【テキスト】スキマゲンジ第39回「夕霧」その3

前回のあらすじ。
夫柏木を亡くし、母親御息所も亡くしてしまった落葉の宮は出家を考えますが、父である朱雀院がそれを許しません。

スキマゲンジ第39回「夕霧」その3。
慣れぬ恋路の行く末は。

夕霧は一条の邸に落葉の宮が帰れるように改築を進めます。宮が思い余って髪を切ってしまわないように、身の回りから鋏や刃物は隠されてしまいました。そうして、夕霧はついに、一条の邸を落葉の宮と自分との新居として公表し、そこに大々的に宮を迎えるのでした。それでも宮は夕霧を受け入れることがありません。

夕霧が三条の邸に戻ると、雲居の雁は目を合わせようともしません。p被っている夜着を取りのけると、雲居の雁は「私はもう死んでしまいました。私のことを鬼だ鬼だとおっしゃるから、もう本当の鬼になってしまおうと思っています」と言います。夕霧が「鬼より怖いかもしれませんね。でも、顔は可愛らしいから嫌いにはなれないんですよ」と言うのを、何事もなかったかのようにと不愉快に思って「美しい人たちの中には入れない私ですから、どこにでもどこにでも行ってしまいます。思い出したりしないでくださいね。長い間一緒にいたことさえ後悔してるんですから」と起き上がった雲居の雁の可愛い顔が真っ赤になっていて、とてもかわいらしいのです。

「すぐに子どもみたいに腹を立てるから、見慣れてしまって、この鬼は怖くなくなってしまいましたよ。もっと怖い感じにしなきゃ」と夕霧が冗談にしてしまおうとします。「何を言ってるのよ。おとなしく死んでしまいなさいよ。私も死にます。見ていれば憎いし、噂を聞けば不愉快だし。私だけ死んだら後が気がかりだし」と言う雲居の雁がますます可愛らしいので、「死ぬときは一緒だという約束を忘れずにいてくれたのですね」などと、夕霧はしきりに機嫌を取るのでした。

一条の邸では、まだ落葉の宮がかたくなな態度を取っています。嘆く夕霧をかわいそうに思う女房たちがそっと落葉の宮の籠っている部屋の鍵を開けて、夕霧を招き入れるのでした。

宮は、柏木が自分のことを「落葉」だと呼んだことに傷ついていて、その頃よりも容貌が衰えているのだから、夕霧を受け入れてもすぐに夕霧も自分から去っていくのだろうと思って、打ち解けることができないのでした。

それでも、外から見れば新しい夫婦の生活が一条の邸では始まっているように見えるのでした。

それを雲居の雁は耐えられなく思い、父である太政大臣の邸に方違えに行くと言ってでかけるのでした。夕霧が迎えに行っても出てきません。太政大臣は落葉の宮に「息子の妻だという縁であなたをかわいそうに思ってきましたが、恨みのたねにもなりそうです」という文を送ります。宮はこういうことになることがわかっていたので返事も書きにくく思いますが、無視することもできません。「こんな数ならぬ身など捨ててしまいたいとも思うし嘆かわしいとも思います」とだけ書いて送るのでした。

こうして、落葉の宮はますます不愉快に思っていますし、夕霧も嘆いてばかりの日が続きます。夕霧には子どもがたくさんいて、どの子どもたちも可愛らしく優秀な所だけは理想的なのですが。

次回スキマゲンジ第40回は「御法」の巻。紫の上の病が重くなっていきます。
巨星墜つ。お楽しみに。


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