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聴いてもらいたいから、カバー「唇によだれL'eau à la bouche」



可愛い偽悪者


「唇によだれL'eau à la bouche」は、セルジュ・ゲーンズブールSerge Gainsbourgの数ある楽曲のなかでも、なかなかの名曲です。
僕は個人的に大好きです。
けど知り合いに勧めると、総スカン。
特に女性陣から「気持ち悪い」と、人気ゼロ。
え?なぜなぜなぜ??
 
主人公の男性が女性を口説いています。
でも「おまえが欲しい」とも「あなたを愛しています」とも言わない(言えない)。
ただ「よだれがでる」と言います。
そのくせ「信じてくれ」「怖がるなよ」と、一貫して〈お願いモード〉。
何なのでしょう。

実を言えば、彼がほんとうに望むのは、彼女とのロマンチックな逃避行なのです。ただそれだけなのです。

だから実際に彼がするのは、口づけだけ。
それ以上は何もしない。
敢えて一線を超えて、拒絶されるのは怖いし、そもそもそれが第一の目的でもない。
歌詞の最後の最後が、主人公のよだれの唇ではなく、接吻をする女性の唇である点も、示唆に富みます。つまり最後の最後に大事なのは「自分の欲」ではなくて、「君の愛」と言うわけ。

これは、背伸びして、強がって、キスしかできない、可愛い偽悪者(あるいは小悪魔)のラブソングなのです。
偽悪者は偽善者よりも愉快な存在だと、僕は思います。
(学校の道徳の先生は同意してくれないでしょうが。)

女のひとから気に入ってもらえるために


けれども、もしかしたら女性はこの歌を、変質者による性行為強要の歌だと、誤解しちゃうのではないかしらん。
だとしたら、この楽曲がかわいそうだ!この楽曲を救いたい!!

僕は膝を叩いて思いました。
そうだ!女のひとが歌えばいいんだ!
女のひとが「誘惑」をコンセプトにして歌えばいいんだ!

さっそくYoutubeで女性歌手による「唇によだれ」のカバーを探しました。
例えば日本なら山本リンダさん、イタリアならサブリナ・サレルノさん、アニメなら峰不二子さんみたいな、肉感的で、男を食い物にできる、おとなの女が歌うカバー曲が聴きたいなあ、と。
でも残念。見つかりませんでした。

けれど、バネッサ・パラディVanessa Paradisによるカバーは見つかりました。
彼女の、キュートで、男に媚を売らない、中性的な元気のよさが、それはそれで悪くなく思われました。


女性バージョンで歌詞を訳せば、こんな感じかな。
以下抄訳。

Ecoute ma voix écoute ma prière
(あたしの声をきいて あたしの頼みをきいてよ)
Ecoute mon cœur qui bat laisse-toi faire

(あたしの胸の鼓動をきいてよ)
Je t’en pris ne sois pas farouche

(暴れないで、お願いだから)
Quand me viens l’eau à la bouche

(あたしが舌なめずりをしているときは)


Laisse toi au gré du courant
(流れに身を任せ)
Porter dans le lit du torrent 

(急流に乗って)
Et dans le mien

(ベッドのなか)
Si tu veux bien

(もしもいいなら)
Quittons la rive

(一緒に岸を離れましょう)
Partons à la dérive

(成り行きに任せて旅立ちましょう)
Je te prendrais doucement et sans contrainte

(優しくつかまえているもの、大丈夫よ)
De quoi as-tu peur allons n’aie nulle crainte
(何が怖いの、さあ、心配しなくていいの)

Cette nuit près de moi tu viendras t’étendre
(今夜、あなたが泊まりに来る)
Oui je serai calme je saurai t’attendre

(あたしはあなたを静かに待てる)
Et pour que tu ne t’effarouches
(あなたがおびえて逃げ出さないように)
Vois je ne prend que ta bouche
(ほら、あたしはあなたの唇しか奪わない)

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