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当院のFMT ,season2022-23

昨日は腸内フローラ移植臨床研究会の学術大会での見聞を元に、近い将来『菌が駆逐する対象から守るべき対象に変わっていく』潮目の変化を書きまました。
僭越ながら私も研究会のメンバーであり、動物へ腸内フローラ移植(糞便微生物移植:FMT)を行っているので少しばかり紹介させていただきます。(もちろん個体特定にならない範囲で。)

2022年7月からこれまで22例(犬19例、猫3例)にFMTを実施しており、主徴候は皮膚疾患、消化器疾患、慢性腎臓病、問題行動、内分泌疾患。特に適応が決められていることはなく、主治医(私)が《ディスバイオーシス(腸内フローラの乱れ)が素因にあり、それを是正することで病状の改善が期待される》と判断したケースで、飼い主さんへ提案・説明し、承諾を得た動物に行っています。

水素NanoGas®水で希釈した菌液を注腸で投与(1週間毎に6回)する方法で、事前の抗生剤や全身麻酔は不要、処置自体は1~2分で済みます。

浣腸容器に菌液を入れて注腸しています

さて、気になるのは「どのくらい効果があるか」と「本当に安全なのか」ですよね。
まずは安全性ですが、今のところ"非常に低リスク"と考えています。事前説明と承諾書では、腹痛や便秘下痢、湿疹、発熱、沈鬱などの副反応をお伝えしますが、顕著な徴候は未だ経験なく、全例で途中離脱なく6回投与まで完了しています。新しい治療法のため、長期的な検証は十分ではないですが、FMT後すぐに具合が悪くなるものではなさそうです。

効果は、確認できず~著効までさまざまです。
著効例では他の治療をすべて離脱できたこともあります(決して多くはないですが)。栄養療法などを組み合わせて症状緩和や減薬できたり、主徴候の改善には至らずも毛質や体格に変化(若返り?)が認められたり、腸内フローラの変化が体質に影響している感触を得ています。
人間の患者さんでは【フローラバランス検査】でbefore/afterの腸内フローラを調べる事をされていますが、動物では行っていないのであくまで臨床兆候からの判断です。(海外ではディスバイオーシスインデックス:DIという指標が検査可能なので早く国内にも導入してほしい。。)

当院の看板犬ぽんず:before
毛色が濃くなった:after

少ない経験ながらも考察されることは、
《ディスバイオーシスは病気の主因のことも副因/増悪因子のこともある》
つまり、FMTで治療を離脱できた(完治した)例はディスバイオーシスが病気の原因(=主因)であり、完治には至らずも症状が緩和された例では主因は別にありディスバイオーシスはそれを強める(=増悪)のかもしれない。

私は現代の多くの不調の原因にはディスバイオーシスが関わっていると考えていて、FMTは直接ないし間接的に不調の緩和に役立つと期待しています。
反対に、菌を弱らせる抗生剤や除菌文化はディスバイオーシスを助長し、人を含む動物の不調をさらに増やすことを懸念している。

FMTは将来誰もが当たり前に受けられる治療に発展して欲しいと思うけれど、とはいえリスクゼロの医療は現実的ではないし(※安全性が高い≠リスクゼロ)、そもそも他人の便を移植する心理的抵抗を乗り越えるのは簡単ではないですよね。
だとしたら今できる事は《菌を摂る》と《菌を育てる》つまり発酵食品や食物線維、オリゴ糖などを食べたり、自然に触れ適度な運動などで腸を刺激しストレス耐性を高めていくことなのでしょう。

みなさんの腸内フローラは元気ですか?

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