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宮尾節子賞と受賞のことば。

         <ごあいさつ>

         宮尾節子賞をはじめました。
はじめての方、はじめまして。わたしは詩を書いている宮尾節子というものです。はじめてでない方、こんにちは。いつもの宮尾節子です。わたしはけっこう長く生きて、けっこう長く詩を書いてきました。そして、知ったことがあります。それはそれぞれの人の姿があるように、それぞれの詩の形があるということです。
詩はことばを使った、表現の世界です。そして、

表現の世界が何よりすばらしいのは、まちがいがないこと。正解や不正解がないことです。好き嫌いや旨い下手はあっても、正しいや間違っているがないこと。浅い池や深い池、青い空や灰色の空、小さな鳥や大きな鳥、そして草木。それぞれの池や空や鳥や草木に、ひとつもまちがいがないのと同じ。「おまえは、まちがっている」と誰にも言われない、誰も言えない世界であること。それが表現の世界です。

そんな世界がこの世にあるって、めちゃくちゃすばらしいって思いませんか。わたしは思います。わたしはことばを使って、詩という表現の世界で生きてきました。誰かに頼まれたわけでもありませんし、有名でもないので儲かるわけでもありません。でも気がついたら、好きな世界で人生を三分の二も生きてきました。好きなことをしてきたので、案外あっという間でした。これはそうとう、しあわせな人生だったと正直に告白せねばなりません。

たのしいことやきれいなことばかりを、詩にして表現したわけではありません。りふじんなことやかなしいことも詩にしました。そしていつもすらすら詩を書けたわけでもありません。何年も書けずにくるしんだり、才能のなさにおちこんだりの連続でした。でも、できあがったときの達成感や、ひとに届いたときの喜びを、じぶんには隠せません。いつも、そのかけがえのない喜びに導かれて、生き続けるように、書き続けてこれたのでした。

そして、表現することで知ったもうひとつのすばらしさは、育つこと。表現には育てるたのしさがあることです。推敲によって作品が育つものであるならばと、わたしは思うのです。苦悩によって、人間が育たない訳があるだろうか。つまり、ここをもう少し、何とか…と推敲する作品への苦労が、いつの間にか。ここを何とか…という日々の暮らしの困難な局面でも、あれこれ推敲している自分を発見するのです。作品に立ち向かうように、人生に立ち向かう自分に気づくのです。

あんまり長く詩を書いて生きてきたので、どっちがどっちだかもう見境いがつかなくなったのかもしれません(笑)。ただ、推敲すれば少しはましになるはずだ…その長年の手応えがわたしを導いてくれることだけは確かです。どんなときでも。表現とともに生きることで、身についた。それも、けっこうお得なことだったかなと思います。

さて、周りを見渡すと。世間のいろんなところに、いろんなかたちで表現しながら、生きて暮らすたくさんの方がたが見つかるのでした。表現することで、その場を明るくしたり、楽しくしたり。表現の場を提供することで、存在を輝かせたりする方がたが。そんな素晴らしい表現者・アーチストにわたしからも大きな拍手を送りたい。そして、みなさんにもご紹介したいと思い立ちました。よって昨年11月に、以下の言挙げをしました。

2020年より、「宮尾節子賞」を創設することに決定しました。宮尾が今年はこの人と思った3名(*最初と最後のみ4名)を、毎年12月24日に発表します。賞金はなし。受賞者には賞状・盾・直筆詩、そして各自にことばを贈らせて頂きます。賞の基準は普通に生きててカッコいい表現者です。ささやかな賞ですが、わたしが生きている限り継続します。権威はないけど愛がある、宮尾節子賞。何卒、よろしくお願い致します。

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前振りが長くなりましたが、そのような次第で創設致しました宮尾節子賞。全責任はわたしにある個人賞です。喜んでもらえるといいけど、どうなることかと心配もありました。ところが、SNSで告知したところ思いのほか反響をいただき、期待の声もいただき、告知ツイートはすでに32000回を超えるインプレッション(表示回数)となっております。ご注目いただき、ありがとうございました。

2020年度の第一回・受賞者4名がめでたく決定致しました。おめでとうございます!そして、4名の受賞者さまからプロフィールや受賞のことばが届きました。みなさまにご紹介させて頂きます。ご高覧くださいませ。

*4名の決定理由はこちらを、ごらんください。

        **受賞者のプロフィールと受賞のことば**

かとうたか

かとうたか

コロナの時代。コロナとは何かをまだ誰も知りません。医学的にも政治的にも、そして文学的にも。コロナとは何の暗喩なのでしょう。いま、ぼくたちはひとりです。そして、目の前にいない誰かに絶えず怒りを燃やしています。きっと、いまは停電の夜のように蝋燭に小さな火を灯す時です。スマフォの電源を探さず、遠く離れた誰かに手紙を書く時です。靴下を脱いで玄関の外に踏み出したことがありますか? そこには違う世界があります。足裏に冷たく痛いその一歩が、やがて、ぼくたちを結びつける瑞々しい言葉に姿を変えます。いつか会いましょう。手を握り、抱きあい、笑いあいましょう。この文章を読んでいるあなたに、いつか会えると信じています。その約束を第一回宮尾節子賞受賞の言葉にさせて下さい。

