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今日観た映画について(2/14)

5本の指に入るほど大好きなヨルゴス・ランティモス監督の新作『哀れなるものたち』をようやく鑑賞。端的に言うと、あまりの楽しみに気合を入れすぎていたこともあってか全く入り込めず、勝手にショックを受ける結果だった。(ヨルゴス先生も大迷惑)
『ロブスター』(の前に『籠の中の乙女』があるが)から嬉々として映画館に足を運び、様々な媒体で事あるごとに「好きな監督」として一番にその名前を挙げてきた。もちろん、今作がハマらなかったからと言って嫌いにはなっていないが、今はショックが大きくて上手く感想がまとまらない。(はい、本気のファンです)

エマ・ストーンの演技がどうも苦手、というのも一つの理由だとは思う。こればかりはもう好みの問題で、彼女の演技が上手いとか下手という批評がしたいわけではないので悪しからず。
私は元々ファンタジーやお伽話的なものやグロテスクで可愛いみたいな世界観が大の苦手であり、魔法とかタイムスリップとかテーマパークとか、そういうドリーミーなものを全般的に敬遠していることも影響しているとは思う。(なんとなくそれっぽい気配は感じていたがヨルゴス先生だから観た、ところも正直ある)

ただ、サウンドトラックは本当に気持ち悪くて大成功していた。『フレンチ・ディスパッチ』の(アレクサンドル・)デスプラ先生に追随するかの如し、世界観を完璧に手中に収めていた。
(なお、そんな理由から『フレンチ・ディスパッチ』も結構苦手なまま終わってしまった。一方で『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』は大好きなので、どうやら私なりの境界線が存在している模様)

冒頭からバイオリンのチューニングのズレが本当に気持ち悪く、お願いだから滅多に二人で演奏しないで欲しいと祈るような気持ちでいるわけだが、そこに閉塞感で窒息しそうなリバーブの設定、ベッタベタに平面的な作りと耳障りな音域の多用(これは、ランティモス監督の大好物のひとつですね)など。
おそらく監督の意見もそれなりに反映されているかとは思うが、大変に素晴らしい音楽設計であることには間違いなかった。他の作品でどのように音楽設計をする人なのか、これは期待してしまうね。要チェックだ。

そんなわけで、消化不良気味に映画館を出て「いや、このまま帰れないな」となったので、そのまま続けて『一月の声に歓びを刻め』を鑑賞した。

第二章に出てくる「海」という名の女の子がとても良かった。

監督がこれを描かなければと切実な思いを持って撮ったのだなという気迫は伝わってきたが、それゆえに全体としてはかなり一辺倒に暗くて、気迫に心を打たれたかと言われるとむしろ置いてけぼりをくらったような気持ちになってしまった。もう少し物語を客観的に(ある種の冷酷さを持って)突き放してから作品として吐き出される姿を観たかったな、というのが正直なところ。ただ、作り手が作品を生む時、必ずしもその行程を済ませてから作品として残すべきかどうかは、私も正解がわからない。また逃げるようで申し訳ないが、これも個人的な嗜好の範疇を出ない考え方かも知れない。

ラストシーンの音楽の使い方から意図はある程度理解したものの、それにしたって全体のサウンドデザインはもう少しどうにかならなかったのか... これは、ヨルゴス映画のかなり突っ込んだサウンドデザインの直後だったことも手伝って、より濃く感じられたかもしれない。

ただ、やはりそれはエクスキューズにも何もならない。どこの国で幾らかけて何を作られていようと、映画はただ映画であり、並べなければ悪くはない、は通用しない。このあたりは日本映画のポスト・プロダクション(というかそもそも制作全般)の在り方が変わらないと、流石に日本の殆どの映画と映画人はハンデを背負いすぎているとも思う。何でもかんでも時代に乗れば良いというものではないが、やはり今の時代の働き方や価値観の反映は急務だと思う。少なくとも変革の具体的な道筋は見えていたい。

海外のシステムから必要なところだけを上手く拝借するとして、なんとなく試行錯誤の時期なのか、今のところ拝借しているポイントが少しずれてるようにも思う。日本人的な気質というぼんやりとしているが確かに存在している部分を、しっかりと加味しておかないと、形ばかりの外国ナイズという、いっときのクールジャパンみたいな一番の地獄絵図が繰り広げられそうで怖い。

という、映画関係者との飲み会みたいな内容になってきたのでこのへんで話を戻し、最後にひとつ。

すっごく良かった!大好きだった!という感想を持って観た映画ファンは、こういう批評めいた感想を読んで「ああ、読まなきゃ良かった。好きなものを否定された気分!」と思うかもしれない。(なお、意見の相違は否定とは違うという当たり前のことを、念のため改めて明記しておく)
それから映画業界で働く身として、シンプルに、無責任に好き放題言えない制作事情も少なからず理解できるから、今までは自分なりの謙遜と忖度を持ってポジティブな感想だけ述べられる映画にしか触れてこなかった。

でも、きちんとお金を払って「この作品が観たい」という意志を持って(いる時点で、その作品に期待をしている)最後まで観た作品に関しては、あらゆる種類の感想も、こうして日記に記しておくのも良いかなと思った次第。

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