみ…………朦朧とした意識のなかで母のなつかしい子守唄………………テレレレテレン・テレレレレ――――ン…………テレレレテレン・テレレレレン……………………ああこれは母のぬくもり!

それならばいま我が母なる大地はセブンイレブンに侵略され――それはあの【7】を、ヒットラーへの忠誠をあらわした「かの紋章」に比肩しうるものとして提出しはしまいか?!

アスファルトから白い光が突き出ている。路地の穴ぼこ。その向うにおれは見た、白と緑の看板+青い英字+青地に白で「酒 たばこ」――それは無数のファミリーマート(テレレレテレン・テレレレレンのメロディが頭のなかを暴れる、暴れる!)の残骸であった。

二万にものぼる亡骸、かれらの悲しい灯り…………。おれは涙をこぼし、その涙が無数の亡骸の上で輝いた――!

突如、大空を渦巻くメロディ――――テレレレテレン・テレレレレン…………テレレレテレン・テレレレレン…………そして、セブンイレブン・いい気分!セブンイレブン・いい気分!――との不協和音!

まさに、大通りにはファミチキが転がっていた! おれは衣を剥いで、肉を噛みちぎる。油がしたたる。この壮絶な共食いを、かの群衆はついに言葉を失って見守った!

ところが群衆はしだいに(そうしてひどく陰湿に=国家的に!)忍び笑いをもらしはじめる。ああ、ようやくおれは気づいた…………いまおれが食らっているのは、ナナチキではないか――――!

身体がゆっくりとナナチキに侵されてゆく…………ふたたび上がる凱歌…………セブンイレブン・いい気分!セブンイレブン・いい気分――――

一銭でも泣いて喜びます。