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私の本棚【国際協力・開発】

今回は前回までのポストと打って変わって閑話休題。
私の本棚を不定期で紹介したいと思う。

プロフィール欄に書いているとおり、私は読書メーターで読書記録をつけている。折角記録をつけているのだから、何とかもう少し活用できないかと思い、今後はある程度ジャンルごとにまとめて、このnote上で少しずつ公開していきたいと思う(需要は全く不明・・・苦笑)。

まずは国際協力・開発分野ということで、正直誰が関心あるのかという感じもするが、あくまでも自分の読書記録の棚卸の意味も含めて、過去読んで印象に残った本たちとその読書記録を転記する。
どちらかというと実務者ではなく、学問として勉強したい人向けかも。

1. 野蛮から生存の開発論―越境する援助のデザイン (2016) [著]佐藤仁

国際開発の学際性とその射程の広さ(地域・時間)を感じさせてくれる一冊。開発研究ではどういうテーマが扱われているか概観するにはもってこいの一冊。開発援助では関わる主体が多く、意図的に責任が曖昧にされてしまうことがあるという指摘は思い当たる節があり耳が痛い。また日本には援助を取り仕切る一元化された組織がないことから、民間の参入余地が生まれ、他国と比べて援助人材の裾野が広いというのもなるほどと思った。その他にも著者の専門の資源論や日本のODA前史など、興味深い開発援助のトピックが縦横無尽に取り上げられている。


2. 知的実践としての開発援助―アジェンダの興亡を超えて (2007) [著]元田結花

冗長であるが、興味深い内容であった。国際開発の理論だけでなく実践の趨勢にも触れられている点が類書とは異なる。実務家は現実の複雑性を取捨して、一般性の高い内容や単直線的な考え方をする傾向があるとの指摘は耳が痛い。国際機関の委託で人類学者が作成した長大なレポートが、2行に矮小化されて実務化のレポートに転用されている例などは思いたる節がある。実務者としては、現地の複雑性に目を向けるためにも、余裕をもって業務に取り組めるような環境整備が望まれる。


3. 開発援助政策(2011)[著]下村恭民

なぜ開発援助が行われるかを①国際規範、②国際摩擦の緩和、③国内政治の帰結、の3点から説明する。開発援助の類書ではどうしても①に重きの置いた綺麗なストーリーで援助の実態が語られることが多いが、本書は国益や国内アクターにも目配りして、②・③から援助が説明させている点が興味深い。特に③の例として挙げられている対中円借款停止の政治過程が面白かった。対中円借款停止は中国の経済力の上昇が要因だと思っていたが、実際は停止が決められた時点で、DAC基準では中国は「低中諸国」に分類されていたというのは驚き。


4. 開発援助の社会学(2005)[著]佐藤寛

面白い。一気に読んでしまった。開発援助のもつ権力性を炙り出しつつ、実際のプロジェクトの成功例と失敗例を挙げて、実務家や研究者が気をつけるべき点を沢山指摘している。「短期間調査にやってきたドナーが思いつくようなことは、既に現地人は検討済み」というのはまさにその通りであり、ドナーはあくまで自分が一時的な部外者であることを自覚した上で、何ができるか誠実に現地の人と向き合うことが求められる。途上国では汚職はよく見られるが、かくいう日本も19世紀には公務員が賄賂を要求することがあったとは知らなかった。


5. Development: A Very Short Introduction(2018)[著]Ian Goldin

良書。150ページと短いながら、国際開発にまつわるほぼ全ての話題を網羅しているのではないだろうか。開発論の端緒でありつつ、類書ではサラッと触れられて終わりがちな1950年から1960年代の近代化論もコンパクトながら丁寧に説明されている。また著者の専門である移民の記述は興味深く、頭脳流出だけでなく、送り出し国への技術の伝播などの面でポジティブな影響もあることが言及されている。これまであまり開発と移民の関係については考えたことも無かったが、今後著者の別の著作を読んで学んでみたいと感じた。邦訳なし。


6. The Idealist: Jeffrey Sachs and the Quest to End Poverty(2013)[著]Nina Munk

「貧困の終焉」で著名なジェフリーサックスが2006年に立ち上げた、ミレニアムビジレッジプロジェクトの軌跡と顛末を追ったルポ。サックスのアプローチはアフリカの現実の複雑性を見落としており、貧困の改善には寄与しなかったという結論。また持続可能性や成果の評価可能性の観点からも問題を孕んでいた。この本を読むと開発援助の難しさに圧倒されるが、サックスのアプローチを否定するあまり、援助そのものに冷笑的になってもいけない。現実の複雑さや制約の中で試行錯誤していくしかない。


7. 国際協力の戦後史(2020)[著]荒木 光弥[編]末廣 昭、宮城 大蔵、千野 境子、高木 佑輔

この本を読むことで、日本のODAやJICAが政治的妥協の産物から生まれたことがよく分かる。ODA実務者の中には、援助は「慈善」であるべきという考えを持つ人もいるが、この本を読めばODAそもそもの成立から政治や外交と密接に関わっていたことがよくわかると思う。 人材育成の考えに親和的なのは財務省で、外務省は新しいことを始めたがるので継続的な人材育成を軽視しがち、という指摘は興味深い。


8. 国際協力の誕生[改訂版](2017)[著]北野収

良書。本の主題は巷によくある「国際協力」の政治性を明らかにするものであるが、その手法として「国際協力」という言葉が日本で生まれた政治的背景、業界誌の途上国写真の変遷、そして国際協力の先達(拓殖学)の回顧録の読み解き、といった多角的な視点を持ち込んでいるのが面白い。流行りの「日本の開発協力の経験を途上国に」という動きの中に、ナショナリズムの芽を見ているのも興味深い。国際協力に関わる人はその政治性や権力性を自覚しつつ、グローバル化や国民国家の理論といった「大きな物語」に絡み取られないようにしなければならない。



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