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清風堂のおすすめ vol.1(2023/9/9)

これから清風堂書店のおすすめ情報をまとめていきます。


 今週出た気になる本・これから出る本・フェアのお知らせ・スタッフによる読書感想などがメインです。本は年間7万点(!)が出版されていると言われますが、そのなかから選りすぐりの本を紹介していきます。定期的に配信したいところですが、週に1本公開できればベスト、できなかったら仕方がないとゆる~く考えています。温かく見守っていただけると幸いです。

2023 スパイスカレーフェア

 おとなりのビルにある人気店「喫茶サンシャイン」、大阪の出版社「インセクツ」とのコラボフェアです。

 喫茶サンシャインのドリップコーヒー・水出しアイスコーヒーをご用意しております。カレーを食べた後のアイスコーヒー、最高ですよね。そして棚に並ぶスパイスキットからは、ほのかにスパイスの香りが。キットは全10種類ございますので、お好みの香りで選ぶのもまた楽しいかもしれません。もちろん、カレーやコーヒーに合う本も置いてますよ。

 カレーを食べて、コーヒーを飲んで、本を読んで…。この棚ひとつですべての欲を満たせる、欲張りなフェアとなっております。

『会社員の哲学 増補版』のサイン本ございます

 柿内正午さんにご来店いただいたのは6月10日。スタンダードブックストアのイベントに出演される関係で来阪し、大阪の書店めぐりをされていたのでした。日記にそのようすが描かれているので、ぜひこちらもご覧ください。
 じつは私もそのイベントに参加したのですが、スタンダードブックストアにとって最後のイベントということもあり、とても印象的な一日となりました。参加者みんなでお酒を飲みながら、という雰囲気も相俟って素晴らしいイベントでした。

ギラギラしていたり、いやな感じの俗っぽい本も揃えつつ、人文書に添えられたさりげないポップの文言が密やかなしかし力強い反骨を滲ませていて頼もしい。資本の只中でなけなしの抵抗を滑り込ませる。非常に『会社員の哲学』が似合うお店だ。

2023.06.10の日記より

 今年いただいた言葉のなかで、いちばん嬉しいものとなりました。ありがとうございます。

 『会社員の哲学』は当店でもよく売れています。先日売り切れたタイミングで追加注文をお願いしたところ、サイン本を送っていただけることになりました。当店と深いかかわりのある、カール・マルクスのイラストを添えていただいています。当店限定の、特別なサイン本です。まだすこし在庫ございますので、この機会にぜひ。(谷垣)

使う側ではなく、使われる側のための哲学。
万国の会社員よ、ゆるやかに団結せよ!
マルクスのイラスト入りは当店だけ?

『つくる人になるために』フェア

『つくる人になるために』
光嶋裕介・青木真兵・青木海青子(イラスト)/灯光舎

 本書が刊行されることを事前に知っていたので、発売と同時にフェアを行いたいと考え、灯光舎の面高さんから特別にゲラをいただきました(無理なお願いをしてしまいすみません)。本書には数年にわたる往復書簡が収められているのですが、話題が次から次へと変わっていきます。話が脱線していくようにみえて、じつは「つくる人になるために」というテーマはずっと通底している。時間をかけて進んでいく往復書簡ならではの一冊です。

 著者のお二人がいたるところで、ありとあらゆる本を引用しているのも本書の特徴です。そのなかでも青木さんが紹介されている本の量が圧倒的に多い。青木真兵さん・海青子さんは私設図書館 ルチャ・リブロを運営されていますが、ご著書にもその理念を反映されているのかしらと、なんとなく感じます。一冊の本からさまざまな本へと橋渡しするという意味で、本書は「相談に乗ってくれる司書」のような役割を担っています。

 ぜひ、店頭で実物を手に取っていただきたいです。電子書籍も便利ですが、灯光舎さんが手がける本は紙の本の価値にあらためて気づかせてくれます。今回の『つくる人になるために』には封蝋を模したシールが貼られ、その色は全四種。本文に使われている紙も独特です。この文章を書いている時点で、サイン本は残り一冊。おはやめに!(谷垣)

