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わたしには夢があった。

遠い昔、わたしはピーターパンではなくフック船長になりたかった。

どうしてフック船長になりたかったか、今ではもう思い出せないけれども、恐らくヒゲがカッコいいだとか義手の鉤爪がカッコいいだとか、そんな理由だったように思う。

小学生のときに書いた「将来こうなりたい」の絵には、観衆を前に矢沢永吉ばりにマイクを片手に叫んでる自分の絵があった。隣には「べんし」と書いてあった。弁護士の間違いだったのかもしれないが、矢沢永吉ばりにマイクを振り回す弁護士なんていないだろ、と過去の自分に突っ込んだ。

今もたまに夢を見る、こうでなかった自分。

それはもう叶えることはできない夢。

そしてわたしは今、インドのコルカタにいる。


仕事で来ているのかって?いや、ただの旅行だよ。俺がインドに来たのはタージマハルが見たかったわけでも、ガンジス川が見たかったわけでも、ブッダガヤで神聖な気持ちになりたかったわけでもない。

ただ、世界で一番混沌とした街に行ってみたかったんだ。それも、ある程度の安全さがあるとこでね。さすがに戦争中の国に行くほど馬鹿じゃない。ただ、旅をしたかったんだ。

きみは沢木耕太郎の『深夜特急』を読んだことがあるかい?

そうそう、大沢たかお主演のドラマのやつだよ。

あの本に憧れてね、時代遅れのバックパッカーってやつをやってみたくなったのさ。このユースホステルに居座ってもう1ヶ月になるんだけどね、なんとも飽きない街だよ、ここは。

きみもここに来たってことはそういうことだろう?

日本じゃ考えられないような衛生環境でさ、豪雨で身体を洗うんだぜ。地面に穴を掘っただけのトイレとか、トイレットペーパーがないって思ったら、手でぬぐってそのきったないバケツの水で手を洗うんだぜ?信じられるかい?

そう、そうなんだよ。嫌いなんだよ、この街。露骨にぼったくってくるし、ほら俺ってちょっと中国人っぽい顔してるだろ?中国人って見られるとタクシーにも乗れやしないんだ。

あぁ、そう・・・。やっぱりきみはまだこの街の魅力に気付いてないんだ。インドに限った話じゃないけどね、この街はヒトの原点を見れるんだ。

ヒトって猿から進化した、ってダーウィンの進化論で説いてるだろ?あの仮説がこの街じゃぁ通用しないんだ。コルカタは差別、貧困、イリーガル、ジャンク、全てが混在していて、そのどれもが人類が進化の過程で置いてきたはずのものが平然とのさばってるのさ。

あぁ、もちろん。きみもこの街に興味を持ってもらえるなら、喜んで。

近くにブルースカイカフェってレストランがある。日本人に優しいから大丈夫さ。あー、っとすまない。今あまり持ち合わせがなくてさ。

お、助かるわー。代わりと言っちゃなんだけど、とっておきの話があるから。



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