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「組織アイデンティティがどのように形成されるのか」について2つの資料から見る

以下のブログと論文には昨今のパーパス経営に関する理論と実践の姿が明確に描かれている。
創業期においては経営者の思想哲学がアイデンティティとして組織に浸透し戦略として開花し、変革期においてはアイデンティティを基盤としつつ、組織の変化対応力が新たな戦略を紡いでいく姿見えてくる。

一つは人事組織の研究ブログに2012年に掲載された『組織アイデンティティはどのようにして形成されるのか』https://jinjisoshiki.hatenablog.com/entry/20120830/1346330649)。もう一つは2020年4月の関西ベンチャー学会誌Vol.12に掲載された『戦略的変化とアイデンティティ・ワークの相互関係』
(高知工科大学 経済・マネジメント学群 石谷 康人氏http://www.kansai-venture.org/wp-content/uploads/2020/04/4ed8951ff1b7466b308cfba8f80adbb9.pdf

1. サマリー
①  『組織アイデンティティはどのようにして形成されるのか』
組織アイデンティティが重要な理由は、会社の存在意義はなんなのか、本来的にどのような事業領域においてどのような目的のもとで活動をしているのか、自分たちの会社がどの方向に向かっているのか、どのような企業戦略を推進していくのかといったことについてメンバー間の共通理解につながる。組織アイデンティティがしっかりと確立していれば、いろんな面において「軸がブレない組織」になることができる。
組織アイデンティティの形成は、2つの異なるダイナミックなプロセスであると考えられている。
1つ目の「社会アクター理論」で強調されるのは、「私たちはどうあるべきか」という(とりわけ経営トップなど組織を代表する人々の視点)が明示的に示されることにより、それが組織アイデンティティとなっていくというプロセスである。このプロセスは、組織メンバーに対して、自分たちの組織の「中心的、持続的、独自的」な属性はどうあるべきなのかという「アイデンティティ主張(identity claim)に関する意味づけを与えていくという意味で「意味の付与(sensegiving)」と呼ばれる。
2つ目は、社会構成主義的視点(social constructionist perspective)に基づく「アイデンティティ理解(identity understanding)」が集合的なものとして形成されていく意味形成(sensemaking)プロセス。社会構成主義的視点は、「現実は社会的に構成される」という考えであり、組織メンバーがお互いに「自分たちは何者なのか」について語り合うことによって、組織アイデンティティが次第にそれがメンバー間の共通了解として確立されていくプロセスを強調する。組織に関する「中心的、持続的、独自的」な意味がメンバーによって形成されることによって、アイデンティティ理解(identity understanding)が生まれるという意味で「意味形成(sensemaking)」と呼ばれる。
近年の組織アイデンティティ研究では、このアイデンティティ主張に基づく意味付与(sensegiving)プロセスと、アイデンティティ理解をもたらす意味形成(sensemaking)プロセスのダイナミックな相互作用あるいは「摺り合わせ」のプロセスによって、組織アイデンティティが形成されるという考え方が支持されている。意味付与は主に組織の創業者やリーダーによってトップダウン的に行われ、意味形成はそれを受けるような形で組織のメンバーのよってボトムアップ的に行われるのが一般的ではないかと思われ。これは、組織の誕生時においてアイデンティティが形成されるときのみならず、組織変革によって、組織アイデンティティが変化するプロセスや、組織アイデンティティが危機に陥ったときの回復プロセス、組織アイデンティティを維持するプロセスなどについても適用できる理論枠組みだと考えられている。
 
②  『戦略的変化とアイデンティティ・ワークの相互関係』(論文内引用元は削除)
組織のアイデンティティとは、「個人の集合である組織を一つの主体として捉え、その主体がどのような存在か、あるいは自分らしさとは何かについての自己認識」である。
組織は戦略を通じて価値のあるアイデンティティをイナクトし、表現することができる。組織は戦略とそれが引き起こす反応からアイデンティティを暗示、修正、または肯定することができる。したがって、組織アイデンティティの開発プロセスであるアイデンティティ・ワークは、戦略的実践の構成要素となる。
以下、兼松エンジニアリング株式会社の事例研究により検証。
同社のアイデンティティの開発プロセスでは、まず、経営者が強力吸引作業車ひいては汚泥処理を得意とする環境整備機器の開発・販売と、スピード修理を可能とするアフターサービスを戦略の要であると認識し、その上で「我々はどのような存在であるか」を表明した。それは、連絡、会議、集会イベントなどを通じて社内に周知され従業員にもアイデンティティへの共通認識が生まれた。
理念:【兼松エンジニアリングは人にやさしく、自然にやさしい、心豊かな活力ある技術集団を目指す企業です。「エンジニアリング会社」「技術の兼松」と言っても、決して“ハイテク”の集団ではありません。どちらかと言えば“ローテク”をベースに経験を積み上げてきた技術者の集団です。経験を踏み台に次の新しい事に挑戦していく、その活動の源泉はユーザーニーズです。ユーザーニーズを追い求めた結果が今日の兼松エンジニアリングです。 社会や人々に貢献し、土佐にあって土佐にない企業であり続けたいと考えています。】
同社は、ニッチ市場で持続的競争優位を確立するなかでユニークなアイデンティティを形成し、それを源泉として組織的実践を重ねている。同社の事例は、①ニッチ市場でシェア80%という極めて優れた業績を上げていること、②競争戦略の実践を経てユニークなアイデンティティが形成されている。

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