浦邊力

浦邊力

賞には無縁ですが、言葉を使う表現者として、リスペクトしている宮尾節子さんから賞をいただけるのは本当にありがたいです。イットクを実現化して、続けることが出来たのも、スタッフや、出演者のおかげです。特に今年はコロナ禍であったので、スタッフの頑張りは大変だったと思います。元々は僕がただ「表現の自由を守るなら、表現者が国会囲んでロックフェスをやるのが一番早いんじゃないの」とTwitterで呟いただけなのです。いや、もちろん、そこで人が集まってきた時に、その場を守る為に頑張りはしますし、アイディアもありましたが…。初めに僕が提案した名前は「俺の自由はヤツラにゃやらねえロックフェスティバル」でしたが、長過ぎるということだったので、頭に「言っとくけど」というのをつけて、略して「イットク フェス」というネーミングにしたのです。これからも世代を超えて、ジャンル、性、人種、身体的なことも超えて、色んな表現者が共生して、楽しみながら、政府への抗議だけでなく、この国の文化を守り発展させる何かになると良いですね。本当にうれしい賞をありがとうございました。

                 *

Ikoma

いこま

第一回宮尾節子賞、受賞とても光栄です。 宮尾さんから受賞者に贈ることばにあった、自分の「悪ガキ」感(笑)を大事に活動に努めてまいります。 2021年1月現在、世の中は大変な状況になっています、 しかしみんなで楽しく面白くなるようなことを仕掛け、乗り越えていきましょうね! ありがとうございました! 
*photo by 烏賀陽弘道

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市川茜

あかねさん

(インタビューより)
Q1 自己紹介
 A「誕生日は11月1日です。38歳です。」(昭和57年生まれです)
Q2 いつから地活(地域活動支援センター)に通うようになりましたか。
 A「???」(開設した年の平成8年の9月から通っています。
Q3 この賞をもらってどうですか。
 A「とても嬉しかった。」
Q4 誰か伝えたい人はいますか。
 A「お母さん。この前会ったけど伝えられなかった。」(その後も恥ずかしくて伝えられなかったようですが、母親は他から聞いて知ったようです。)
Q5 明日葉は好きですか。
 A「好き。特に『明日葉のツナ和え』
Q6「あした、あしたば、はえてくる」と言う言葉はどういう気持ちで書いたのですか。
 A「明日葉のことを考えてこういう言葉があったらいいな、と思った。」
Q7 明日葉は、採っても明日には生えてくる、と言われているのは知っていましたか。
 A「知っていた。」
Q8 賞を与えてくれた宮尾さんにひと言。
 A「ありがとう!」

茜さんにはこの賞をもらったことを励みにして今まで以上に頑張るようにつたえると「うん、頑張る!」と力強く答えていました。
                *
先日は当施設の市川茜に対して、記念すべき第1回目の宮尾節子賞を与えて頂き誠にありがとうございました。
 年明け早々に賞状・盾・お手紙を頂き、早速皆の前で表彰させて頂きました。本人には伝えないでいたので、突然のことに驚きながらも、とても喜んで泣いてしまいました。又保育園・小学校・養護学校を一緒に過ごし、現在も地活で一緒に活動している同級生の佳澄さんも自分の事のように喜んで二人で泣いていました。茜さん宛の手紙もその際に読んで渡しましたが、本人はもちろんのこと、他の利用者にとっても大変励みになります。職員の我々でさえ見過ごしがちな本人の素晴らしいところに気付いてこのような栄えある賞を与えて頂き、本人と共に職員一同深く感謝申し上げます。
*茜さんの表彰式のようすをブログにあげていただきました。

*インタビュアーは神津島村地域活動支援センター センター長の鈴木明男さんです。鈴木さんからは上記のようなお言葉も頂戴いたしました。恐縮です。茜さん、鈴木さん、喜びが倍になって返ってきた思いです。ありがとうございました!

                ***

4名の素晴らしいみなさんにどうぞ、大きな拍手を!

以上で、わたしのごあいさつと皆さんの受賞のことばを終わります。
もとはと言えば、先の見えないコロナ禍で、だれもの気持ちが塞ぐなか。何かわたしのできる楽しいことをひとつ、とのささやかな思いつきの賞でした。そのささやかな思いつきがやがてわたしの喜びにとかわり、みなさんに賞を贈らせてもらったあとは、大きな喜びにと変わっています。みなさま、ありがとうございました。

この賞がちょっぴりでもみなさんの励みになってくれましたらば、幸いです。

見渡せばすばらしい表現者はたくさんいます。今年もすてきな出会いをたのしみにしています。本年も宮尾節子賞をどうぞご期待ください。

                      2021年1月21日 宮尾節子拝

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