<注目の社会・人文書>

 社会・人文のジャンルを中心に、注目の新刊をご紹介します。
 内容についてはリンク先から目次をご確認いただくとして、このコーナーでは「なぜこの本が重要なのか」を中心にお伝えしたいとおもいます。

『<フェアネス>を乗りこなす』
朱喜哲(ちゅひちょる)/太郎次郎社エディタス

 副題は「正義の反対は別の正義か」。装丁もあいまって、刊行される前からとても気になっていた一冊です。帯に書かれたことばにも興味をそそられます。

正義は暴走しないし、人それぞれでもない。

本書・帯文より

 最近よくSNSで見かけるのが、これと真逆の言説です。他者の意見に対して、うがったものの見方をする人が増えてきています。それらは歴史修正主義という禍々しいかたちで噴き出すこともあれば、アンチ・リベラルとしての「逆張り」とみなされるケースがあります。

 たとえば、「ナチスは良いこともした」という言説があります。ナチスにはホロコーストという負の面もあるが、アウトバーンを作ったり、失業率を低下させたのだから良い面もあったのだというものです。しかし、たとえば失業率低下については、若者・女性が労働市場からいなくなったことが要因とされています(注1)。さらに、いなくなった若者の多くは徴兵され、女性は(福祉としてではなく戦争遂行のための)結婚奨励のために家庭に戻っていったという背景があります。それでも「ナチスは良いこともした」と言えるでしょうか。

 たしかに、物事には良い面と悪い面がありますが、現実には私たちは総体的に価値判断をしています。物事には良い面も悪い面もあることを前提として、私たちは意見を発信し、行動するのではないでしょうか。その前提を突いて問題をひっくり返そうとする人たちは、物事を相対化しているだけなのです。

 こうした言動はかたちを変えて、日常生活にも浸透しているといえます。たとえば、価値観の違いを「人それぞれだよね」で済ませてしまう。価値観のすり合わせがなされた結果としての「人それぞれだよね」であればまだよいのかもしれませんが、対話そのものをキャンセルしてしまう「人それぞれだよね」もあります。どうせ話しても無駄だからという理由で、対話することそのものを拒否してしまう。

 前置きが長くなってしまいましたが、本書がテーマとする「正しいことばの使いにくさの根源を探る」とはつまり、あらゆる「ことば」の意味が相対化されていく世界のなかで、「ことば」をどのように使えば「フェアネス=公正」を実現できるのかということです。「正しいことば」を使うのに躊躇したり、息苦しさを感じたりしたことはありませんか。そんな方にぜひ読んでほしいとおもいます。

 ちなみに今年は『言語の本質』(今井むつみ/中公新書)が15万部を突破するなど、言語学が脚光を浴びています。商品紹介によれば「ChatGPT時代の必読書!」という位置づけのようです。たしかに、AI・ChatGPTは生活のあらゆる場面で登場するようになりました。それにつられてメディアも「AIに仕事を奪われる!」と煽りがちです(書店もメディアのひとつですので自戒を込めて)。しかし、それはあくまでもビジネスの観点から見て言えること。そもそも私たちにとって「ことば」はもっとも身近なものであり、日常生活や政治を支える根幹です。今回ご紹介した『<フェアネス>を乗りこなす』は人文書ではありますが、広く読まれてほしいです。

 先日、朱喜哲さんが来店されました。サイン本を作っていただいています。ありがとうございます!(谷垣)

(注1)「ナチスは良いこともした」という虚妄 通説「アウトバーン建設 = 失業率低下」もほぼ間違いだった


 以上、清風堂のおすすめ情報でした。このほかにも、「店員がもちまわりでコラムを書いたらおもしろいのでは?」という意見も出ています。実現するかどうかは、まだわかりません。今後の配信もお楽しみに!

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